第14回 南のシナリオ大賞 審査会ドキュメント

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第14回南のシナリオ大賞 選考会

(5) 「ほてぱき」
(4) 「どこにでもいる夫婦」
(4) 「墓参り代行」
(4) 「月の石の指輪」
(3) 「無音の伴奏」
(2) 「阿蘇に流星」
(2) 「蘇った男」
(2) 「不知火」
(1) 「バースデイ」
(1) 「ご祝儀の相場って?」
(1) 「青い桜は散りぬるを」
(1) 「グッドラック」
(0) 「いつか、きっと」

()内の数字は審査員投票数

南のシナリオ大賞審査会

副島:今年は新型コロナの影響で在宅時間が長かったのもあるだろうけど、去年より98篇増えて、応募数がいつもの1.5倍。数が質の向上を促したんでしょうか、例年2本か3本しか(最終選考で)票を入れない私が、今年は6作品に投票している。

盛多:こんなことありえないじゃん。

副島:盛多さんだってすごい、7本挙げてる。

香月:わたしは3本って言われてたから無理やり3本に絞ったんですよ……いや、5本あるね。

副島:二次審査はひとつの応募作をふたりの審査員に読んでもらって、3作品を(○1本、△2本で)選んでもらったんですが、票がかぶってたのは2本しかなかった。○評価は5人全員バラバラ。ひとりが○付けた作品でも、もうひとりの審査員は×だったり。
評価が集中して10本前後に絞られるんじゃないかと予想していたんですが。今回の最終審査は13本と多いです。

香月:そのどれもに個性があって、それぞれ面白かったですね。

「いつか、きっと」

副島:阿蘇の水源が主人公の話です。あらすじ読まないでいきなり最初の一行目から読んだから、なに書いてあるのか全然わからなかった。

香月:ぼくもあらすじ読まなくて、わからなかったです、正直言って。

皆田:ぼくはすぐ分かりましたよ、水が話してるってこと。

副島:なぜ水源なのか分からない。

香月:それは熊本に材を採ったからですね。熊本は水の都で……

副島:それは分かりますけど、なぜ水源を主人公に設定したのか。水源の感情が人間と同じというのも、分からない。

盛多:根本的なところで、水と人間のやりとり、まずこれが理解できない。この作者、ちょっとロマンチック過ぎない?

香月:ストーリーに無理がある。

皆田:幼稚な話です。

「バースデイ」

副島:「フォレスト・ガンプ」とか「ベンジャミン・バトン」みたいな、作り物の不思議な人生を扱った発想が面白かった。こういう奇抜なアイディア作品が増えてほしい、という希望があって票を入れました。

盛多:会話のなかで主人公の少年を、親父が「くん」を付けて呼んでいるんですが、なぜ「くん」付けなの? って考えたときに、離婚して、前の女の子どもなの? とか思いながら読んだことと、どうして男が弟として現れるのか、これも分からない。分かんないことをくっつけくっつけ書いてあるんで、正直言って、ぼくはよく分からなかった。
そんなことを詮索しながら読ませるってことも大事なのかも知れないけれど、直球勝負でドーンとくるものが感じられなかった。

香月:ラジオということで考えたら(子どもの名前が)「航」「海」って分からないですよ。(漢字の)意味はいろいろとられるんだけど、ラジオの場合、そこはきちんと押さえてなきゃいけない。

皆田:生まれてきて欲しいと願う兄ちゃんと弟のやりとりなんですけど、航くんは小学校何年ですかね?

盛多:9歳だから、小学校3、4年かな。

皆田:(その年齢の)彼が(こんなセリフを)語るかな、って気がしたんですよね。

副島:作者が持ってる、人はなんのために生まれてくるのか、みたいな人生哲学をストレートに語らせている。

香月:最後の子どもが生まれるところは感動したけどね。

副島:子どもが生まれて、この世界に「ようこそ」ってセリフをもってきたところに、作者の人生観・世界観があらわれていたと思います。

盛多:このシナリオでドラマを作ると仮定したときに、男(弟)の扱いに困っちゃうんですよ。男が登場したとき、歳は幾つくらいで出せばいいんだろうって。航くんの弟だったら子どもの声だけど、子どもじゃないよな、とか。

副島:出会いは中年以降の男でしょう。ラストは(航くんより)年下の子どもになっていくんだろうけど。

盛多:だんだん若返ってくる。そこは「ベンジャミン・バトン」に似てる。

香月:発想は非常に奇抜だと思うし、そこは評価してるんですけどね。

「ご祝儀の相場って?」

盛多:単純に軽いノリで選びました。結婚詐欺にあって、それを取り戻す女の行動が一直線上にあってストーリーが成立している。予想を裏切る展開の面白さを買った。

皆田:女の執念とか女の性(さが)とかあって、復讐劇は面白い。

荒木:恋人を盗った今度結婚する女の人のほうが、キャラクター的に工夫されているように思ったんですけど。ラストがスカッとする感じで面白かった。

香月:モノローグに頼りすぎている。自己紹介とかドラマの進展とかほとんどモノローグでやっているでしょう。

盛多:「康貴が席を立った」って、こういうモノローグは必要ない。

副島:発想がテレビなんですよ。映像で考えたドラマをラジオドラマに置き換えたときに、音声だけで表現できないところをモノローグに差し替えている。

荒木:前半がもったいない。舞台を作り上げるまでに時間がかかっていて、話の展開がスッと入っていかなかった。

副島:主人公のドジで笑わせようとしているのか、逃げた男の弱さを笑いものにしたいのか、どっちつかず。それともラストの、妊娠している花嫁さんを許すことで人情味を出そうとしているのか。そこを押したいって展開ではないんですが。

盛多:この流れでベタな人情物にもってくるのは厳しい。作るとしたら、おそらくそこは重視しないです。

香月:作者は秀逸な復讐劇を書きたいって気持ちが強かったんでしょう。人間描写よりもストーリー展開の面白さで書いたんじゃないのかな。

盛多:それが歴然と表れているのは、「利息を取り忘れた」っていう最後のセリフだけど、これで落とすのはちょっと。

香月:そういう言葉を立てると上手く締められるって感じで書いたんだろうけど、ドラマの落ちじゃないですね。

盛多:ムカついている部分が一点あって。九州の醤油って甘いってことになってるんだけど、それをソースって言うか? 馬鹿にしてんのか、と思いました。

副島:熊本で東京の友だちと馬刺し食いに行ったとき、彼はタレって言ってましたね。

「青い桜は散りぬるを」

皆田:2年で離婚した夫婦の話。夢を使うのは有りがちな話で、また夢オチかって思いながら読んでたんですけど、最後に、彼のおかあさんから電話があって、亡くなりましたって伝えられる。一緒に「さくら」に乗れて良かったって伝言があって、実際は乗ってない、夢の中でしか乗ってないのに、彼も死ぬ間際に同じ夢を見てたのかなって。夢もこういったやり方があるのかって。それで票を入れました。

香月:ぼくはこのラスト、ものすごく好きですね。だけど、これもモノローグでストーリーテリングやってる。それが大きな欠点。

副島:皆田さんは、電車に乗っていた女性の夢と、病床で死ぬ間際の元夫の夢がシンクロしていたと……

皆田:でないと、あの伝言はなかっただろうなと。

副島:私は最初からこの話が「雨月物語」にある「菊花の契」のヴァリエーションって読めていたんで、そこはぜんぜん感心しなかった。

荒木:おはなしはロマンチックで良いと思うんですが、このタイトル「青い桜は散りぬるを」が内容と合いすぎて、印象に残りにくい作品だなと思った。この文学的なタイトルが引っ掛かりにならなくて、スラーっと過ぎていって、私のなかでは残らなかった。

副島:(この審査会で)いつも言ってるんだけど、標準語と長崎弁の区別でキャラクターの心境を描くのだったら、長崎弁は長崎弁で書いて欲しい。

盛多:(以下、長崎弁で)は勘弁してくれ。

副島:それも、長崎弁の特徴を含んだセリフじゃないんですよ。長崎の人は普通に標準語で喋っているセリフが、(以下、長崎弁で)になってる。ここに書かれているセリフでは、夫との気持ちが離れていったというのが表せないと思う。

香月:この脚本のいちばんの欠点は、標準語と方言の使い方を制作任せにしているでしょ、これはやっぱりまずいね。

副島:夫婦の擦れ違い、気持ちが離れていく重要なファクターなんだから、そこはきちんとやらなきゃ意味がないでしょう。都会暮らしで標準語になってしまった奥さんの変化が表せない。長崎の人に、このセリフを長崎弁に替えて喋ってくださいっていっても、そんなに変わらないですよ。

香月:これは標準語でもぜんぜんいいんです。替えて読んでみたけど、ほとんど変らなかったですね。

盛多:ラストシーンの、(以下、長崎弁で)(以下、標準語で)、最後に昇子が嗚咽しながら「(佐世保弁で)優平、ごめん、本当にごめんなさい」って、これ読んだときに投げつけようかと思った。ラストのいちばん大事なところなのに、このセリフを持ってくる感覚がわからない。

香月:長崎弁で発想したセリフじゃないんですよ、全部標準語で発想してるんです。

「グッドラック」

香月:芸術的に、あるいはドラマ的に強く推したいって作品じゃないんですけど。西口先生のキャラクターが金八先生的に朗らかでよく書けてるなと思って。前向きで、新しい明朗青春小説みたいな感じで。それで票を入れたんだけれど。

副島:私は新しいという感じはぜんぜんなくて、むかしの、中村雅俊主演でやってた友だちみたいな先生が出てくる学園ドラマを思い出した。昭和の香りがしたな。

盛多:携帯電話のやりとりだけで全編通すという感覚がわからない。掛ける方か受ける方かどちらを加工するのか分からないんですけど、これで全編やられたら堪んねえな、というのはあります。

皆田:テレビ電話でやっているのかどうか、ラジオじゃわからないですもんね。

盛多:それがいちばん大きかった。

副島:最初の先生の声、1ページの1行目から察するに先生がONで、受けている生徒のほうがOFFなんですよね。ところが女の子がインターホン押すあたりからグチャグチャになってる。

香月:ON/OFFだけじゃなくてフィルターかけるといいでしょ、音質変えると。

副島:もちろんそうなんですけど、その(場面の)切替がグチャグチャになっているから、制作するとき混乱しますよ。

盛多:というか、電話のやりとりは短く入れてから元に戻すというのがセオリーなんだけど、これをずーっと全編やられると、聞いている方もきつい。それと、女の子が入ってきたときどうするのか、ちょっと見えない。

皆田:話は面白かったんですけど、これがはたして引きこもりなのかって疑問に思って。引きこもりがどういうものなのか、ぼくもよく分かっていないんですが。ただ学校サボって出てこない生徒くらいにしか見えない。先生と普通に長電話しているし、女の子が来たらお茶淹れたりもしてる。こういったのもひとつのアレかも知れないけど。

副島:不登校の少年の話を書こうとしたとき、その人物を作ろうとしたときに、やっぱり不登校になった原因というのを考えておかなきゃいけないんじゃないか、と思うんですよ。それがないから、この少年に引きこもりのリアリティが感じられない。

盛多:作者がまず物語を作ってから、そのストーリーを(結末に)持っていくためのセリフの流れ方が、段取りにしかみえなかった。だからセリフがぜんぜん生きてない、という感じがありましたね。

香月:あえて強く推そうという作品じゃないです。人間があまり描かれてないからね。ただ、スタイルはすごく新しいなと思って。テレワークとかリモートとか、今年しか出せない作品じゃないですか。
実を言うと我が家でしょっちゅうこれやっているんですよ。東京と糸島で、端末何台も持っていて。それで、当世の家庭の風景をよく描けているなと。それもあって推したんだけどね。中学とか高校生とか、十代の子どもだったら、これすんなりとわかると思うんですよ。スマホと実際の映像と入り混じってゴチャゴチャになるけど。ゴチャゴチャになっていいかどうかという問題は、また別として。

南のシナリオ大賞審査員_香月隆

「阿蘇に流星」

荒木:最初に読んだとき、これがいちばん良いなと思ったんです。舞台(乗馬クラブ)が面白い。馬が出てくるし、爽快感が吹き抜けてくるような……

香月:その爽快感は映画的なんですよ。ぼくは、これ、映画で見たらいいなって思った。

荒木:欠点があるとしたら、主人公に対して重要な立ち位置にある一馬という人物のバックボーンが分かりづらかった。いろんな背景を背負って登場しているんですけど、読むだけでは過去の因縁とか、ちょっと分からない。音的にはかなり良いです。面白い作品になるんじゃないかなと思って票を入れました。

皆田:このドラマのクライマックスは、試験に受かるかどうかってことですけど、それまでのやりとりと試験のシーンが、あまりにもアッサリしている。「対向」が苦手って出てきて、訓練したんでしょうけど、その訓練シーンは書かれてない。ドラマとしての盛り上がりが足りてないと思いました。

盛多:最後は成功してみんなから祝福されるだろうな、という展開が見えてきた瞬間に、これは無しかな、と。

副島:ストーリーが予定調和の枠にはまっていて、意外性がない。

盛多:単純に言っちゃうと、めちゃくちゃありがちな話じゃん。若者が成長して成功するって話は、もういい加減いいよ。

皆田:登場人物の名前が(セリフに)出てこないんですね。最初に「予約している坂野です」ってあるだけで、このあといろんな人が登場するんだけど、名前が呼ばれないから、誰が誰だか分からない。

香月:ラジオじゃ分かりにくいですね。

盛多:それと、音(効果音)作りがたいへんだなあというのが、いちばん大きかった。馬の音って録りにくいんですよ。よほどの熟練者が側にいないと、馬は絶対に言うこときいてくれないから。

副島:以前FMシアターの取材で佐賀競馬場行って、そのときに馬の音も録ったんだけど、全然分からなかった。番組聞いたときも、音響効果がいろいろ工夫したんだろうけど、それでも分からなかった。馬が好きで、蹄の音に慣れ親しんでいる人なら聞き分けできるだろうけど。やっぱり映像がないとダメなんだろうな。

香月:これ映画にしたら別の感動が出てくると思う。映画だったら、ある程度ストーリーが定型でも構わないし。

「蘇った男」

皆田:ベッドとか、冷蔵庫とか、履歴書とかが喋るというのがバカバカしくて。最後に自分の声が聞こえてきて、包丁で助けるという流れで、トントントーンと話が進んで……笑ったな。

荒木:スピード感があって面白かったですね。

皆田:最初に自殺しようとした包丁で、最後は自殺しようとした自分を助けるというのが、ぐるっと回って上手く着地できてる。

香月:ぼくは10年以上高校生の作品読んできたんだけど、そのなかにいろんなモノが会話するというのがあって、それの印象がどうしても強くて(この脚本は)評価できなかった。ただ、自殺しようとしている自分を発見するって最後のくだりは、高校生の作品とは違うんだけどね。

副島:自殺しようとした人間が過去を振り返って、存命の希望を見出すというストーリーで「素晴らしき哉、人生!」、それと、モノが喋るというところで「トイ・ストーリー」を掛け合わせてる、という印象。あまり新しい感じはなかったです。

盛多:ベッド、履歴書、パソコンと、8つも出して。どうしてこれだけいるのかが分からない。こんなに並べる必要性ってあるのか、もう少し絞ってキャラを出していけばいいのに。

皆田:冷蔵庫だの履歴書だの、主人公の生活すべてが出てるじゃないですか。食ってないなあ、とか。履歴書がエントリーシートに書かれた就職の志望動機を語らせたり、破られてゴミ箱に捨てられてた通帳も残高ゼロだったとか。

盛多:ぼくは単純に、もっとキャラ(の性格を)つけろ、ってことなんです。最後に包丁を持ってきて落とすのはぜんぜんオッケーですけど、ここまでいろんなもの出してきて何の説明もない。例えば、この男がいつも使っているパソコンだったら、Hのとこだけがへこんでるとか、そんな小さなところにキャラを付けていかないと成立しない。これじゃただ出してるだけじゃん。何故こいつらが喋るの? 「何故?」を一切説明していない。

皆田:これはバカバカしい話だから、そういう説明は要らないんじゃないですか。

盛多:いや、ぼくはそうは思わない。バカバカしい話ならバカバカしい説明が必要です。これ、笑えないもの。

副島:一次審査の作品読んでいて、今年は自殺を扱っている作品がけっこう見受けられたんですが、安易な思いつきで「生」とか「死」を扱っているのが多くて、嫌になっちゃったんです。この「蘇った男」も、コメディかファンタジーか知らんけど、読んでいてすごく気分が悪かった。

「不知火」

盛多:見知らぬ女の子ふたりが出会って、好きだった男が亡くなって、そこに不知火を見せてくる。このふたりに共通しているのが「ラッキーなことが起こる」というセリフにあるんですが、それが不知火にあらわれてくるというのが、なんとなく良いと思って選びました。
会話が好きでしたね。ただ、モノローグ使いすぎかも知んない。

副島:不知火の説明モノローグに会話を絡ませてくるあたりは、すごく上手い。私はこの作品、とても巧いシナリオだと思いました。それと、不知火というヴィジュアルをラジオで見事に表現できてるな、と感心しました。

盛多:「もしかして私に話しかけてる?」とモノローグで語らせてから、すずかが「夕方からいたよね」って話しかけてきて、「あ、私だ」とモノローグで返す、このテンポ感は好きでしたね。

香月:モノローグから自然に会話に移っていく。そこのオーバーラップのしかたが非常に良かったですね。

盛多:福岡でこのふたりを演じられる女の子がいるとは思えないけど、うまい具合にキャスティングできれば……モノローグにすっとセリフが入ってくる感覚が好きだったので残しました。

香月:ぼくは、ドラマ仕立てがあまり上手くないんじゃないかと思った。それと、萌乃とすずかの書き分けがちょっと見えてこなかった。

副島:いや、私はこのキャラクターはっきり分かった。同じ世代の女性をこんなに上手く書き分ける人って、なかなかいないと思った。

香月:ああ、そうですか。

盛多:まったくぼくも副島さんと同意見です。

香月:それと、もうひとつ、優馬はどうして萌乃のほうにはしったのか。そのへんはどう? 書けてますかね?

盛多:萌乃と会ったとき優馬はもう病気になってたんじゃなかったけ?

副島:そうです。

香月:そのへんがちょっと見えてこなかった。

皆田:不知火を見ると良いことがあるって、じゃあ、ふたりにとって良いことって何だったんだろう? 萌乃は、優馬が見たかった不知火って思って八代に行ったんですよね。すずかはふたりをぶん殴ってやろうと思って行った。それが(不知火を)見たことによって何か良いことがあったらいいな、と思ったんですけど。そこが分からない。

荒木:ふたりが出会えたことがラッキーだった。

香月:ふたりがそれぞれ優馬をどのように捉えていたか、それがもうちょっと描かれていれば良かったと思う。これだけの筆力があるんだから、ふたりの口から優馬の描写を語って欲しかったな。

盛多:ラストの萌乃の「漆黒の海に列をなして輝く光の玉を、私たちはただ、見つめていた」って、これは女子が書きがちなモノローグだ。

荒木:ふたりの関係が友情に発展するようなニュアンスが欲しかった。知らないふたりが出会って、この話をとおして、それで何処に落ちつきたかったのかが、分からない。

盛多:「お願い、殴って」というセリフが出てきたときに、ここは良いなと思いました。ここが芝居場かな。ラジオドラマ作るときに、このふたりが出会わなければ、といったところの音楽とか芝居場で持ってこれれば、これは成功するかな、と思いましたね。

香月:不知火が出てくるのは、ぼくは非常に感心したんですけどね。これはラジオでなきゃ、テレビじゃやれないですもんね。

盛多:映像で不知火見ても感動しないと思う。

副島:オーディオドラマのネタとしては最高の材料です。他の候補作にはテレビドラマに置き換えられるものもあるんだけど、これはラジオドラマでしか描けない世界だと思います。

香月:ラジオは頭で(映像を)描くから、だからいいんですよね。非常にきれいだし、トーンがいいですよね、雰囲気がね。

盛多:いちばん大きなのはそこにあります。けっこうレベル高いんで、(最後まで残すか)どうしようかな? と思ってる。

「無音の伴奏」

盛多:すみません、単純に演出の立場で読みました。これは出来ない。ラスト見て、歌ってるぜ、しかもピアノを奏でてるぜと見えた瞬間に、あ、ダメだと思っちゃいました。

副島:出来ないのは分かってます。まず音楽著作権のことから言うと、「愛の讃歌」はすでにパブリックドメインになっていてメロディは使えるんですが、この脚本では越路吹雪版の日本語歌詞を登場人物に歌わせている。作詞は東宝ミュージカルとかも書かれていた岩谷時子さんで、これが使えない。

盛多:JASRAC通して著作権の問題をクリア出来たとしても、ピアノとか歌とかの録音もあって制作は難しい。ピアノを弾ける人を探さなくちゃいけないし、ママさん役の歌って芝居ができる人を探さなくっちゃいけない。おそらく、ピアノや歌は普通のスタジオじゃ出来ないと思うんですよね。そのぶんの段取りが増えれば増えるほど制作費が嵩んで、予算的に厳しい。申し訳ないけど。

皆田:そのへんの制作問題で大賞になれないのは、ちょっと可哀想だな。

南のシナリオ大賞審査員_皆田和行

副島:それを踏まえたうえでの評価ですが。年上の女性に惹かれる思春期の少年というのと、才能あるのに家の事情で好きな道に進めないという設定が、私個人の思い出と重なって。こういう話に弱いんです。
それと、いちばん良かったのは、ラストで年老いたその女性と無理に直接対面させていないところ。ピアノの音でつないでふたりの再会を描いている。こういうところに、涙腺を刺激されるんです。これ、ヘタクソは直接対面させちゃうんです。老いてシワクチャになった掌をさすったり涙こぼしたりといったベタな芝居を書くんだけど、ピアノの音で上品につないだところが良かった。

皆田:ぼくはまず、ママさんが生きていたことに感動しました。喋れなかったのが歌を唄ってるって。てっきり死んでいるものだとばかり思って読んでいたから、どういうオチにするのかなと思ってたら、寝たきりでおむつを換えるって出てきて、びっくり感動しましたよ。

盛多:終わりのほうの「おむつの様子を見てこないと」というセリフが出てきたときに、残酷な時の流れを感じちゃって。

副島:それそれ、そこがいいんです!

盛多:ここけっこう効きますね。

香月:ディテールは非常に斬新だけど、ストーリーの運びがね。大枠はだいたい予想つくんです、箱書きが定番だから。

副島:そういったところを超えて、私は感動させられたんです。ただ、無駄に長いんです。モノローグで綴ってますけど、削れるところはいっぱいある。最初のマネージャーとのやりとりなんか全然要らないし。

皆田:ぼくは冒頭のマネージャーとのやりとりは必要だと思う。どういう設定なのかそこですべて分かるので。

盛多:枚数多いみたいだけど、尺オーバー?

副島:オーバーしてます。さらに、これに音楽が入るから、制作したらもっと長くなります。だから作れない(大賞はない)というのは大前提で、脚本としての評価です。

香月:脳梗塞で右手が駄目になって左手だけで演奏会してるピアニストがいるじゃないですか、その話と被るんだけど。それは構わないのかな? ぼくの場合、それが非常に被ってですね、邪魔しちゃってね。右手が駄目になって一辺治すんですよ、それで一念発起して左だけで一生懸命やって。聴いたことあるけど、ものすごく上手いんです。たいへんな苦労があっただろうなって思って。それがこの話とダブっちゃって、ぼくのなかで邪魔するのね。一般的にそれがいいかどうか? 皆田さんにお伺いしたい。

皆田:これには、その努力した話は出てこないんで……

香月:いいのかな?

皆田:(主人公のピアニストが)原点に戻ったってことだけなんで。

香月:これ、一応この審査会で討議したってことにしておかないといけないですね。

墓参り代行

副島:とても素直に書かれた良作で、主人公の青年に好感を抱きました。でも、素直すぎてストーリーが平凡な印象になった。

盛多:いま副島さんが言った「素直すぎて」というところを、たぶん、ぼくらは評価していると思います。

皆田:これ、タイトルって書いてあるじゃないですか。

盛多:これはない。

副島:タイトルって、ここ(3ページ)に書かれてるのですか? 私もやりますよ、アバンやるとき、ここにタイトルアナウンス入れて欲しいってことで書きます。テロップ出せってことじゃないと思います。

盛多:おれはやんない。ここにタイトルは入れない。

皆田:それも含めて、この作品は映像的だなと思った。洞窟のシーンだとかエメラルドグリーンの海が綺麗だとか、スマホのテレビ電話で遠隔でやりとりとか。

香月:いまスマホの話が出たけど、ぼくは、むしろそっちを評価しているんですよ。どういうことかというと、日常を使ってもこれだけのドラマができるっていう、そういうところを評価してる。切り詰めた15分のドラマを書くとき、みんなすごく凝縮したセリフ書くじゃないですか。これ、あまり凝縮してないですもんね。すーっとはいってきちゃうけど、日常語でもこんなに情緒をだせるんだと、ぼくはそこを買ったんですよね。アプローチが変わったら別の評価が出るのかもわからないけど、それはそれで別の評価もあってもいいと思うけど。

皆田:あと、おとうさんのことをもう少し知りたいと思った。洞窟に行って思い出すんですよね、ここ来たことがあるって。それって何か問題あるんですか? 父親との確執が過去にあって、そこへ行けば誤解が解けたってようなことがあるのかなと思ったんですけど、話の流れのなかで何かを解決するとかがなくて。だた思い出の場所に行ったってだけなのかな。

荒木:おとうさんと別れたときはまだ小学2年生ですよね。その幼い感覚で残っているおとうさんとのいちばん深い思い出を、親族が会ったときとか、おばあさんもいつもその話をしていて、離婚後もそういう話題が出ていたというエピソードがあったんじゃないかと思うんです。そこから、離婚したあとにおとうさんと一緒にいたかったんだけれども選べなかった、嘘をついておかあさんを選んでしまったという後悔を出してきたのが上手いなと思いました。これがなかったら、ありふれた話かも知れない。

盛多:ぼくはそこがいちばん疑問でしたね。なぜこの男の子はおとうさんを選ぶんだろう? この子の世代ってだいたいおかあさんを選ぶんですよ。何故おとうさんを選んだんだろう?

香月:それはぼくも疑問に思った。説明がなかったですもんね。(船から)滑り落ちそうになるのを救ってくれる、その腕の思い出があったでしょうけど、その前に父親を選んでるんですよね。

盛多:肌の感じとか抱きしめる感じというのは、母親に向かうんじゃないかと思いますけど。

香月:そこはちょっと、ぼくも不満だったけれども。

盛多:例えば、母親はこんな酷いやつだった、みたいなのがあったなら別だけど。普通は母親を選ぶんじゃないかって、思いましたね。

荒木:主人公としては、おとうさんはまだ元気に生きているんだろうと思っている、普通の思考の持ち主なんじゃないかな。当時のおかあさんを選ぶ、そういうことも理解できるんだけれども、好き嫌いで選ぶと、おとうさん。

盛多:とすれば、宗介のそうした部分を伏線として張っておく必要があると思う。なるほど、こんな理由でおとうさんを選んだのだと、納得させる何らかの伏線が欲しい。

皆田:洞窟でのやりとりが父親を選んだ理由なのかな? 力強い父親が好きだ、みたいな。

荒木:最終的におとうさんおかあさんを選ぶってことではなくて、自分の気持を言えなかった心残りがあって、最後に「おとうさんは知っていたよ」と解決している。

副島:主人公のなかに、自分が嫌っているという印象をおとうさんに与えていたんじゃないか? というのがあれば、それが生きるんだけど。

盛多:アンチテーゼからテーゼに持ってくるって話なんだけど。作りとして素直だというのは、それが一切なくてここに出てくるというのが、ちょっと分かんないというのは確かに。
11ページの宗介モノローグに「スマホの画面に、手を振る笑顔の澄子が写っている」って突然呼び捨ての名前が出てくる。澄子って誰よ?

荒木:おばあちゃん。

副島:最初に皆田さんが言ってたように、このシナリオは完全にテレビ感覚で書かれているから。施設からかかってきた電話で(澄子の名前は)一度出てはいるんだけど、聞いている側の記憶には残っていない。ラジオはこれがあるから怖い。

香月:「墓参り代行」っていうタイトルは良くないですね。タイトルはもう少し跳んでもらいたかった。

盛多:このセリフの書き方をみると、この人はタイトルで跳べないね。

香月:だけど、もう少し別の象徴的な、新しいタイトルはなかったんでしょうかね。

盛多:副島さんが言う素直すぎっていうのは、もう少し練って欲しかったって事ですか?

副島:ドラマって興味と共感じゃないですか。興味を掻き立てるってのは、見る人聞く人の予測を裏切ってくれないとグッと引き込まれない。それで惹きつけておいて、そのあとに共感があって満足させる。それが基本中の基本でしょう。(この作品は)そうしたところが希薄だった。

香月:セリフのタメがないですもんね。あまりにも日常的すぎるから。

どこにでもいる夫婦

副島:サスペンスものとしてものすごく巧く書かれてる。手練手管に秀でているって感じです。

皆田:ふたりとも売れない俳優だったんですよね。健太は売れていって、贅沢して太って不倫やって、それで、むかしの健太は死んだってことですが、香奈っていう奥さんのほうはどう死んだんですかね? これが分からなかった。

盛多:生きていれば人間は何度でも生まれ変われる、というのがテーマとして流れているんですが。
例えば(この作品を)作るとした場合に、25歳と55歳とで声質を変えると(同一人物であることが)分からなくなる。歳とったからといってそんなに分からなくなるものなの? 現実的にこれを制作することを考えたときに、聞く人にこれ(権藤と健太が同一人物であること)分かるのかな?

香月:一度聞いても、ぜんぜん分かんない。すごく難しい。というのは、頭で書いてるからね、この作者は。
メタファー力というか暗喩力というか、それは凄い。簡単に言うと、男も女も歳とってくると変わるという、過去の自分を殺して通俗的な人間に成り下がっていくという認識を持って人生を歩むのだけれど、それを暗喩で描いている。その力は凄いと思った。トーンがずっと気怠いでしょ、この気怠いトーンというのがなかなか良いんです。

皆田:読んでいて鬱陶しくなった。健太を殺した、あんたが殺したって、何度も何度も出てきて。最初はなんでそんなことになったんだろうって読みすすめるんだけど、実際は物理的に殺したってわけではなくて、(心境の)変化だったわけで。この女、狂ってるのかなって。

副島:そう、狂ってるんです。夫が有名になって外に女つくって家に寄り付かなくなったみたいなこと言ってるけど、それは主人公の主観で書かれたセリフであって、本当はそうじゃないかも知れない。けど、彼女にはそのように見えている、というふうに私は解釈したんですけどね。

皆田:そうなってしまったので、むかしの香奈は死んだってことに?

副島:私が想像するに、この女のほうがスターになりたいという自己顕示欲が強くて、だけど夫のほうが有名になっちゃって、そこに羨望とか妬みが生じて、そういうのが募り募って壊れていったんじゃないのかな。「スター誕生」を男女逆にした人物関係になるけど。

皆田:いまの原稿のままだと、彼女のどこの部分が死んだのか分からない。

副島:トイレを汚しているって家政婦さんに愚痴られるとか、謎解きみたいなミステリー要素が強いじゃないですか。それよりも、女の狂っていく過程に軸を置いて話を構築していたら、ドラマに深みが出て良かったんじゃないかな。これ、ちょっとエンタメに傾いてますもんね。サスペンスものとしての作りは、とても巧いです。

香月:おそらく作者は女性ですよ。女性は極めて彫り深く描かれているけど、男はパターンなんです。

副島:最初に読んだときはそう思った。有名になったから贅沢して不倫するとか、すごく短絡的、マンガチックだなあって。

香月:作者の主張というのは、タイトルにもあるように「どこにでもいる夫婦」でしょう。だから、環境は違っていても、多かれ少なかれ夫婦というのはみんなこうなんですよってことでしょう。これはひとつの例であって、設定は違っていてもみんなこうなんだよ、ってことを言ってる。

盛多:この女は狂っているんだろうと追っかけて読むんだけど、実を言うとなんだこいつらって何処にでもいる夫婦じゃん、というのが見えてくるというのは確かにあるんですが。それっておもしろいのかな?

皆田:トイレットペーパーとかおもしろいですけど、やっぱり映像的かなって気もしますね。

荒木:後味が苦手というか、ちょっと悪い感じがします。

副島:ここ(最終選考作品のなか)で比較しちゃうから、この作品だけものすごく嫌な感じがするんです。このあと(審査する作品は)明るいのが残ってますから。

盛多:じゃ、次に進みましょうか。

南のシナリオ大賞審査員_盛多直隆

ほてぱき

副島:次は「ほてぱき」。

盛多:うわぁー、どうしよう?

副島:これ、評価するの難しいですよ。

香月:この作品は審査員に対する挑戦だと思います。これは、やっぱり一線を超えなければいけないですよ、審査員の方も。
個人的な意見を言わせてもらえれば、ぼくは大好きですね。

盛多:正直言って、ぼくもまったくそのとおりです。
はじめのところで、「ダンボール」「ルパン」「ンジャメナ」「ナン」「ンゴロンゴロ保全地域」「キリン」。ここすげー面白かった。

香月:しりとりという具体的なものもあるけれど、それ以前に面白みがある。

副島:並べられた単語が、その言葉自体がたまらなく可笑しい。

皆田:しりとりは、最後に「おとうさん」って言わせてるのが上手だなって思って。

盛多:そこは計算尽くですよ。

皆田:最後に客を乗せるじゃないですか、その土佐の客が逆読みして「ぱきほて」とか。だから余計に分からなくなって。分からないうちに分からない話がまた乗っかってる。最後の客は要らなかったんじゃないかと思うんですが。

盛多:要らないかも知れないけど、「おとうさん」で終わったら普通じゃん。

副島:それと、親子での閉じられた世界が、第三者が入ったことによって「ほてぱき」が共有されて、(ドラマ世界の)広がりになっている。

盛多:「お客さん。今ぱきほてって」「言ってません。言いません」って、これは芝居が難しい。音というのは流れていくんで、客が「ほてぱき」と言ったのか「ぱきほて」と言ったのか、このセリフをきちんと残さないと「言ってません」が効いてこない。

皆田:「ほてぱき」ってなに? っていうのをずーっと考えていたところに、輪をかけて、え、土佐にもあるの? って。

香月:土佐って具体名出したのはまずかったね。

皆田:話は話で良かったけど、ポカーンがまた大きく残っちゃう。最後に客が入るのはいいんですけど、もう「ほてぱき」じゃなくてもいいじゃないかって。

盛多:2ページの「クマタカか、クマコウか?」って、これ誰なんだよ。

皆田:高校でしょ、クマタカが熊本高校で、クマコウが熊本工業高校。

盛多:え、高校?

副島:だって、その年頃の女の子じゃないですか。だから、彼氏っていったら何処の学校の生徒だって。

盛多:なるほど、そういうことか。

副島:細かいところまで調べてるでしょ。

盛多:なんか、すごいムカつく。
それと、オランダ人の名前はペロなのかテロなのか。どっちなんだよ。

香月:あれは面白かった。なかなかおとうさんが名前覚えきれない。

副島:本当は知ってるんだけど、絶対口にしない、したくないという。

香月:とぼけてるんですよね。

盛多:セリフの強弱のつけ方が絶妙で、例えば「オランダ人のパパは、ベランダでチューリップ育てたり、カステラ買ってきたり」って。

副島:それ、「いまでは長崎のイメージ」って。面白いよね。

香月:人物の描き方が上手いと思う。家族4人登場するけど、4人とも性格がはっきり出ている。新しいおとうさんやおかあさんのこともよく分かるじゃないですか。

盛多:タクシーの中の父親と娘の会話は秀逸だと思います。「四角い方がほてで、丸い方がぱき」「ほてとぱきに分かれるんだ。じゃあ。こうしたらぱきほて?」「栞。それはダメだ。戦争になる」って。ここで「戦争になる」ってセリフが出てくるのが、面白れぇなーと思ったんですが。

香月:これはラジオでしかできない。テレビじゃ絶対できない世界です。

盛多:問題は、ぽてぱきか。

皆田:そうなんですよ。

盛多:困っちゃうんですよ。

香月:それを、審査員が許すか許さないかですよ。

盛多:在るものとして考えちゃうんですよ。貝のように組み合わせて、世界にひとつしかない、なにこれとか思いながら。

香月:普通これ読んだら貝合せを連想しますよね。だけど、片方が丸くて片方が四角で、それでくっつくわけでしょ。だからなんだろうって、意味分かんないですね。

皆田:食い物じゃないんですよね。美味そうとか粘り気がグミみたいとか言ってるけど。

副島:「ほて」と「ぱき」は二つで一つ、組み合わせは世界で一つしかないというのが、親子のつながりって分かる。これを具体的に、どんなカタチでとか言う人はいないと思うけど。

香月:ぼくは、「ほてぱき」はレーゼドラマ、読むドラマの感じ。読んだらすごく良いんですけど、これを演じたらすごく難しい。大賞で配信するときは「ほてぱき」に関する疑問をどこかで解いてやらなきゃいけないね。

副島:その、解いてやらなきゃいけないというのはどういう意味ですか?

香月:「ほてぱき」というのが分からないでしょ。

副島:そこが面白いじゃないですか。

香月:ぼくも面白いと思うけど、それを許さない人もいると思うんですよね。

副島:どういう人?

香月:だから、ドラマとしては成立しないんじゃないかって。

副島:そんな人はいないと思いますよ。これが架空のモノで、親子のメタファーというのは分かるんじゃないですか?

香月:ぼくはいいと思うんですよ、でもそれを許さないって人もいるんじゃないかなって。

副島:それはいないと思いますよ、これ、分かりますもの。

香月:分かるんだったら、ぼくはいいと思うけど。いちばん大好きな作品だし、分からないところが良いと思ってるんですね、本当は。つまり、想像上の動物で……

副島:動物なんですか?

皆田:なんかネバーッとしてグミとガムの中間ぐらいの柔らかさがあって。

副島:柔らかさがあるんですよね。

皆田:具体的に書いてるんですよ。

香月:動物か植物かわからないけど、「ほてぱき」って生き物があるわけですね。

副島:生き物なのかなあ?

皆田:生き物って書いてましたよ。

盛多:これ単純に、書いた作家に会いたい。

皆田:ポカーンとハテナマークが浮いたまんまで。物語としてなんか解決してもらわないと。親子のってのを書いてあれば考えられるんでしょうけど。それを打ち消すように具体的にねばーとか美味しそうとか……

副島:食べたら死ぬんですよ。

皆田:そう、死ぬんです。そんなものをお土産で渡すんです。意味分かんない。もっと親子の絆というのを想像させる表現をすりゃいいのに、具体的に書いちゃってるから。これ何処で売ってるんだろうと思うし、食ったら死ぬものを売ってるのかって思うし、父親がそういうものを娘にプレゼントするのかって思うし、そこに何か意味があるのかな。

副島:そういうところに意味を求める人がいるかもってことですか。

皆田:ぼくは求めるよ。

副島:クエンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」で、なんか凄いのがアタッシュケースに入っていて、それを奪い合って殺し合いやってるんだけど、開けると強烈に光ってる。だけどそれが何かは分からない。それと同じですよ。ヒッチコック映画でいうところのマクガフィン。なんか分かんないけど凄いもの。なんか分かんないけど温かくて良いもの。それが「ほてぱき」だ。

盛多:皆田さんの意見としては、「ほてぱき」をキチンと説明しないといけないと。

皆田:そうです。キチンと説明っていうか、親子の絆を象徴するものであれば、具体的な表現はないほうが良かった。想像させといたほうが良かったんじゃないだろうかって。

香月:南のシナリオ大賞はネット配信で何回でも聞けるでしょ。そういった意味で普通の放送とは違うので、そのへんの疑問は何度も聞いて自己解決してもらえるんじゃない。これが大賞になったら評判になると思う。

月の石の指輪

盛多:料理を作りながらスピーカーで会話をしているというのがクロスしていく、ここの入りは楽しく読めました。そこにリポーターの声が入ってくるというシチュエーションは面白い。

皆田:ふたりの会話がポンポンいって、面白いなーと思った。

盛多:最後のどんでん返しの、月の石の指輪を贈るからって、これ効くのかな?

皆田:宇宙センターで働いてるって電話で言ってたから、発射のスタッフとかで、そこにいるんだろうと思って読んでたら、あれ、ひょっとしてって……最後はおぉ、やるねえ! って。
プロポーズの話なんですよね。ちっちゃい頃に、月の石の指輪をもらったら結婚してあげるって言われたんで、それを実現しようって。

副島:ロマンチックな話なんです。

荒木:月の石の指輪っていうところが、ちょっと引っかかる。ロケットに乗っているところからのプロポーズですよね。こんなのアリなのかって。

盛多:それ否定したらこの物語全部崩れちゃう。でも、宇宙飛行士って飛んでいくとき雁字がらめに縛られているじゃないですか、その状態でどうやって話してるんだろう。

荒木:どうせなら(月に)行ってしまってからやった方が良かったような気がする。これから降りて(石を)採りに行く、それを中継しながらのプロポーズのほうが。

南のシナリオ大賞審査員_荒木弘子

副島:おれは「ヤダヤダヤダ」って駄々をこねるのが許せない。こんな重要なミッションに参加している男が、こういう幼稚な態度をとるなんてありえないでしょう。難しい試験を突破して厳しい訓練とか受けてきたスペースマンなんだから、それにふさわしいセリフとか考え方があるじゃないの。これじゃただの駄々っ子だよ。

盛多:3年間帰ってこられないというのを前提に乗ってるんで、3年帰れないなら言うぞ俺、みたいな。

香月:ぼくはこれをドラマじゃなくてコントと理解してるんですけどね。コントとしてはものすごく面白い。

副島:登場人物が3人なんですけど、台所とロケットとリポーターとそれぞれ場所を3つ作らなきゃいけないんで、音は面白いと思います。

盛多:ロケットの打ち上げとか、音的には面白いと思う。ただ、英語で怒号がとんでくるとか(収録を)どうしようかと思っちゃう。
あと、ふたりに性格の差別をつけないといけないんだけど。このセリフの流れ方からすると、ふたりは一緒で、焦っていって返しちゃうっていうパターンの作り方というのは、なんか、今までどおりかな。

副島:漫才のボケ・ツッコミでしょ。

盛多:そうそう、そのパターン。

最終審査再投票

盛多:ここで5分間の休憩をとって、推したい作品をもう一度挙げてもらっていいですか。それで最終を決めたいとおもいます。

香月:どれとどれが残っていますか?

副島:「どこにでもいる夫婦」「墓参り代行」「ほてぱき」「月の石の指輪」「不知火」「無音の伴奏」、6篇です。

盛多:投票はひとり3票、6篇のうちの3作品を選んでください。

「ほてぱき」5票(1+1+1+1+1)
「無音の伴奏」3票(1+0+1+0+1)
「不知火」3票(0+1+0+1+1)
「月の石の指輪」3票(0+1+1+1+0)
「墓参り代行」1票(1+0+0+0+0)
「どこにでもいる夫婦」0票(0+0+0+0+0)

盛多:1票の「墓参り代行」は落としていいですか?

香月:はい。

盛多:票数からいって、大賞は「ほてぱき」になりますが。

副島:「ほてぱき」を大賞に選ぶというのは、南のシナリオ大賞14回の成果ですよ。だってこんなものを選ぶ、こんなものって言っちゃ失礼だけど、これを選ぶコンクールなんて他にないですよ。

盛多:反対意見はない?

荒木:このドラマを聞いてみたいです。どう出来上がるか楽しみです。

香月:ぼくは「ほてぱき」が大賞なら、今回は言うことなし。

盛多:いちおう「ほてぱき」を大賞としておきましょう。あと、優秀賞を2篇選ぶことになりますが、3票入ってる「月の石の指輪」か「不知火」か「無音の伴奏」か。

香月:3本から1本落とすのね。

副島:去年は優秀賞は3篇でした。応募要項では大賞1篇、優秀賞2篇で募集かけてますけど、去年は例外的に優秀賞を3作品選出して、大賞とあわせて4本のシナリオを公開してます。これが、今回応募が増えたことの要因かも知れませんが、4本ともに例年の2倍以上読まれているんですよ。今年もそれでいっちゃったらどうです?

盛多:残っている3本を優秀賞にってこと?

香月:ぼくはそれに賛成です。この3本のうち1本落とすというのは辛いものがある。

副島:落としたい作品ないですもんね。

盛多:では、大賞を「ほてぱき」、優秀賞を「無音の伴奏」「不知火」「月の石の指輪」に決定します。

皆田:去年の大賞が長距離バスの中の会話で、今年がタクシーの会話、南のシナリオってそういう傾向ですかー、みたいな。

副島:それは違う。そういうことではない、と太文字で書いておきます。

2020年10月11日、福岡市中央区赤坂
審査委員:盛多直隆皆田和行副島 直香月 隆
実行委員:荒木弘子

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