第6回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
作品内容および一次審査員の寸評(応募順)
「野焼きガールズ」
口の悪い全盲の女性にヘルパーに入った主人公は、誘われて阿蘇の野焼きに行った。幻想的な野焼きの火を見ながらヘルパーは全盲の女性に心を寄せていく。
着想は面白い。だがセリフに情感が出ていない。ドラマのリアリズムがいまいち不足。
「茂のねこ」
いなくなった飼い猫を探しに阿蘇へ入ったら、猫屋敷に誘われた。そこであやうく猫にされるところを逃げ帰って、猫屋敷の毛はえ薬を村のものに配って喜ばれるという話。
民話っぽい話で楽しいがもう少し人間描写ができていれば……
「Sweet Message -あなたからの優しい便り-」
ストレスに悩む看護師が海で拾った瓶詰めお便りを持って沖縄へ旅をする。最後に、父の優しい便りを本のなかから発見する。
結構、読ませるシナリオだが筆力があえばもう少し良い作品になっただろう。
「南十字星とヤドカリ」
波照間で死のうとした若いカップルはマリッジリングを海に放った。そのリングをヤドカリが鋏にはさんで海から持って来る。
面白い設定だがもう少し工夫してドラマチックに盛り上げて欲しかった。
「母の弁当」
お母さんの弁当はダサイといわれた母親が、昔、自分も同じようなことを母に言ったことを思い出す。
ドラマの入りが定番だが後半からいいセリフに変わっていく。しみじみしたリアリズム。平凡な秀作。
「トミオとユリエ」
樹海のなかで心中しようとした二人が生きかえってしまう。二人はお互いの幻影を見て再び相手を殺そうとする……。
設定は面白いがわかりにくい。セリフが稚拙。妙に考えさせる作品。
「1リットルのサーター」
下積みの役者を10年続けた直樹は親友の訃報を受け沖縄に帰り、一旦は農園を継ぐ決心をするが、受け取った親友からのプレゼントと手紙で役者を続けることを決める。
台詞や設定は巧く、ストートーもうまく流れているが、タイトルを活かすためかサーター(砂糖)を100ccと数えたり(誕生日に100gずつ送るのも不自然だが)、死んだ親友の奥さんに葬儀の日求婚するなど、細かい点で疑問が残る。
「母の恋心」
母の秘めた恋を想わせる葉書がタイムカプセルから出され娘の許に届く。夫の浮気を疑っている彼女は母と夫の姿を重ねて反発する。
短編小説のような作品だが、葉書で恋心を送る? 30代か40代でタイムカプセル? 而もそれに意味ありげな葉書を入れる? 一転して最期、母の恋心を許すのは何故? と多々疑問が残る作品。
「朝焼けの泪」
終戦直前の特攻基地。整備不良で飛び立てなかった主人公は、夜中に一人飛び立とうと画策するが、年配の整備生が体を張って留める。
骨太な特攻の話しだが、どこかで読んだり、観たことがあると思わせる作品。強烈なオリジナリティーが感じられない。
「指ならし」
三人の子育て中の主人公は、プチ家出をして自分がいない将来の我が家の夢をみる。
言葉がよく選ばれた会話で、設定や話の進め方も巧いが、テーマの新鮮さや意外性がない。*九州の地名がはいっていない。
「遠い笛遠い波」
理恵は、認知症の入った母を連れて博多にやってくる。終戦直後、幼くして死んだ姉の墓を探すためであるが、母にはなにか特別な思いがあるらしい。
会話や人物設定に無駄がなく巧い。オーディオドラマにふさわしい作品。もう少し盛り上がる箇所があればもっといいと思う。ただし、最期の種明かしが必要か否か? また戦後すぐの街中でフルートが吹かれていたというエピソードに若干の違和感あり。*書式を正確に直すと、枚数オーバーの可能性あり。
「蓮池前のバス停にて」
熱中症で倒れ生死の境をさまよっていたとき、先に死んだ夫がまだ天国にこないように計らってくれて、死なずにすんだ。
話がうまくまとまっている。先に死んだら迎えに行くという約束を逆手にとって、妻の生き生きした余生を願い、現世へ戻すよう仕向ける夫の思いやりが温くて爽やか。
「行方知れずの小鳥たち」
屋上から飛び降りた少女と取り残された少年の心象風景。
詩劇。うまいが、感傷的すぎる。他作品と作風が大きく違い評価が難しい。
「最後の一歩」
就職活動に失敗し続ける大学生が、柿農家の父が倒れたことを口実に就活から逃げる。しかし病み上がりの父が諦めずに黙々と働く姿に教えられ、就職活動を再開する。
うまく書けているが、ありきたり。印象が薄い。
「近くて、遠い」
離婚後、妻に引き取られた娘が自分が船長を務める船で結婚式を行う。娘への引け目から父親だと名乗れなかったが、同僚に後押しされ会場へ行くと自分以外の全員が自分が父親だと知っていて祝ってくれる。
もう少し主人公の葛藤に枚数を割いて良かったのでは。変わることが悪いことではないのエピソードがふさわしくない。
「静バァの渡った海」
バイク事故で入院する家出少女が入院患者の静バァと仲良くなるが亡くなる。退院することになり、静バァが走って逃げた関門海峡を歩いて渡ることに挑戦する。
静バァのエピソードなどストーリーは面白いと思うのだが、人物のキャラが古い。
「きらら」
合唱コンクールを控えたクラスがまとまらないのは誰のせいか。不満をうまく言葉にできずぶつかり合いながら答えをさがす。
思いも言葉も中学生らしくリアリティがあるが、主人公のキャラが弱い。
「ゆらめく記憶」
紗英は認知性の祖母に記憶が戻ればと思い出の浴衣を着せる。一瞬、紗英の名を呼ぶ祖母。祖母の記憶が消えていないことを確信した紗英は、家族のつながりの強さを痛感する。
セリフも構成も読みやすい。が、恋人の葛藤のなさが物足りない。最後のモノローグの意味がわからない。
「南風便り」
仕事人間の夏輝は心の余裕を失いがち。ある日沖縄を訪れていた恋人からメールが届く。その呑気な内容と恋人のはからいに癒される。
盛り上がりはないが読ませる作品。メールのやりとりをラジオで表現することは可能か?
「あなたの好きなもの」
父と不仲だった男は、父の棺桶に何を添えるべきか分からず落胆。だが火葬場を出たとき桜島が好きだったことを思い出す。男は骨壺を空にかかげ舞い落ちる桜島の灰を父に捧げる。
着眼点が面白い。父の息子に対する想いも知りたいところ。
「カレイなる一族」
別府湾の高級魚・城下カレイになる自信のなさから回遊魚になろうと大海に逃げた子ガレイが、運命と向き合い地域貢献することに誇りを見いだし立派な煮魚になるまでの話。
オリジナリティがあるし、面白く、深い。タイトルは大丈夫か?
「神様の帰郷」
旧家の土蔵が区画整理の対象に。それを機に、許嫁を奪った弟に家督を譲った老人が62年ぶりに帰郷。老人は元許嫁で当主・フミへの恋心を打ちあけた翌日、息をひきとる。
面白いが、老人の人生描写が物足りない感じ。主人公らしき女性がナレーション役になっているのが惜しい。
「失くした指輪物語」
兄の死後、家業を継ぐ重圧を感じる少女は兄を許せない。ある日指輪をなくした思い出にとらわれる老人が現れる。少女は兄の幻と協力し老人を救い、兄とのわだかまりも解消する。
明るい雰囲気が魅力的だが、心理描写にリアリティがない。
「天の川を見下ろしながら」
母の苦労を見て育った達也は恋人との結婚にふみきれない。だが地元の七夕祭りの懐かしい光景が、ただずっと一緒にいたいから父と結婚したと語った母を思い出させ、結婚を決意。
人物の心がよく描けている。ただ主人公が恋人を必要不可欠に想う描写がないため、プロポーズへの流れが少し不自然。
「羽毛布団を売る男」
悪徳商法の詐欺師が、以前カモにしたことのある癌患者と再会し、なぜか感謝されて……。
探していた男の顔を見てわからないはずはない。展開がやや乱暴。
「カメ子の旅」
長年営んだパン屋を立ち退きで失うことになった老婦人が、疎開先に残してきたカメを探しに大分へと旅に出て……。
老婦人の過去の想い出をたどる旅が未来につながるのはいいドラマ。やや定番。
「月に泣くふたり」
結婚して5年、夫は強引に妻を連れ、妻の実家へ。途中、関門トンネルを歩きながら、夫はある決意を妻に伝える。
トンネルを産道に見立てて描く世界観がいい。
「娘とスマホとオレンジジュース」
駅で妻の帰りを待つ主人公とその娘。主人公は、過去に待ち続けたある人物を思い出す……。
奥行きのある展開。過去と現在の対比がいい。
「私のしぼう動機」
就活がうまくいかない男が、自棄になり向かった九州で、死神だという居酒屋の大将と出会い……。
「志望動機」と「死亡動機」を空目するという発想が面白い。主人公が「死ぬ理由」を書けない葛藤がもう少しほしい。
「晴れ舞台」
夢を抱いて音楽教育に携わるのが京香の夢。しかし内示された赴任先は特別支援学校だった。教育演習でその学校に行った京香が受けた衝撃と教訓。
読ませる力はある。書式も完全。しかし内容が少々道徳教育のような。作者のメッセージが教科書みたい。