第4回 南のシナリオ大賞 最終審査会ドキュメント

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総評

盛多: これだったら誰からも文句が出ないだろうと思われるような、際立った作品がなかったですね。こんなムチャクチャなやつあるのか、みたいな、破天荒な作品もなかった。なんとなく手馴れた平均点のものばかりで、選ぶのが難しかった。

香月: 去年は応募作のレベルがあがったなという驚きがあったけど、今年はそういう驚きはなかったですね。

副島: いいところに目をつけたなと思えるのに、踏み込みが足りない。作者が、なぜそれを描きたかったのかというのが伝わってこない。良いネタを掴んでいるのに、ありきたりなテクニックで1本仕上げちゃった、みたいなものばかりで。作者の目的が見えないんですね。なにか伝えたいものがあるからラジオドラマという形式を用いて、その思いなり考えなりを表現しているのでしょうけど、それが見えてこない。妙に手馴れて、エンドマークまで書いちゃったみたいな。もう少し踏み込んでくれたら良い作品になるのに。惜しいですね。

皆田: 上っ面なんですよ。例えば、戦争の話を取り上げるのはいいんだけど、それを題材に書くのならその当事者としてのセリフがないと、設定を借りただけの薄いドラマにしかならない。スポーツマンを主人公にしたのなら、そのスポーツをやっている人間にしかない思考とか人生観があるわけで、その中から出てくるセリフがないと浅いドラマで終わってしまいます。

香月: 全体的に踏み込みが足りないのは、非常に目立ったですね。せっかく良い設定であったり良い思いつきであったりするのに、それが完全に消化されていないというか、筆先だけで書いているようなのが多くて。コンクールがあるから、じゃあ出してみようか、といった感じで書かれたみたいな。自分の内側から突き動かされる情感だとか、あるいはモチーフだとか感じられなかったのが多かった。すごく一般的で。深い感動をもたらす作品が今年はなかった。

舟越: いまの日本社会にはドラマとして書き込める素材がいっぱいあるのに、そこから逃げてる気がする。せっかくドラマを作るんだから、もっと今の世の中の問題点を拾い出していくべきじゃないかと思うね。

香月: 「引きとり手のない遺体」はどうでした? 社会性のある作品だったと思いますが。

「引きとり手のない遺体」

舟越: 自己主義の現代の世相を、エゴイズムをもっと描いていけば作品に幅が出たんじゃないかと思いますね。もっと世相を深くえぐっていけそうな素材なのに、表面だけで流れている。それまでまったく疎遠だった従兄弟が、死んだおばあちゃんの遺品を全部、遺された財産をそっくり持っていったでしょう。いまそういった事件は多いよね。だからもう少し突っ込めなかったのかと。こういう話はもっとドロドロしているでしょうが。もっともっと、エゴとエゴをぶつけあわせていたら良い作品になったんじゃないかと思うね。

二次審査

「朗読の仕事」

舟越: これ面白かったよ。

香月: 面白いけど、イジメの人間関係がわりと月並みなんですよ。

副島: 導入部がメチャクチャ。いきなり携帯に NPOを名乗る男から電話がかかってきて、こんな仕事があるんですと言われてノコノコ出かけるなんて。こんな怪しいものに引っかかる人間いませんよ。少なくともインターネットとか使ってどんな組織なのか調べるでしょう、常識的に。

舟越: 導入部はけっこう推理的な趣向があるじゃないですか。ミステリーですよ、これは。なんだ? 1万円? この先どう展開するんだろうって。どんどん引っ張られていく。

副島: 大江健三郎の「奇妙な仕事」ってあったでしょう、遺体処理場でアルバイトする話(注)。あれに似た雰囲気がムンムンしていて良かったんですよ、延命処置されているベッドの傍で朗読している場面とか。
(注)「死者の奢り」の誤り。「奇妙な仕事」は犬を撲殺するアルバイトの話

盛多: 大江健三郎のレベルまでいかない。それはないな。

副島: それに似た雰囲気を持っている、と言ってるんです。

盛多: ドアを閉めて消えてゆくってところの響きがどうなるか。雰囲気としてはこのラストシーンを買うんですが。

香月: 出て行く音はラジオでは表現しにくいですよ。映像だとよく分かるんだけど、音だけで読むと分かりにくい。映像にしたら面白いと思うんだけど。

副島: あと、この作品はオチのつけかたが好きになれないんです。主人公が罪の意識を味あわされる、そこから先にドラマがあると思うんです。その罪を自分の中でどのように消化させて生きていくかというのが大きなテーマで、あそこで終わるのは卑怯というか、作者にはもう一歩先を考えて欲しかったんですけど。

盛多: この筆力では難しいですよ、そこまで持っていくのは。

皆田: 植物人間だったのが、最後に起き上がって部屋を出て行くところに、ちょっと惹かれたんですよ。えっ生きてたの、みたいな飛躍があって。

香月: 「ジョニーは戦場に行った」という映画に、これとそっくりな場面がありました。

「高崎家の嫁」

舟越: 「高崎家の嫁」はよく出来てた、と私は思った。ただ最後がちょっと甘い。クライマックスで嫁が反抗するときの言葉遣いが、ちょっと気になった。

香月: でも、感情がキレたらあんな風に罵詈雑言を吐く女性はいるんじゃないですか。

舟越: これまで仕えてきた嫁が、あんな言い方はしないと思う。やっぱり「です」とかね、そういう風にしか喋ってないはずなんだと、ぼくは思う。

盛多: ラスト、鰤が実父に送られていて、それを嫁が取りに行くって終わり方だけど。そこを、どう理解すればいいのか分からない。

香月: 自分の実家に届けられているのを知って、感動したってところで終わってたら良かったのにね。それを取りに行って、自分の家で料理するでしょう。それでややこしい感じになってる。ちょっともたつくんだよな。

舟越: 人間と人間のぶつかり合いはよく出ている。他の作品にはない魅力だと思うよ。

香月: 作者は24歳の男性です。

盛多: 24歳の男性が書いているのは驚きだ。

副島: このような嫁姑の確執を描く場合、手本となるドラマはけっこう揃ってますから。ちょっと手馴れた人なら簡単に書けるタイプのシナリオですよ。作家性ということを考えたら、これはあまりにも消極的すぎると私は思います。

香月: 新人作家として一歩踏み出したところがない。

皆田: まあ、教科書どおりで新味はないですけど。嫁鰤(よめぶり)の話はストーリーによく馴染んでいるし、福岡を舞台にしたドラマという意味でうまく書けていると思いますけど。

副島: 24歳の男性がほんとうにこれを書きたかったのか、作者の本音が見えません。達者であるのは認めますけど。去年、空き缶潰す嫁の話(福岡県知事賞「耳の暇」)があったじゃないですか。嫁姑のテーマで書くのだったら、あのくらい洗練された作品が私は欲しいんです。

香月: あれは作者のオリジナリティがあったからね。これはオリジナリティ全然ないものね。若い人がこんなの書いてたら希望がなくなるな。24歳だったら「朗読の仕事」とか「喫茶犬」みたいなもの書くべきですよ。

「とりあえず」

副島: 傷心の主人公が九州・沖縄にやって来て癒されて明日への活力を取り戻す話って、応募作の大半がこのパターンだったでしょう。同じようなの何本も連続で読まされて飽きちゃってる。

香月: 新鮮味がないんだよね。

盛多: 展開はタルいんだけど、「とりあえず」というのが結局自分に合った生き方なんだってメッセージ性に、ちょっと新しさを感じた。しかも女の子ふたりの会話だけで展開させている。

副島: 屋久杉のような大木だって、なろうとしてなったんじゃない、杉の子がとりあえず生きていて大木になるんだってテーマは、清々しくて良いんですけどね。

香月: 屋久島じゃ千年までは屋久杉って呼ばないんですよ、小杉って呼んでいるんですね、向こうの人は。そのあたりのことを上手くストーリーに組み込んでいる。

盛多: しかし、「とりあえず焼酎」ってラストは如何なものかと。

香月: あの焼酎ってセリフは、ドラマの終わり方を変な風におとしちゃってるよね。

皆田: 屋久島の自然の描き方が、ラジオよりも映像向きかなって気がします。音がピタっと消える場面なんかは効果的かなって思いましたが。

「喫茶犬」

香月: 作りにくいタイプのドラマだけど、かえって演出の面白味があるかも知れない。

舟越: 老犬のモノローグでストーリーを進めていくのは面白いね。これも人間のドロドロした醜いところをもっと描けるんだよね、それが足りなかった。

副島: 私は動物を擬人化したラジオドラマは好きじゃないんですけど。人間の身勝手さを見せたかったのか、長年連れ添った喫茶店の主人との友情や別れの寂しさを描きたかったのか。この作品がなにをやりたかったのか、作者の狙いが見えない。

香月: せっかく良い道具を用意しておきながら、それを充分に機能させていないのね。

副島: もう一歩踏み込んで、何かを伝えるってことをやってくれないと、何のためにこのような設定を用意したのか、意味をなさないと思う。

香月: 何が言いたかったのかって問題は、極めて強くあるけれど。もう少し人間をカリカチュアライズするとか、書き方によってはもっと良くなったと思うんだよね。背景にしかなってないものね。

副島: お客さんいろいろ来てるんだから、それでいろいろ作れたと思うんですよ。印象に残っているのが、奥さんが亡くなってから止めていたワッフルを再開して評判がよかったとか、コーヒーが美味しいお店なのにいつもミルクティーしか注文しない客とか。本筋に関係ない点描ばかりで。

香月: 犬の目を通して周りが描かれてなきゃいけないのに、それがないものね。

「アマテラス降臨」

香月: 何だかよく分からなかったな、チンプンカンプンで。

副島: どうしてこれが一次に残ったのか分からん。それでまた二次で1票入れてる人がいるし。

盛多: やかましい。

副島: よっぽど気に入ってるところがあるのかなって。

盛多: 一次で読んですげぇ面白かったんで入れてしまった。「どげんかせんといかん」のセリフで思わず笑った。なんか、えらい面白かったんだよ。

副島: 夢オチでしょう?

香月: 役場で目が覚めるんだよね、確か。

盛多: 係長と課長のやりとりが面白かったんだけど、(二次選考から)外していいです。代わりに「とりあえず」に1票。

「ゴー・ウエスト!」

香月: 別離の兄弟の悲しさがそこはかとなく出ていて、好きなんだけどね、こういう話は。

舟越: 両親の離婚で離れ離れになっていく子供心をよく表現している。親のエゴが子どもの心をいかに傷つけるか、そのことを作者は伝えているのじゃないか。

副島: 9歳の少年のセリフが、らしくないんです。大分に引っ越したあと同じ年齢の少年と友だちになるんだけど、そのふたりのやりとりも、ものすごく人工的で。

盛多: これ、たぶん主人公が違うんですよ。主人公は兄貴のほうなんですよ。弟が兄貴を想うよりも、兄貴が弟を想ったほうが、絶対に有利ですもん。

「ドライガール」

舟越: これはいったい何なのか? なにを言おうとしているのか? こういう作品は困るね。読まされる方が困る。除湿器にあたったら痩せる? 馬鹿げているじゃないですか。

皆田: 痩せた太ったでしょ、それでも好きよでしょ。何が言いたかったのか分からん。オチはどうしたんですかオチは。

香月: それまで旦那のモノローグでストーリーを語っていたのが、最後は奥さんのモノローグになって、それがオチになってるのね。やっちゃいけないんだけど、この展開なら許してもいいな。

皆田: で、加湿器はいつ止めるの?

副島: たぶん繰り返しになるんでしょう。相手を思いやる気持ちの大切さ、美しさ。それが夫婦の在り方なんだと。猫十字社の「小さなお茶会」という少女漫画があるんですが、柔らかくてほんわかした雰囲気で、夫婦の在り方を哲学的に示唆していて。この作品にも似た雰囲気があります。もちろんアイディアもいいんですけど、私はアイディアよりも、夫婦のいたわりあいとか思いやりが気持ちよく描けていて好きなんですね。

香月: 爽やかだし、「ドライガール」ってタイトルもナウい感じがある。

副島: これこそ正統なラジオドラマって感じがしますね。この作品の好きなところは、相手に気取られないようにしなから、お互いに相手を気づかうところ。その優しさにジーンときます。

香月: アイ・ラブ・ユーの表現がとてもユニークなんですね。この人じゃなければ書けなかった作品です。

盛多: 夫婦間の思いやりなんてものをベタベタに描くと、いい加減にしてくれって、甘ったらしさが出てくるんだけど。これを相手に気づかせないようにってやるところに、新しい夫婦愛が出てると思う。

香月: 読んでいて照れないものね。

盛多: 夫が気がつかせないように努力するところが面白かった。

香月: それで最後は逆転して、今度は夫が大きくなっているのを嫁が気づかせないようにする。

副島: あれはホロリときましたね。

舟越: ホロリとくる?

香月: 夫婦愛の物語ですもんね。

舟越: 夫婦を取り上げるんだったら、いろんな描き方があるじゃないですか。わざわざこんな変な話をもってこなくてもいいよ。あまりにも滑稽すぎる。なんでこんな発想するのかね?

香月: 誰も発想しないことを発想するところが面白いと思う。

副島: 奥さんがどんどん小さくなっていく過程なんか、これぞラジオドラマだと思いました。

「離れ」

副島: 身勝手な息子が再婚するので離れに住みたいって電話してくるんだけど、怒った親父は離れの部屋を壊してしまう話です。

盛多: 離れを壊しちゃうんだっけ?

舟越: よく分からなかったな。

盛多: 離れを壊さずに、長男をそっちに住まわせる話なのかと思ってた。

香月: 最後に孫娘から電話がかかってくるあたりは、ちょっといい感じだったけど。孫娘が可愛いし、親父の想いがそこはかとなく出ていてね。

舟越: 方言ばっかりで本当に読みづらかった。

香月: この方言がインチキ方言なのね。どこの方言だか分からない。卓袱台をひっくり返してしまうような親父の性格はよく書けていたんだけど。他の候補作と比べたらパンチに欠けるね。

「ふた夜帰りのイキタ」

副島: いいところに目を付けたな、と思ったんだけど、弱いですね。被爆死した少年とイジメで何度も自殺未遂している少年のキャッチボール。狙いは良かったんですが。

盛多: 死んでいった人間が「死んだらいかん」ってセリフがピンとこない。なんだよそれって。そこに持ってくるんだったら、伏線としてもっと何かを作ってくれないと、言葉がこっち側に響いてこない。

香月: 発想は良かったんだけどね。処理にパンチがない。

皆田: でも戦争ものって、いつも幽霊出てきません?

「屋根の上のシーサー」

盛多: 3年前の創作テレビドラマ(日本放送作家協会主催の脚本コンクール)で、沖縄を舞台にしたドラマがあったんです。現代に依存した少女がガラス工芸の工房に行って癒されるって話で。それによく似ている。

皆田: 沖縄言葉と女の子の現代的なお喋りが面白かったですね。テンポもいいし。

香月: 沖縄弁は上手かった。不自然さがなかった。

盛多: その狙いも3年前の創作テレビドラマと一緒なんですよ。沖縄方言と現代的な女の子の喋りを対比させるやり方。

香月: 女の子が携帯依存症で、携帯のない沖縄に島流しになったってところが、ちょっと新しい。

皆田: 携帯中毒だった少女が、最後に手紙を書き始めるというのが爽やかで好きです。

副島: あまりにも予定調和のストーリー展開ですから、大賞には弱いと思います。

最終審査

香月: ぼくの意見では、「とりあえず」と「ドライガール」、それと「朗読の仕事」。だけど大賞には難しい。

舟越: でも「朗読の仕事」には5人の票が入ってるんだから。

副島: いや、これは叩き台ですから。

香月: 議論して進めましょう。

舟越: やっぱり「高崎家の嫁」じゃないですか。違う?

香月: ぼくはぜんぜん買わない。古いもの。このドラマを聴いて触発される人はいないと思う。

舟越: 姑と嫁との関係というのは、今でもいろいろあるでしょうが。こういうのに古いとか新しいとかはないと思うよ。

副島: 処理の仕方が古いんです。嫁姑の人間関係というのは普遍的なテーマだと思いますけど。

香月: 教科書的だもんね、書き方が。票は少ないけど「ドライガール」のほうがよっぽど新しい。

副島: 「ドライガール」は大好きな作品ではあるんですが、大賞かというと、どうもその場所に収まる作品ではないように思うんですよ。

香月: 同じファンタジー系のドラマでも、去年の大賞受賞(本田明子: 作「ぼくはマジメに生きている」)と比べるとずいぶんスケールが小さい。

副島: 夫婦ふたりの閉じた世界を描いてますから、広がりはないです。

香月: 小結関脇クラスの面白さだよね。

香月: 去年大賞ふたつ出したから、今年は大賞なし?

盛多: 大賞は、どんなことがあっても出したほうがいいです。大賞なしというのは、何のために審査やってるのか、と思っちゃいます。

副島: この程度で大賞取れるならって、レベル低いのがいっぱいきたら(審査するのが)嫌になる。もっと上を目指さなきゃ。

盛多: 無理だって。それは期待する方が無理よ。

副島: 決め手に欠けるんです、今回の候補作は、どれも。

香月: 「とりあえず」はどこが悪いの?

副島: 最後、焼酎の乾杯で終わらせてるのが、世界を小さくしてるんじゃないかと。

舟越: 面白かったけどね。とりあえずで生きていくことの凄さ。

香月: 希望をなくした女性が屋久島に行って蘇るってのはよくあるパターンなんだけど。屋久島の自然とよく合ってるし、清々しい感じがあって、ぼくは好きなんだよね。

副島: タイトルは作品のテーマそのものずばりなんですけど、ドラマのタイトルとして魅力がない。それと、このパターンに飽きてしまってる。都会から田舎にやってきて、癒されて、再生して帰っていくワンパターン・ドラマ。新鮮味が感じられないんです。

香月: オリジナリティなら「喫茶犬」や「朗読の仕事」、それにやっぱり「ドライガール」はけっこういいところいくね。

盛多: ぼくも大賞を与えるのなら「ドライガール」かなって気が、ちょっとしてますけど。

副島: 大賞かどうかは置いといて、「ドライガール」はここできちんと褒めておかなきゃいけない作品です。

舟越: 場所は考えなくていいの?

副島: それがあるんですよ。「ドライガール」ってセリフのなかでは沖縄って言ってますけど、沖縄でなきゃならない話じゃないんです。沖縄が舞台である必然性がまったくない。

香月: じゃあ、みなさん、大賞候補を1本づつあげてください。

舟越: ぼくは古臭いけど、やっぱり「高崎家の嫁」だね。人間葛藤の凄さ、迫力ありますよ。

盛多: あえて選ぶなら「朗読の仕事」。または「とりあえず」。

副島: 正直言って(強く推したいのは)ないんだけど。「ドライガール」か「朗読の仕事」。

盛多: ぼくも「ドライガール」を追加。

香月: 3つも出したら意味ないよ。1本に絞ってくれなきゃ。

舟越: あれもこれもじゃ決まらないよ。

皆田: 優先順位をつけて「高崎家の嫁」、次点で「屋根の上のシーサー」と「喫茶犬」。

香月: 「ドライガール」は面白いけど、ストーリーが九州・沖縄と関係ないから。ぼくは「とりあえず」。

副島: 制作を考えると、「朗読の仕事」とか「ドライガール」って、脚本を素直にやって出来るってタイプのラジオドラマじゃないでしょ。その点、「屋根の上のシーサー」はパターンどおりだから、音の付け方も決まってるし、作るのは楽ですよ。

皆田: 「ドライガール」は、テレビだったら一目瞭然だろうけど。

香月: テレビでやったら、おかしくてみっともない。

副島: いまなら CG やデジタル合成使えるから簡単に出来るんですけど。それこそ、どこが面白いのってことになっちゃいますよ。ラジオでやるから面白いんです。

盛多: いちばん作ってみたいのは「朗読の仕事」。ラストのドアの響きがどうなるか。

香月: 難しいよ、あれは。音は出せないでしょう。

副島: それより、延命装置のパルス音を背景に宮沢賢治を朗読する場面の不気味さ、居心地の悪さをどう演出するのか、面白いと思うけど。

盛多: 「高崎家の嫁」って、言いかた悪いけど鼻につくのよ。

香月: いまどきこういう書き方しないでしょう。

副島: 達者ではあるんですよ。

皆田: キチンとまとまっているし。正道というか、王道のシナリオです。

香月: このなかでは一番上手ですよ。しかも24歳で東京の男の子が書いている。

副島: そのあたりが胡散臭いんです。

盛多: それが鼻につくのよ。

香月: 東京のシナリオセンターあたりでみっちり仕込まれてるんじゃないのかな。

副島: 作家としての姿勢が見えないですね。例えば、「ドライガール」とか「朗読の仕事」は、これをやりたいんだってのが分かるじゃないですか。あまり上手くはないけれど。

香月: これぞ作家って感じがするものね。その点では「屋根の上のシーサー」もオリジナリティは薄い。ただ、上手いことは上手い。セリフのやりとりに音楽聴いてるような心地良さがあるし。

副島: 沖縄言葉と女の子の現代言葉のアンサンブルがいいんです。

香月: 「朗読の仕事」は、なにがダメなんだったっけ?

副島: 発端にリアリティがないのと、終わり方に作者の逃げが感じられるところが個人的に嫌いです。

香月: ぼくがこの作品を嫌いなのは、気持ちが悪いのよ。実存主義の作品の気持ち悪さとは異なる、いやーな臭いのする気持ち悪さで、快感がないのね。

副島: 私はその雰囲気が好きなんですけど。

盛多: 単純な疑問で、なんでお祖父さんが復讐するのかって。もっと近いところで父親とか母親とか、兄弟とかいるでしょう。

香月: お祖父さんってのは良くないよね。あれ、恋人とかにしたらいいのにね。

副島: 仕掛けがすごくちゃちっぽいんですよ。そういうところで主人公を朗読の仕事に就かせるフックが作れたと思うんですけどね。そういうところぜんぜん工夫されてないから、もったいないんです。

香月: 「ドライガール」も味があって好きなんだけどね。決定的な欠点は、沖縄の必然性がない。

副島: では、欠点が多い「朗読の仕事」と、賛否両論で評価がまとまらない「ドライガール」と「高崎家の嫁」を佳作。残った3編で最終投票ということでどうですか?

舟越: ぼくの採点では「とりあえず」より「シーサー」のほうが上ですね。

盛多: ぼくもそう思います。

香月: ただ「シーサー」は創作テレビドラマに似たような作品があったって言ってたでしょう。

盛多: 似てるって言っても、設定が似てるってだけですから。

香月: では、大賞を「屋根の上のシーサー」、県知事賞を「とりあえず」、市長賞を「喫茶犬」で。よろしいでしょうか。

皆田: はい。

香月: 今年はみんな軽かったですね。

副島: せっかくコンクールに応募するんだから、もっと冒険して欲しいですよ。ラジオドラマの可能性をぐっと拡げてくれるようなやつ。既存ドラマの劣化コピー版みたいなのはいらない。

香月: いくら上手く書いてあっても、コンクールでは採らないようにしましょう。多少ヘタでもいいから、作家性のある作品を重視したい。

皆田: 「ドライガール」だって、審査員の60パーセントが面白いって認めているんだし。

盛多: 「ドライガール」を分からないって人が、二人いたってことが衝撃だったですよ。

最終選考
2010年10月10日、福岡市中央区天神の天神エコール
審査委員: 日本放送作家協会九州支部 ドラマ委員会
盛多直隆皆田和行舟越 節副島 直香月 隆

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