第10回 南のシナリオ大賞 審査会ドキュメント

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第10回南のシナリオ大賞 最終選考会

第10回南のシナリオ大賞_審査会

(4) 「備えあれば憂いなくなる、お葬式」
(3) 「せんせい、あのね」
(3) 「無隣音」
(2) 「おやすみグッバイ」
(1) 「モノローグ」
(1) 「保湿・オブ・ザ・リビングデッド」
(1) 「響の街」
(0) 「青色の蝶」
(0) 「ウミネコの町から」

()内の数字は審査員投票数

「青色の蝶」

不倫の果に離婚した男が、再婚した元妻と駅で再会する。

副島:ネタはありきたりなんだけど、ラストがひねってあって凄い。

皆田:死んだはずの嫁さんと会うとか、元同僚も嫁さんが好きだったって突然告白したり。自分勝手な展開。

盛多:主人公が死んでしまうっていうのはありですか? 作り過ぎな感じがする。

「ウミネコの町から」

孫娘が一緒に音楽祭に出場しようと独り暮らしの祖父を誘う。

副島:カーペンターズを好きな人が書いたんだろうね。タイトルは「ウミネコの町から」なんて曖昧なものじゃなくて、「雲仙ウミネコ音楽祭」ってズバリなほうが印象に残りやすいと思う。

皆田:父親(祖父)を心配している母親の依頼をうけて、トラブった孫娘がやってきた、ていう、それだけの話かな。

盛多:小夏(主人公の孫娘)は、どこもトラブってないでしょう。この流れのなかでは。

副島:じいちゃんは何のために変装していったの? そこでなにか作っているのかって読んだのだけど、分からなかった。

盛多:カラオケ屋の店員がビックリしたっていう、ただそれだけ。

皆田:じいちゃんと孫娘の葛藤があればいいのに、ない。

副島:ラジオとしては分かりにくい場面がいくつかあって、この脚本のまま(ドラマを)作るのは無理。

盛多:役者に歌を唄わせなきゃいけないけど「透きとおった声」とか分からない。こういった形容詞はやめて欲しい。

南のシナリオ大賞審査員 盛多直隆

「響の街」

教会と寺の鐘の音が響き合う長崎で暮らす少年の精神的成長物語。

皆田:長崎の風景のなかを少年が走りまわって、そこに教会と寺の鐘の音が混じって聞こえてくるっていう、雰囲気はとても好きだけど、だけど、100点とれるほどの出来じゃない。

盛多:高校のあのころの若い年代って、自分を変えたいっていう意識が働く時期が必ず誰にでもあると思う。それは捉えているんだけど、どうも話の展開が鈍い。

香月:いろいろ(長崎の)風景が出てきたけど、消化度がちょっと足りないかな。(登場人物は)長崎のなまりが無い、長崎で生活している匂いが感じられない。

「モノローグ」

熊本への転居を悩んでいる女性の家に声優学校の講師がやってくる。

副島:これもオチが凄かった。

香月:物語の構成もしっかりしているし、セリフもいい。かなり経験のあるライターが書いたんじゃないのかな。

副島:ラスト、仏壇の旦那さんに語りかけるんだけど、これで(聞く人に)分かる? 分かった瞬間、このタイトル「モノローグ」が凄いって感じられるんだけど。

皆田:前半の夫の声も奥さんが声色でやっているんですよね。ちょっと書き足りてないのかな。先生とのやりとりで「あなたの男性の声も素敵だろうね」みたいなのが一言入っていると……

盛多:その伏線は欲しいですよね。中盤の先生とのくだりがダラダラ長いし、そのへんは正直言って聞いてもしようがねえなって。葛餅とかいろいろ出してるんだし、そのへんでもっと他に何かやっていて欲しかった。

皆田:ダメだなった思ったのは、ト書きで「足を引きずりながら駆けてくる」とか「餌入れを舐め回す犬」とかって書いてあって、それはラジオじゃ表現無理じゃない。

南のシナリオ大賞審査員 皆田和行

「保湿・オブ・ザ・リビングデッド」

仕事で溜めたストレスを温泉で癒やす女性の話。

皆田:これ、ラジオでできるのかな?

盛多:逆に、ラジオ的な作品だと思ってるんだけど。

香月:これは作るの大変だし、妙な作り方すると(主人公の女が)XXXXに聞こえてしまう。(編集の)トラックはいくつもあるから出来ないことはないんだけど。

皆田:ト書きで「吹き出る温泉の煙」とか「汚らしく貪る」とかあって、これはラジオのト書きじゃない。

盛多:セリフが面白かったんですよ。

副島:女性のセリフにゾンビの声を被らせることで面白味を出そうと狙っているんだろうけど、その意図はわかるけど、ぜんぜん面白くない。なぜこれが選考に残っているのか不思議。

松尾:一次、二次選考の審査は女性が多かったので残ったのだと思う。

「せんせい、あのね」

仕事優先で留守がちな夫に娘が書いた作文を読ませる小学校教師の妻。

副島:ものすごく上手く作り込んでる脚本です。

盛多:構成的には魅力的なんだけど、セリフがステレオタイプ。世界を駆け回って社会経済を作る仕事だぞって、こりゃないだろう。

香月:セリフは全体的に鈍い、シャープじゃないね。これをラジオドラマで喋ったら白けます。

盛多:選択性緘黙(かんもく)という病名が出てきたけど、この病気って一般的? おれ知らないんだけど。

香月:ドラマ化したとき病名だすのは、ちょっと怖い。特に精神疾患は人によって捉え方が違うから。

皆田:話は面白いと思ったんですよ。でも、小学校で自分の娘の担任というのは、まず現実にあり得ないんですよね。離島とか過疎地の分校とかなら別ですけど。それと、自分の夫に作文を見せるというのが引っかかって。設定が反則じゃないの、これ。

盛多:途中までは違う家の子どもだろうと思って読んでた。分からないんだよね、最後で自分の子どもだと気づいた。

副島:サスペンスものとして、面白かったことは面白かったんだけど。ただ、出張ばかりで留守がちなのに、夫(父親)が娘の話にまったく関心ないのが変だなって。

皆田:忙しいから。なにしろ世界を股にかけた仕事してる商社マンだし。

副島:子どもをダシに使って不倫を正当化する女の嫌らしさ。女性の心理はよく書かれているけど、男性が紋切り型というか、すごく大雑把で。だから、主人公の女性が妄想的にそういうふうに夫を見ていたのか、主人公の主観で描写された夫なのかな、って感じになっている。

「おやすみグッバイ」

眠れない夜を過ごす男と女の物語。

皆田:(本文を読んだ後に)あらすじを読むまで、(場所が)避難所というのが分からなかった。最初、台所の方で音がしたって書いてある、台所っていうと、やっぱり普通の家だと思いますよ。なにかあったんだろうとは思うけど、それが熊本の震災だったっていうのは……

副島:最後のページまで分からない。

盛多:ずーっと、ツーショットでしょ。この芝居は難しい。場所が避難所ってことを、芝居のなかで分からせなきゃいけいない。

副島:けっこう(セリフに)散りばめているんですが。「だって、寝たら怖いこと起きそうで」なんて被災した人の本音ですよね。「もう大丈夫だよ」って女性のセリフも(この状況下では)そう言うしかないですもんね。

香月:言葉の計算がよくできている。ぼくは、これが最高ですね。ラジオドラマとしてひとつの典型だと思う。演じるドラマじゃなくて読むドラマね。レーゼシナリオとしての完成度が高い。これを十数分間やれって言ったら役者は大変。

副島:あと、この脚本は、音をいっぱい付けられるから良いんです。避難所とかラーメン屋なんて(効果音を)作り放題じゃないですか。編集次第で大化けする脚本です。ただ、私がピンとこなかったのは、なぜ女性が音響の仕事しているのか。

盛多:登場人物表にPAと書いていながら、その職業に関する話がない。

副島:そこだけ浮いてしまってる。そういう仕事をしているからこそ、避難所生活で感じられる何かとか、そういうエピソードが欲しかった。

香月:PAの女の子が登場する必要性がないのね。たまたま居たのがPAやってる女の子だったってだけで。

南のシナリオ大賞審査員 香月隆

「備えあれば憂いなくなる、お葬式」

自分たちの葬式の予行練習をする老夫婦の愛情物語。

盛多:この作品には全員の票が入っています。自分が病気持っていたから、そのうち葬式をやる。旦那さんに上手くやって欲しいから、その予行練習をやる。分かり易いっていえば、これほど分かり易いドラマもない。

香月:あまりにも分かり易過ぎて、なんじゃこりゃって。最初のアタックがなかった。

副島:喪主の挨拶の練習が終わって周りから拍手喝采が沸き起こる場面、爆笑しましたね。

皆田:(奥さんの葬式が済んだあとで)その後のことは何も練習していなかったって、最後のくだりが切ない。

香月:この終わりかた、いいね。つまり、奥さんの力はそこまでしか及ばなかったわけで。

盛多:リアリティの設定のしかたで引っかかった。そこまで(奥さんが)するのであれば、旦那のキャラをもう少し作り込まなきゃいけない。

松尾:楽しくワイワイ、コメディ的なノリから、ゴーンと。その落差が凄い。

副島:笑わせておいて泣かせる、浅田次郎の世界です。

松尾:最後のご主人の一人喋りが長いかなと思ったんですけど。

副島:いや、あれがいいんです。役者のしどころです。この長台詞を演る役者が羨ましい。

盛多:これ、タイトルどうにかなんないの?

副島:こういうタイトル大好き。内容そのままズバリ、このタイトル聞いたら、もうこの話しかないでしょう。

香月:ドラマ聞かないでタイトルだけ聞いたらそれで終わりって感じ。

副島:これはタイトル変えないで欲しいです。

「無隣音」

騒音苦情にやって来る隣のアパートの住人に神経を狂わされる主婦の話。

副島:隣人トラブルのサスペンス。これもうまい。

皆田:ぼくはこれをトップに推しました。ただ、タイトルの意味がよく分からない、音的にも(ムリンオンと)聞いて何のことか分からない。

香月:「不協和音が耳に入ってくると良い曲を作れないんですよ」ってあるけど、音楽的にどうなんでしょう。これ、音楽やる人が聞いたら、おかしく思われない? 不協和音も勉強しておかないと音楽作れないでしょう。

副島:奥さんを、もっと過剰にヒステリックにすると、ますます面白くなっただろうに。

松尾:奥さん病的ですよね。突発的に怒り出すし。

副島:どっちがおかしいのか(聞いている人を)混乱させるくらい過剰にやって、その間で旦那さんがバランスをとる構図を作っていたら、更に面白くなっていた。終盤への持っていきかたがちょっと雑だった、というか、素直過ぎた。

盛多:ここまで作り込んでいるのにラストが雑なのは確かです。もっとなにか、別な終わり方もあったんじゃないかと思う。

最終審査:ドラマ制作にむけて

副島:「おやすみグッバイ」は、作るのすごく面白いと思いますよ、テーマもいいし。

盛多:「おやすみグッバイ」の芝居を演じられる役者がいるのか、というのもひとつの問題だけど。最初に読んだとき、いまいち分かりにくかったという感じがずっと残っていて。これを制作したとき、リスナーにはたして伝わるのだろうかって危惧もあるんだよね。場所が避難所というのも分からないし、何が起こっているのかも分からない。

副島:(ストーリーを)引っ張っていく「眠れない」「眠りなさい」のラインの上に、幾つかのエピソードを載せているんだけど、そのメインのラインが細い。

盛多:ドラマの背景が見えてない流れのなかで、最後グッバイで終わらせても、聞いている人は分らない気がする。なにやってんだろこの人たち、みたいな。例えば極端だけど、最初の方で、熊本で震度7の地震ありましたって、この一言が入るだけでぜんぜん違うんだろうけど。

副島:そんなの入れたら、サプライズが無くなってしまう。

香月:伏線がないのがいい。伏線を隠して、これだったんだと気づかせるところが、このシナリオの魅力ね。けっこう高級なんですよ。制作は冒険になるけど。

盛多:「備えあれば憂いなくなる、お葬式」は、押さえるところはちゃんと押さえてあるし、笑いのあとに哀しみがあってセオリーどおり。これがいちばん確実かなあ。

副島:言わずもがなな事までナレーションで説明している。そのくらい丁寧というか、聞き手に親切な脚本です。「無隣音」や「おやすみグッバイ」は聞く人によって印象は様々だろうけど、「お葬式」は10人聞いたら10人全員が同じ感想をもつドラマになります。

盛多:登場人物やたら多いし、役者どうするんだ、これ。うわぁ、アタマ痛ぇー。

2016年10月22日、福岡市中央区赤坂
審査委員:盛多直隆副島 直皆田和行香月 隆
実行委員:松尾恭子

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