第7回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
作品内容および一次審査員の寸評(応募順)
「甘木越え」
勇人は彩夏と駆け落ちしようと電車に。迷った彩夏が去ったあと、駆け落ちを仕組んだ美奈子が現れる。
若い男女の駆け引きが巧みに描けている。だが作品に迫力がないのはなぜか。
「紅芋アイスとプロポーズ」
沖縄旅行で台風にあって足止め。若いカップルの間のさざなみとほのかな恋心のやりとり。
ほほえましくて暖かい物語。とくにドラマはしこまれていないが、好感度を買いたい佳品。
「カステラは母の味」
あるファミリーの数十年にわたる人生ドラマを描いた。日本の庶民のくらしを偲ばせる大型ドラマ。
描かれた世界は大きくて、しみじみとした情感を漂わせるが、15分という枠の中で描くには無理があるのではないか。
「出会い橋」
福岡市出会い橋を清掃している初老の嘱託職員と、パニック障害の若い女の心の出会い。
都会に疲れた庶民が巧みに描かれている。とある人生の出会いを描いた佳品。
「永久停車」
長崎市電のなかでいつも出会う男の子にやっと声をかけることができた人見知りの子の話。
パニック障害の女の子を暖かく見つめた作品。ナレとモノローグを使い分けた斬新な方法。
「大切な君」
双子の兄妹が国東を旅し、鬼が一夜にして築いたという石段を上る。兄が抱く17年前の父の死についての疑惑の正体は?。
前半は日常的な平凡なドラマ。ただし終わりに怖ろしい暗示がひそむ。
「ピンクのやんばる飛んでった」
会社で女性同僚から独身をうらやましがられているハイミスの主人公が、ささやかながら幸せな人生を獲得するまでのドラマ。
日常をうまくとらえた虚飾のない女のドラマ。小さい書き方で結構大きいものをとらえている。
「はいむるぶしの降る島で」
波照間のサトウキビ農園をめぐる後継者問題を、後継ぎの娘、島の若者、内地から来た手伝いなどのドラマとして描いた。
セリフが長く、構成も地道な、シナリオとしては未完成な作品だが、沖縄の離島問題を等身大で見つめている。
「みどりの妖精」
人見知りの主人公とその友達、そしてピーマンの花とのあいだに展開するポエジーストーリー。
少女ぽいドラマだが、セリフの感性がなかなかいい。
「終わらない延長戦」
ちょっとした妻の浮気から離婚になった夫婦が、息子の野球観戦をきっかけによりをもどして。
ダイナミックなドラマではないが、子供を仲立ちにした夫婦の復縁が爽やかに描けている。
「天使は誰も救わない」
工場誘致を図る市長のもとに悪魔が武器の工場を作りたいとやってくるが、天使が阻止する。
設定が面白くかみ合わないセリフもコミカルで楽しいが、ストーリ-の面白さだけでなにを言いたい作品なのかが不明。
「カリスマ美容師のスピーチ」
都会に出てカリスマ美容師と言われている主人公が、友人の結婚式で「親父を超えたと思うとき」という題でスピーチをする。
正確な書式で話の展開も巧みだが、定石通りに、きっかけがあり、盛り上がり、納まったという感じ。迫力に欠けるか?
「PAZZLE」
種子島に移り住んだ家族が再生をはたす話。
うまく、ちいさくまとまっている。人物がステレオタイプで、個性が薄い。
「映し鏡」
出産のため里帰りした娘の、3歳の子供に振り回される話。
テンポもよく、セリフもしっかりしているが、全体の起伏が少なく、ドラマとして面白味がない。
「生き仏は上方落語の夢を見るか」
社長を引退した男が偽の葬儀を計画。最後に寄席をやってみんなを笑わるはずだったが、息子は棺を開けず火葬場へ直行する。
いい年をして常に笑いをとろうとする主人公が可笑しい。話のテンポもいい。
「携帯電話と水時計」
時間に追われる管理職の女性が、祖母から水時計のあるお寺に連れて行かれ、自分の時間の過ごし方を考える。
伝えたいメッセージはわかるが、関係無い部分が長すぎ、肝心の水時計の話しが表面的に流れていて、もったいない。
「あっけらかんの空の下で」
コールセンター勤めの主人公は毎日の客からのクレーム処理にウンザリしている。禅寺の座禅会で「廓然無聖(あっけらかん)という言葉を知る。
「廓然無聖」という仏教語は興味深いがその言葉を聞いただけで生き方が変わったというラストは無理あり。大事な部分が描ききれていない。
「父の乗る船」
反目していた父の精霊流しのため、帰郷した娘の話。
生前の父の様子を聞いただけで、あまりにもあっさりと父との確執が解けてしまった。もっと軋轢や葛藤が欲しかった。
「ハートフルアイランドへようこそ」
10年間男っ気なしの女性がキスするために沖縄の島を訪れる。
会話も短くテンポいいが、言葉のやりとりだけで終わっている。効果音が多く、実際の話は短いのではないか?
「家出の理由」
仕事人間の女性が出張先で幼なじみと再会。二人で家出したことを思い出す。
面白いが、流れが予定調和で終わっていて、起伏に乏しい。
「末期の水」
ホームの介護士と入居の老女が旅に出る。
途中までは面白く読めたが、ラスト部分、夢でもなく幻想でもなく老女が消えてしまい、納得のいかない終わり方になってしまった。
「鈴の音の約束」
アイドルを目指し父と衝突して家を出た主人公。幼稚園で作ったキーホルダーをまだ父がもっていることを知り、父への思いが変わる。
無難にまとまっているが、同じようなセリフが繰り返し出てくる。面白みに欠ける。
「海の声が聞こえますか」
沖縄の島で、ユタ(占いの巫女)のフリをする老婆と、その言葉が叶わなかったと文句を言いにやってきた娘の話。
15枚の中によくドラマが書かれている。テンポもよく、セリフも自然な感じ。やや主人公のMが長いのが気になる。
「アラサー独女と母」
未婚の妹の妊娠を機に、妹に代わり母の機嫌をとろうと温泉に誘う里絵。が、未婚の里絵は母への後ろめたさが。そんな里絵を母は気づかう。
親しい母にさえ本心を隠す娘の心、またそれを察する母の姿が良い。妹の問題がなおざりにされたのが残念。
「古傷」
昔いじめた同級生からの仕返しを受け入れることで、罪悪感を癒やそうとする大人たちの話。
現代らしいテーマが良い。もっと人間のズルさが見たかった。人物の深堀、ラストへの展開などが甘い。
「スマイルさんと最後の乗客」
仕事に疲れた松尾はタクシー運転手に冷たく当たる。が、その日が彼の最終出勤日と知り後悔。
暗い過去を隠し明るく振る舞うタクシー運転手が魅力的。主人公と娘、妻との関係描写は薄い。
「赤い波紋」
無人島に流れ着いた男達が裏切り合う話。
淡々とした語り口と残酷な展開とのギャップが魅力的。主人公の主人への想いは主人への思いはもっと知りたい。
「拝啓 縄文杉さま」
亡き父への疑いを確かめるため、主人公は父が訪れた屋久島へ。そこで父の想いを知る。
娘と亡き父との関係を巧みに描いている。中盤の展開が平坦なのが残念。
「永遠子の恋人」
友人に男を盗られたことを根に持つ女と、癌を隠し嘘を重ねる女の友情物語。
癌を隠して嘘の自慢話をする女の姿がとても切ない。ラストの隠喩表現は蛇足。
「ヨワシの夜明け」
気弱な男子高校生と強気な先輩女子との友情?恋愛?の話。
セリフも心理描写も自然で好印象。主人公があえて標準語を話す理由が不明確。
「八月十三日」
特攻隊で死ぬはずの学生が、終戦二日前に幼なじみの上官により命を救われ、幼なじみを失う。
情景描写やせりふに真実味がある。最後、戦争で親友を失った無念さが表現されずに終わるのが残念。
「猫だけが聞いていた」
良平の一人暮らしの母が末期癌に。慌てて帰省するも、仕事が気になり親孝行できない。結局母の死を看取ったのは、母が世話していた野良猫だけだった。
野良猫と一人で生きた母を重ねる描写が非常にもの悲しい。末期癌患者にしては死ぬ当日も元気かも?
「俺がオレオレに遭った日」
恋人との待ち合わせ場所にその母親だという女が現れ、まんまと詐欺に遭ってしまう男だが、逆に恋人との仲は深まることになる。
テンポのよい展開。セリフも自然で読みやすいが、目新しさには欠ける。オリジナリティーが欲しい。
「九十九会」
百物語をベースにしたサイコスリラー。怪談話をする会に飛び入り参加した男が、実は…。
エンターテインメント性は高く、面白く読めた。……が人間ドラマはない。
「じいちゃんの川下り」
船頭の祖父の期待を裏切り美大に進学した主人公は、久々に帰省した柳川で川下りの手伝いをすることになり…。
よくある帰郷ものだが、川下りという素材をうまく使っている。「舟唄」で溝が埋まるというのもいい。
「ざしきわらしと僕ノ唄」
小倉祇園祭の日、やる気なく露店の店番をする主人公が、祇園太鼓をうれしそうに見守る座敷童のような少年と出会い…。
設定は練られているが、ラストに向けやや強引な展開。離婚しているとはいえ、地元に住んでいるのに5年も会えない母子の関係に違和感。
「雪の夜」
雪の夜、父親の葬式で5年ぶりに会った兄弟は、「家族」という不確かだがあたたかいものに触れようとする。
前半は人物も含め整理すべきだが、後半の兄弟の関係はよく描かれている。ラストページのモノローグは蛇足感。
「ノイズ・ジャンキー」
10年の東京生活から地元に帰って来た30女は、静かすぎる田舎町と、そこにすっかり馴染んでしまった友人にいら立つが…。
語り口、会話などは個性的で面白い。田舎への悪態も笑いを誘うが、ラストがこぢんまりとしてしまった。
「夢の特効薬」
ダイエットがうまくいかず、激しい副作用のある薬を決死の覚悟で飲んでも効果はなかったが、同窓会ではみんな同じように見た目が変わっていた。
夢の特効薬がきかなかったことをすんなり受け入れすぎて、主人公の悩みそのものが薄れている。
「鶏扱いにはご注意を」
鶏天チェーン店で店長の不正を内部告発しクビになるが、天ぷらにされた鶏がしゃべりだし、その鶏の願いをかなえることで自分の夢を認識する。
鶏天がしゃべる発想やセリフのやりとりがおもしろい。
「妄想劇場・憧れの未亡人」
亭主関白な夫に不満を持つ主婦が夫にいら立つと未亡人になった妄想を楽しむ。しかし本物の未亡人の胸中を知り、自分の幸せに気づく。
妄想劇場と題したドラマ仕立ての想像がおもしろい。
「洞穴(ほらあな)」
友人と二人で遭難し避難した洞穴に同じく避難している男がいて、一人が助けを呼びに行っている間に一人が殺されていた。
国尾の不気味さはうまく描けていると思うが、それだけが目立つ。
「来た時よりも美しく」
警察官の妻が日課の公園清掃中に恐喝事件の身代金を拾い持ち帰ってしまうが、犯人逮捕に貢献する。
犯人逮捕までの流れも面白いが、最後に旦那が自分の昔を覚えていたことに喜びを感じるのがほほえましい。
「いいね!~充実の証明~」
フェイスブックにいいねをもらうためにねつ造した充実写真を載せる妻に本当の充実に気づいてもらう。
セリフのやり取りはうまいがラジオ形式でないのが気になる。
「桜島、空をめざす」
母と自分を捨てた父の死が間近だと聞き復讐を果たすために会いに行くが、父と話し、許すことができた。
流れは良いと思うが、長セリフでつっかかりを感じる。