第4回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
作品内容および一次審査員の寸評
「ゴーウエスト!」
両親の離婚で仲を裂かれる野球少年兄弟の話。少年のけなげさと悲しさが一応の技量で描かれており読後感がさわやか。
「とりあえず」
職場に疲れて屋久島にツアーした女性が、ツアーガイドの心にふれてリフレッシュする。普通の人生をしみじみみつめて過不足なく生の疲れを描いて見せた上質な佳作。
「引きとり手のない遺体」
一人暮らしの老女が死んで、新任のケースワーカーにふりかかった遺体始末記。大人が描いた虚飾のないドラマ。新味や切れ味には乏しいが訴えるものは強い。
「糖度13の愛」
甘いトマトを作っていた夫に先立たれ、居心地の悪い村で、夫の遺志を継いでトマト作りに目覚める寡婦の話。トマト作りという新鮮な素材。ドラマも丁寧に抱えているが、今ひとつパンチに欠ける。
「想い川」
40年前に死んだ夫の思い出を携えて、毎週木曜日に白熊アイスを食べに来る老女の物語。初老の女がよく書けているが、白熊アイスがドラマの軸になっているのが気にかかる。
「喫茶犬」
喫茶店で飼われていた老犬が飼い主に捨てられて町をさまよい、自分を見つめる。なかなか魅力のある作品だが、犬をどう表現するかが難しい。
「朗読の仕事」
植物人間に朗読をするバイト。読む本は指定され、最終日は彼の遺書を読めといわれる。その植物人間とは、かつて主人公がいじめていた相手だった。ミステリー。発想は面白いが、いじめられた理由など、どこか手緩いというか甘い。
「中年の衝動は俺が動かす」
親のコネで大学院に進んだ級友のため、枠からはじき出された主人公は塾講師に。トライアスロン出場のためにトレーニングする知り合いに触発され、もう一度大学院を目指すことに。登場人物ふたりの会話はいい。
「城の下の縁の下」
家の経済事情のため有名美術高校を諦め、特待生で普通科へ進学。大事な絵を城跡へ埋めに来ると、そこには築城の際に人柱となった侍が。ちょっと遠回りはするが夢は諦めないことを誓う。展開は面白いが、侍のセリフに意味不明な部分がある。
「離れ」
小倉在住の老夫婦に、東京の一人息子から身勝手な電話がかかってくる。再婚して子どもが生まれるので、一緒に暮らしたいと。日常の変化を歓迎する老母と、孫娘との関係を危惧する老父。
ステレオタイプながら老夫婦の人物造形が明快に書かれているので最後まで面白く読めた。ストーリーは平凡。老夫婦以外の肉親の会話が、電話でのやりとりに限定されているのが現代風。
「屋根の上のシーサー」
携帯依存症のため沖縄に島流しされた少女と、重病に冒され作品をすべて処分してしまった陶芸家との交流。
登場人物を女の子と陶芸家のふたりに絞った構成が潔く、またふたりの性格がしっかり描かれているので、読んでいて気持ちいい。女の子のしゃべりと陶芸家の琉球言葉がうまくブレンドしている。予定調和のストーリーに、もう一工夫欲しかった。
「ふた夜帰りのイキタ」
イジメにあい自殺未遂を繰り返している中学生が、長崎の公園で被爆死した少年の霊(イキタ)とキャッチボール。生きる勇気を得る。
自殺をはかる少年にもっと切迫した厭世感が欲しかった。生きろと説得するイキタの、もっと生々しい本音の声が聞きたかった。全体に登場人物が優しすぎる。いつ自殺するか分からない息子をもった母親の苦悩はこんなものじゃないだろう。惜しい。
「ドライガール」
記録的な猛暑となった夏。除湿器を使っているうちに妻がどんどん小さくなっていく。これではいけないと、加湿器と入れ替える。妻は元の大きさに戻っていくが、今度は夫の体が大きくなって……
あっけらかんとしたユーモアが楽しい奇想のコメディ。ほのぼのとした夫婦の会話のなかに、夫婦の愛情がほんのり感じられるところがいい雰囲気。沖縄の必然性は皆無。
「高崎家の嫁」
福岡の家に嫁いでいった嫁は、何かと姑のしきたりの管理のもと、きびしい躾にあう。そして、正月のお雑煮で姑とぶつかってしまう。嫁と姑の話。ありがちな話だ。こういった話はいつも救いがなく終わるか、強引にハッピーエンドにするのが常だ。しかし、この作品には救らしきものがある。
「アマテラス降臨」
神話の故郷、宮崎が舞台。役所の観光課の職員がガン掛けの石が倒されると事件でアマテラスと出会う。面白く書けている。セリフもいい展開に転がって楽しく読める。が、すこし狙いすぎ。