第5回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
作品内容および一次審査員の寸評(応募順)
「敵艦見えず」
終戦末期、特攻にいく3人。しかし、途中でグラマンに待ち受けされて、特攻せずに終わる。それで、命が助かる。
戦時の状況を再現したドキュメントとして興味深い内容だが、昭和40年の回想として書かれた作者の意図が分からない。
「ちゞみ 夜空に咲く向日葵のように」
花火大会に行く女の子の着物を選んでいると、その中にかつて小倉の名産品だった小倉縮があった。
設定としては面白いし、ドラマ性はあるものの、説明に終始している。もったいないとしか言いようがない。
「十八歳の稜線」
大学受験に失敗した男は、予備校への入学申請を出さずに、ブラブラしていた。暇な男は宮崎で牛を飼う仕事に付かされる。
タイムリーは、タイムリーだが(口蹄疫)しかし、ドラマは、説教調で、面白さはない。先が読めてしまう展開になっている。
「出来心」
退職1か月前の男は、現金輸送車を乗っ取る行為に出た。逃走の途中、中学生に逢ったりして、なんとか元の鞘に収まる。
どっかであった事件が基礎になっている。とはいえ、最後まで読ませてしまう。
「南の神の島」
主人公は、大学卒業前の男。霊感があることから、南の島のユタを訪ねることにした。
ユタを訪ねる設定は面白いと思うが、ストーリーにリスナーを惹きつける魅力がない。テーマも曖昧で、作者の意図が伝わってこない。
「行き先のないバス」
天国行きのバスにのる話。
書き方は完成されている。読ませる力はあるが天国行きのバスに乗る話はいささかありきたり。
「タクシーカウンセラー」
娘に死なれた沖縄のタクシー運転手と半端ツーリストの心の交流。
明るく温かい。細かな仕掛けが生きている。
「夕日を追いかけて 黄昏のビートルズ」
定年前日と当日の夫婦のドラマ。夕日の博多へ帰郷する。ビートルズが待っている。
定番ドラマだがそれなりに泣かせる部分がある。わかりやすい。
「屋根裏のカボス蜜」
東京で勤める女性が初盆で大分の実家に帰郷した。実家で繰り広げられる家内のごたごたを通して郷里の思い出に抱かれる。
それなりに説得力ある帰郷ドラマだがラストが定番。設定が少々煩雑。
「おばあちゃんのほっぺ」
日南で孤独に生きる老女の話。
老女の生きるさびしさをたくみに描いた。スタイルも新しい。Nでかたずけている部分があるのが玉に瑕。
「八月九日 小倉上空」
原爆搭載のB29を迎撃するために小倉基地を飛び立った日本軍兵士たちの物語。
戦争に詳しい人たちには興味のあるストーリーだが、ドラマ自体に新味はなく、多くの人の心をとらえるかどうか。
「泣こかい、飛ぼかい、泣こよかひっ飛べ」
東京からの転校生が鹿児島でイジメにあうが、祖父から父の話を聞き、敢然とイジメに立ち向かう。
エンド近くまでは読ませるがラストが不完全。
「夏休みの話」
小学六年生の少年が、夏休みの思い出作りに一人旅に出るが、自分の就活を有利にしようとする女子大生に利用される。
着想・構成はおもしろい。登場人物がもっと濃いとよい。
「写真の記憶」
写真屋さんの両親と娘の話。写真屋が嫌いな娘だが、訪れる客と写真について語る父親を見て理解していく。
ドラマが描かれている。仕掛けも効いている。
「福岡発最終便」
夫や姑、小姑の目を気にしながら息子の卒業式に出かける妻。息子から夫の優しさを。
夫と妻の立場の違いと内心が描かれている。最後も安心させられる。
「海のある町」
柳川に婚約者を連れて帰ってきた男。婚約者は海辺の町と聞いて、白砂青松を期待していたが有明海は泥の海。しかし周りのみんなの良さに街を好きになっていく。
テーマがテーマになりえないものだったように思います。
「西から吹く優しい風」
結婚を控えたOLと旅に出た同僚。偶然の旅先は、実は両親が離婚する前、幼いころに住んでいた町だった。
展開も今風で、軽やかな筆致。まさしく優しい風を感じる。
「ハイビスカス・ホテル」
年上で40近い妻は、旅先でも子作りのことばかり。年下の夫はうんざり。台風に遭った夫からのプレゼントで目覚める妻。
妻の思いは伝わる。こういうホテルがあるといいと思う。
「わたしと庭師とほだし」
キャリアウーマンの娘が帰省した折に、庭師のおじいさんから教訓じみた話を聞き、仕事に悩む自身に重ね合わせ、少し解決。
話は考えられている。ただ展開がストレート過ぎる。
「カメラシャイ」
写真嫌いの祖母が亡くなった。祖母の面影を探して、主人公の女の子は祖父と長崎へ。祖母の笑顔を奪ったのは原爆だった。
物語の切り口も良いし、運びも巧い。効果音の使い方も適切。主人公のNがいい。朴訥な祖父のキャラクターもいい。個々のセリフも生きている。祖母の笑顔を発見した時の感動がもう少し押してあれば満点だった。
「百年の砂虫」
鹿児島・指宿温泉(いぶすきおんせん)の砂蒸しを昆虫(砂虫)と取り違えた少年が、アトピー治療と言って妹を公園の砂場に埋めようとする。そこへ近所に住む寅爺が通りかかって……
老人の珍講釈が古典落語の彌次郎噺みたいで楽しいし、少年の妹を思う気持ちもいい。最後の老人の独り語りもしみじみ味わい深い。独居老人と少年の組み合わせは黄金のパターン。前半と後半で主人公が交代し、全体の構成は歪だが好感が持てる作品。
「星と船のアクアリウム」
種子島に漂着したメッセージボトルに入っていたのは、宇宙開発の夢を記録したビデオカセットだった。宇宙工学を専攻する少年とアメリカ人宇宙飛行士との友情。
無理のない素直なモノローグが爽やか。作者はアニメ映画「秒速5センチメートル」のファンか? 主人公と元宇宙飛行士の葛藤場面もくど過ぎず上出来。
二次審査通過作品
(4)「西から吹く優しい風」
(4)「カメラシャイ」
(2)「十八歳の稜線」
(2)「出来心」
(2)「タクシーカウンセラー」
(2)「おばあちゃんのほっぺ」
(2)「百年の砂虫」
(1)「南の神の島」
(1)「屋根裏のカボス蜜」
(1)「泣こかい、飛ぼかい、泣こよかひっ飛べ」
()内の数字は審査員投票数
二次審査
「十八歳の稜線」
皆田:茶髪の兄ちゃんと福岡の少年、二人のキャラが立っていて良かった。
香月:人物はよく描けてる。テクニックはあるんだけど、弾んでない。要するに躍動感というか、お説教になっているでしょう。作者のメッセージが素のままセリフに出てしまってる。
副島:田舎の青年が説教調で喋るから、そこをヤンキー風のキャラクターにしたっていう工夫はみられるんですけど。
盛多:この作品の良いところって、極論すると金髪の兄ちゃんのキャラクターですか?
皆田:そうですね。
副島:口蹄疫で処分される牛の悲痛な啼き声が聞こえてきました。
「出来心」
香月:ぼくはこれ好きなんです。描き方が結構うまい。
盛多:元ネタはあの事件ですよね。ギャンブルで借金つくって現金輸送車を持っていったという。
皆田:定年を前にした男がそんな夢を見て、明日はちゃんとやろうみたいな、そんなオチを予想しながら読んでたんだけど。
盛多:うまい具合に中学生が出てきたなって気もします。
香月:中学生じゃなくて高校生のほうが良かったな。
「タクシーカウンセラー」
盛多:なんとなく沖縄の匂いがするところが良かった。
香月:やりとりの軽妙さとか、ちょっとした意外感というのはある。楽しいけれど何か不足している。
副島:土地に馴染めないから自殺したくなったというのは、それはそれでいいんだけど、本人に自殺したくなるほど切羽詰まった感じがみられない。
盛多:それで最後に生き方が変わったって、そりゃないだろうって思うところはあるんだけど。
皆田:なにかと幽霊が出てきて解決するってパターンがどうもね。
副島:わざわざ幽霊が出てきてまで説得しなけりゃいけないことかな。
「おばあちゃんのほっぺ」
盛多:この作者は今回3作品応募しているけど、3つのなかでは一番良かった。
皆田:これは(ドラマとして)成り立ってますね。
香月:「夕日を追いかけて 黄昏のビートルズ」も良かった。
皆田:ビートルズは話が順調過ぎる。
盛多:3本とも予定調和だけど、よく出来てますね。
香月:味があるのは「おばあちゃんのほっぺ」でしょう。
副島:「おばあちゃんのほっぺ」は、タイトルでけっこう点数稼いでますよ。
「百年の砂虫」
盛多:これ、単純に好きな作品です。
副島:私も好きですけど、他の候補作に並べるとちょっと落ちるかな。
香月:語り口が面白い、落語みたいな感じで。
副島:それと、ラストのおじいさんの語りですね。ジーンときたんですけど。でもまとまり悪いですよ。子どもの話から始まって、おじいさんが仏壇の前で呟いてるところで終わっちゃうんだから。
香月:ラジオドラマとしてはたして成立するかどうか。落語風に聞いてると面白いけど。あまり好きじゃないね。
最終審査
皆田:「西から吹く優しい風」と「カメラシャイ」には全員の票が入ってます。
香月:「西から吹く優しい風」はセリフも良くてテンポもあるし非常によく書けてるけど、今風の風俗を描いたに過ぎない、と言えなくもない。
盛多:「カメラシャイ」はよく出来てますね。完成度が鼻につくほどによく出来てる。
副島:これまで何年間か一次審査の応募作を読んできて、ピンときたのはこの作品が初めてだったんですよ。
盛多:おれも、読んだ瞬間、大賞だなって思った。ケロイドとか死ということじゃなくて、原爆が奪ったものがもっと大きなものを奪ったというのが背景に見えるのがいいなと思った。
副島:数のことばかり言うけれど奪ったものは数だけじゃない。このあたりのセリフもうまいです。
盛多:それは認めます。
香月:原爆で顔がケロイドになったから写真嫌いになったってことでしょう。そういう設定って今までなかったっけ?
皆田:こういうネタってぼくらが知らないだけで、長崎や広島には転がってるんだろうなって気がする。
盛多:それはありますね。
香月:これ、去年の佳作(「朗読の仕事」)の作者ですね。がらっと変えてきてる。
副島:書こうと思えば、去年のような変化球じゃなくて直球でも勝負できるんだぞ、みたいな。
香月:でも一点気になるのは、結婚写真もないしその後もまったく無いというのは不自然じゃないかと思った。
副島:それさえも無かったというところに、悲劇の重さがあるんだなと私はとったんですけど。
香月:東京に行ったのはいつ頃だったですかね?
皆田:戦後の混乱期に、仕事を探しに長崎から東京まで自動車で行ったってことになってます。
香月:戦後の混乱期って昭和22、3年頃までじゃない。
盛多:行けないですね。
香月:当時の道路事情を考えると、自動車で東京までというのは無理がある。ただ、いちばん最後の感動は素晴らしい。
副島:学校の美術室で、原爆投下前に描かれた、綺麗な笑顔の肖像画が見つかる場面ですね。
香月:テレビだったらおかしいんだけど、ラジオだから聞き手に清純なイメージを喚起させる。
副島:そういうところが、やはり「西から吹く優しい風」よりはラジオ的かと。「西から吹く優しい風」もチャーミングで素敵な作品ですけど、ドラマの世界観が小さい。狭い。
香月:「西から吹く優しい風」は、嬉野温泉とか有田の陶山神社を知ってる人にはすごくよく分かるんですよ。ふつうはこれ見よがしに取り上げるけど、これらの名所をうまくドラマのなかに組み込んでいる。
副島:「西から吹く優しい風」も好きですよ。だから絶対反対ってことじゃないです。でも大賞とするなら「カメラシャイ」。もし間違って答えたら崖から突き落とすって脅されたら「カメラシャイ!」って叫びます。
皆田:毎年、ひとつは戦争ものが上位に残りますね。
香月:今年は特に戦争ものが多かった。平成23年というのは日本にとって異常な年だったから、そういった社会背景も多少は考慮しておいたほうがいいかも知れない。仮に「カメラシャイ」を次席にして、「西から吹く優しい風」を1位にしたらどうだろう?
盛多:ちょっとバランスがとれない。
香月:やっぱり世界観が大きい作品が1位になるべきかも知れないね。「西から吹く優しい風」は狭い世界だけど完璧。ぼく個人は「西から吹く優しい風」を大賞にしてますが。だけどホームページに一年間掲載するわけだし、バランスを考えると……
皆田:そんなバランスなんか、クソ食らえですよ。
副島:たしかに、いつまで俺たちは戦争の影を引きずり続けてなきゃいけないんだろうって気持ちも、あるにはあるんですけど。
皆田:こういうときですよ、じゃあ戦争もの以外は必ず負けるのかって話になるじゃないですか。
香月:競り合っているときは、戦争が入ってるほうが勝ってしまう。
盛多:そういう風潮はありますね。
香月:「カメラシャイ」は、写真がまったく無かったというところが、どうしても引っかかる。瑕瑾(かきん)というか玉に瑕だね。その点「西から吹く優しい風」には瑕はないもの。だから僅差で「西から吹く優しい風」が勝ってるんだけど、だけど戦争があるから崖から飛び降りるときは「カメラシャイ!」って叫んでしまう。
皆田:「戦争ハンターイ!」って。
香月:そりゃ平和を訴えてりゃ間違いはないんだから。そこに阿って(おもねって)いるというと言い過ぎだけど、戦争を描けば高評価されるのか、っていうとそれは違うんですよ。
皆田:九州支部がどんな作品を選んだのか、本部(放作協)も含め各方面からも注目されているわけで。
盛多:あえて「西から吹く優しい風」でいってみますか?
副島:なんか、女の子のツィッターみたいなドラマだねーって。
盛多:やかましいなー、ほんとにもう。
副島:私は突き落とされる間際に「カメラシャイ!」って叫んだんですから。思い残すことはありません。続きはCMのあとで。
皆田:おしっこ行ってきます!
総評
皆田:ぼくが一次審査したのは22本ですが、もうちょっと頑張れば良いのにって作品がけっこうありました。発想がいいのはありましたが。いちばん感じたのはセリフですね。第1稿、2稿で終わらせてるような。ラジオだからセリフが説明になるのはしようがないけど、もう少し推敲して作品に仕上げて欲しい。
盛多:去年から続いてるけど、シナリオの書き方とかシナリオセンターとか、習ったもので書いてる作品が多い気がする。平均化してるというか。それと発想がどこかで止まってる感じがします。もっと我儘でもいいし、結末をキチンと収めなくてもいいから、飛び跳ねた作品が欲しい。
副島:私が一次を担当したぶんについては、けっこう個性を主張している作品が増えてきてる感じがありました。ただ技術的に稚拙なものが多かったので選考には挙げませんでしたけど。自分の言いたいことやりたいことを表に出して書かれた作品が、多くなったように感じられました。
香月:全体89編を見ると、昨年に比べてバラエティに富んだ作品が集まったように思います。従来のラジオドラマのパターンからはずれようと試みた作品とか。それと今年は、戦争をテーマにした作品が例年より多かったですね。2011年、日本の大凶年を反映した深刻なテーマを扱った作品、問題意識を深いところに向けた作品もあって。それはそれで今年の収穫だったように思います。レベル的には去年とあまり変わらないと思う。平均点の作品は多いけど、突出した作品はあまりなかった。
大賞受賞の「西から吹く優しい風」は、出来は非常に良いのですが、従来のパターンのうえに完成されたシナリオで、方向的に新しいものではないですね。そういった意味で今回の審査結果は、新しい世界観の探求ではなく、技術面の評価に傾いたような感じがします。
「カメラシャイ」は、多少事実誤認なところと設定に突飛なところがあって。それがなければ、描かれている世界も大きいし、これが大賞になるかと思っていたんですが。執筆前のリサーチが欲しかった。残念に思います。
「おばあちゃんのほっぺ」は、セリフの言い回しがうまいし内容も明るいし、良かったですね。作者はけっこうな手練だと感じられました。
今回は上海在住の方からも応募がありました。まだ決定ではありませんが、来年度からはインターネットからの応募受付も案としてあります。南のシナリオ大賞が国際化していくといいですね。
最終選考
2011年9月24日、福岡市中央区天神の天神エコール
審査委員: 日本放送作家協会九州支部 ドラマ委員会
盛多直隆、皆田和行、副島 直、香月 隆