第7回 南のシナリオ大賞 審査会ドキュメント

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第17回南のシナリオ大賞表彰式

二次審査通過作品

(5)「出会い橋」
(3)「永遠子の恋人」
(2)「じいちゃんの川下り」
(1)「永久停車」
(1)「生き仏は上方落語の夢を見るか」
(1)「海の声が聞こえますか」
(1)「猫だけが聞いていた」
(1)「鶏扱いにはご注意を」
(0)「ピンクのやんばる飛んでった」
(0)「カリスマ美容師のスピーチ」

()内の数字は審査員投票数

「ピンクのやんばる飛んでった」

りゅう:場面がよく飛ぶので話が分かりにくいし、ドラマとしても面白くない。

副島:いちおう少子化問題を扱っているようですけど。個人の話から天下国家の理想みたいなものに、ポーンと思考が飛んでしまってる。

盛多:「私も、日本が、地球が愛しいです」なんてセリフで終わらせるとか、やめて欲しいよ。

香月:結論を出すために、話を作っている感じです。

りゅう:漠としてるよね。

皆田:如何にも作ったような都合の良さ。展開が幼稚。タイトルもよく分からない。

「カリスマ美容師のスピーチ」

盛多:結婚式のスピーチに「男が父親を越えるとき」って課題を出す理由が分からないし、肝心のスピーチも説教臭くて感動できない。

皆田:タイトルとあらすじ読んで、どんなスピーチが聞けるのか期待してたけど、裏切られましたね。

副島:素人が一生懸命考えましたって内容で、ドラマの作家がクライマックスに用意するレベルのスピーチじゃありません。この作品のいちばんの欠点は、主人公がカリスマ美容師である必要がまったくないこと。

「永久停車」

香月:若い男女の清潔な恋愛が爽やかに描かれていて、好きな作品です。

皆田:登場人物もほぼ二人に絞られていて、ラジオ向きかと思いました。サラッとしていて、若い女性が書かれたのじゃないかな。なぜティッシュペーパーなのか、よく分からなかったけど。ぼく個人の採点では、文芸点も技術点も満点です。ナレーションは標準語でモノローグは長崎弁、使い分けが上手だなあと思った。

盛多:ぼくは抵抗がありましたね。同じ人間でナレーションとモノローグ、それに通常のセリフまで入ってくると聞き手は混乱します。それらをひとつにまとめてドラマにして欲しい。

りゅう:20円の値上げで時間をくうとか、細かい観察が良かった。期待して読みましたが結末は面白くなかった。

盛多:ラストのナレーションが「時間を忘れて話し続けた」って、中途半端な終わり方で。これをナレーションで済ませてしまうのは、ドラマから逃げている感じがする。

「生き仏は上方落語の夢を見るのか」

香月:ぼくは、こういう破天荒なのが好きなので一票入れました。防音装置の棺桶を叩いたりするところとか、すごく可笑しかった。

副島:導入部の説明とか、とてもテンポが良くてこなれてるんですが。アイディア自体はすごく古臭い。引っかけようと企んだ人が、実は引っかけられていたっていうパターン。息子が考えていた計画も破綻してしまって、さぁどうなる、みたいにひねってあればもう少し面白くなってたかも。

皆田:起承転結の「転」が無いのかな。それとも息子が裏をかいたというのが「転」になってるのかな。期待させたのは出だしだけでした。

盛多:登場人物のモチベーションが低い。例えば、息子と父親の対立構造を入れるとか、落語をやりたいって理由付けがもう一つ何かあれば、作品性がぜんぜん変わってくる気がします。

「海の声が聞こえますか」

りゅう:沖縄の民族的な匂いがして好きな作品。海に行く場面で3人が解け合うってくだりは、品があって良かったと思います。

香月:うまく作ったら、ちょっと泣かせますよ、これは。

副島:ものすごく普通、平凡な良作。

盛多:おじいちゃんとヴァージンロードを歩きたいって話ですが、この家族構成って、父親はどうなってるの? その説明が一切無いんですよ。

皆田:セリフが幼稚。もう少し驚きとか感動が欲しかったけど、この手のドラマじゃ無理なのかな。

「猫だけが聞いていた」

りゅう:親を放ったらかしにして島を離れるという、離島もののよくある話ですが、猫に本心を告げるくだりが新鮮。現代的な問題性をもっている作品です。

皆田:作者は猫と母親をダブらせようとしているんですよね。

盛多:梗概(あらすじ)にはそのように書いてあるんですが、本編を読んでもそうは読めない。親を放ったらかしにした後悔なのか、それを客観的に見ていた猫の視点で現代社会への問題提起なのか、作者の狙いが分からない。

香月:猫はシンボルでしょう。筆力の不足ではっきり出せてないけど。

盛多:セリフが足らないのかも知れません。15分の短編で伝えるためには、メリハリをつけないと(リスナーには)届かないですよ。

りゅう:奥さんとお母さんとのやりとりとか、無駄なところもあります。(島に)2回来る必然性もない。起承転結がはっきりしてないし、ドラマの面白さとしては一工夫欲しい。

香月:ぼくはタイトルに反発を感じましたね。

「鶏扱いにはご注意を」

りゅう:これ、バカバカしくて好きなんです。人間のエゴに対してリベンジがあって、鶏が空を飛んでいくっていうのは夢があって抜群に面白い。火山の中に放りこむとか、音としても面白い。痛快で、文学的に書いてるものよりも現代的な風刺があっていい。セリフも良く書けていると思います。

香月:最後の、鶏がいっぱい集まって飛ぶところが壮観だったですね。

副島:よみがえった鶏の群れが飛ぶ場面は素晴らしい!

香月:そこだけが素晴らしかった。

皆田:最初になぜ鶏なのかって、そこで興味は持たされたんですけど。奇想天外といえば奇想天外。

盛多:確かに設定は奇想天外なんだろうけど、内容は評価できない。これを制作しようって気は起こらなかった。正直言ってノーコメント。

香月:台本形式がテレビとラジオとごちゃごちゃに混在してるし、2回入っている回想の扱いが難しい。実際に作るのは無理でしょう。

皆田:この作者、ケンタッキーに恨みでもあるのかな。

盛多:こういうのは、ホント扱いに困る。

「出会い橋」

りゅう:私は良かったな、藤沢周平の「橋ものがたり」を連想させて。

盛多:京子の二十代女性のセリフが全部おじさんなんですよ。読んでいて、すっげえ嫌だった。最初にある「出会い橋が恥知らずな名前だ」って意味が分からない。人と人が出会うことが恥なのか、もっと深い意味があるのか。

香月:そこはちょっと気にかかった、腑に落ちないんですね。

盛多:ただ、(ドラマは)作り易いですよね。

香月:しかし、女の子のセリフが如何様にも仕様がない。

りゅう:京子のセリフは、達観しているようでいて、言葉が貧しいですね。

副島:厳しく言うわけでもないんだけど、清掃作業員のおじさんの喋り方もおかしいですよ。

香月:全体のもっている雰囲気が、大正時代の小説を読んでいるような黴臭さがある。

副島:現代風俗を描いていて、このリアリティのなさは致命的。シチュエーションはよくあるパターンだし、ストーリーの流れも唐突。「私は本当は自殺したかったんだ」なんて、赤の他人から急に言われても困っちまうよ。

りゅう:じいさんのほうも自殺したかったって。

副島:唐突な展開が連続して出てくるので、あまり出来良くないなあと思いながらも、印象に残る作品ではあります。

「永遠子の恋人」

皆田:ありがちな女ともだちとの関係ですが、今回はそれが効いてる。過去に仲良かったけど険悪な関係になって、疎遠だった友だちのところに電話してきて、最後のほう、死ぬ間際にも連絡してきて、ちょっと切なくなる。

副島:癌を恋人に見立てるとか、作者の視点が独特なんですよ。

皆田:先生が引き離そうとしているとか、子どもができたとか。これも女性が書いてるのかな。

副島:いかにもそういったエキセントリックなタイプの女が作ったような話になっていて、性格と一致してるんです。

盛多:永遠の子で、永遠子(とわこ)と読むのか。

りゅう:文字だけで、ラジオは音だけだから分からないけど。

盛多:この女、興味を惹かれるよね。実際、会ってみたい気になる。

りゅう:演じてみると面白いと思いますね。

皆田:ただ、ラストはどうだろう、これでいいのかな?

副島:エキセントリックな女性の友情ものなのか、何なのかよく分からないラスト。最後がサスペンス・ホラーになっちゃってる。

盛多:なんとなく中途半端な気がする。人物設定を作るときに、過去のどこかに共通する部分があるとか、癖だとか、落ちてくるところがあるはずなんだけど、それが見えない。例えばこの二人が仲良くなる場面、最初に会ったときに、たった一言「へぇーすごく仲良くなれたんだ」って、それってなんなの?

副島:そこは、たぶん椎名林檎の歌効果でしょう。

「じいちゃんの川下り」

副島:まあ、いたって普通にまとまってますね。

りゅう:舟歌を仲介にして心が通い合うってところが良い感じ。

副島:歌はオーディオ的にいいですよね。

りゅう:柳川が舞台ってこともあって、ちょっと北原白秋が浮かんだんですけど。

盛多:故郷に帰ってきて、もう一度夢を追って戻っていくってパターンはやり尽くされてます。

副島:毎年(このコンクールに)あがってきますね。故郷に帰ってくれば問題解決を(ドラマの上では)納得させられるんだから、故郷って便利だよね。

りゅう:故郷って、どんな力を持ってるんだろうな?

これより最終審査

南のシナリオ大賞_審査会

香月:私は「出会い橋」と「永遠子」と「上方落語」の3つに票を入れてるけど、どれも自信のない3票です。

盛多:ぼくは「出会い橋」と「じいちゃんの川下り」を残していますが、実を言うと無いんですよ。去年は(コンクールを)やるからには大賞を選ばなきゃいけないって言いましたが、今回はどうも。飛び抜けた1本がない。なぜこの2本に票を入れたかというと、(受賞作は)制作しなきゃいけないってのが頭ん中にあって、この2本だったら作り易いんじゃないかって。

りゅう:どっちが作り易いですか?

盛多:そりゃ「出会い橋」が作り易い。

香月:「川下り」を作るんだったら、柳川に取材に行って音を拾ってこなきゃならない。

副島:舟歌とか現地のやつ録って使ったら、爽やかな良いのが出来ますよ。おれは聴きたかないけどね、こんなドラマ。

盛多:もう何百回も作られてるパターンだもんな。

香月:「川下り」は、ぼくはすごく反対。綺麗に決まり過ぎてるというか、定番過ぎてる。よく書けてるし品の良さもあるけれど。大賞じゃなくて、その次だったらいいけど。大賞じゃないと思う。

りゅう:制作は無理だけど、私は「鶏扱いにはご注意を」をトップに推します。

副島:我が儘言わせてもらうと、私のトップは「永遠子」。携帯から聞こえてくる永遠子の声、向こうが見えないので興味を掻きたてられるし、永遠子と友だちになるきっかけがカラオケで、歌の効果もラジオ向き。「出会い橋」はラジオでなくてもできるシナリオです。

りゅう:「永遠子」は電話が多いですよね。

皆田:最初の仲良くなったところくらいでしょ、生声は。

副島:(生声は)回想部分だけで、永遠子の声はほとんど受話器越しの電話です。これがいいんですよ、得体が知れなくて。

「永遠子の恋人」についての議論

副島:カラオケといえども椎名林檎は使えないでしょう?

香月:使えないね。JASRACに訊いてみないと分からないけど。インターネットで1年間公開するから、どういう計算になるか分からない。もしかすると膨大な金額を請求されるかも知れない。減免って処置もあるけれど、このケースはかなり難しいと思います。

皆田:放送だったら1回きりだから単純だけど。

盛多:著作権は期間的な問題が絡むと面倒くさい。

副島:似たような歌詞と曲でオリジナルを作ってやる方法もありますが。

盛多:椎名林檎ってコア的なファンが多いんですよ。

皆田:ドラマを聞いた人が、それならって、一聴して納得できなきゃ意味がない。聴いたことのないオリジナルをいきなり聞かされても、どうかなって思う。

香月:パンチが違うからね。

副島:ふたりの友情が始まる重要な場面だから、音楽が使えないとなると、それに代えてなにを使うか、すごく難しい。

「出会い橋」についての議論

盛多:「出会い橋」の欠点は?

りゅう:女性の喋りが現代的でない。

香月:女性だけじゃなくて、男性もかなり古臭い。

盛多:直し入れる条件だと「永遠子」のほうが直し易い。「出会い橋」はセリフ全編改稿になる。

副島:セリフ全部書き換えって、それじゃこの作品、どこが良かったの?

りゅう:人間と人間との出会い。じいさんが磨いていた橋で女性が自殺を思いとどまったとか。人のふれあいが味わい深く描かれている。

副島:じいさんってわけでもないんですよ、(登場人物表に)五十歳代って書いてあるから。我々と同世代でこの喋りはまったくおかしい。

香月:しゃがれ声の、八十歳くらいの感じがするね。

副島:定年過ぎてシルバー人材センターの紹介で働いてるようなイメージ。

香月:結局、「出会い橋」で良いのは設定だけですよ。

副島:作って面白いのは絶対に「永遠子」です。

最終審査、ここまでのまとめ

皆田:「永遠子」と「出会い橋」のどちらかが大賞ということですか?

副島:この2本を落としてでも、大賞に挙げたいという作品はありません。

香月:どちらかであれば、ぼくは「出会い橋」。

りゅう:私も「出会い橋」。

皆田:それは楽曲の著作権問題とは別にということで?

香月:いや、著作権問題も含めて。

皆田:でも今は、それをクリアできたらって前提で話しないと。そういう条件を出して募集してないですから。

盛多:もしも著作権でダメだったときは、作者に書き直しをお願いすることになりますが。

副島:そのときは仕様がないですもんね。

南のシナリオ大賞_審査会

ふたたび「永遠子の恋人」についての議論

副島:先に大賞を決めたほうがいいのかな。要は「永遠子」が制作できるか出来ないかに掛かってると思いますが。

皆田:「永遠子」の問題点は楽曲使用だけですか。

盛多:「永遠子」はラストがなあ。

副島:ホラーに落として、これでいいのかって。

香月:途中まではリアリズムがあったんだけど。

盛多:ホラーにする必要性を感じない。

りゅう:ホラーにしたら本質が消えるね。

盛多:なんとなく作りたいなって気持ちも、どっかでありますけどね。

りゅう:ラストだけ書き直してもらったらどうですか。

副島:うーん。

香月:最後だけリアルに書き直せないですかね。

副島:いや、こういう壊れているところもこの作品の魅力だと思うんですよ。読んだばかりのときは、結局なにやりたかったのって疑問もあったんですけど、これを友情ものだけで終わらせてしまうのは、惜しいなって気がする。

香月:最後に口裂け男が出てくるでしょう、あそこはリアルなお化けにしなくて。例えば、実在として男がいて、その男が永遠子の目から見たら化物に見えるというのは、どう?

副島:そこまでやっちゃうと、こっちで作ってしまうことになりますよ。

ふたたび「出会い橋」についての議論

副島:「永遠子」がないとすると、残るのは「出会い橋」ですが、これはセリフが酷くて。

香月:これ直せないですよ。やるとすると、全編改稿になる。

皆田:ひとつ気になっていたのが、若い女の子が自殺するって、よっぽどのことだと思うんですけど。

りゅう:パニック障害だと、ありえます。

盛多:パニック障害って病名を出していいんですか。

副島:それはいいと思いますけど、ストーリーの流れの中で、あまりにも唐突過ぎるんです。

香月:なかなか文脈を理解してくれないから。誤解を招きやすい。

盛多:ポッと出しちゃうと誤解を生むことがあるんだよな。

副島:だから病名は一切表に出さない。セリフから病名だけ削れば済むはなしです。

盛多:精神病は扱いが難しい。

香月:あと、出会い橋とか福岡市とか、やたら実名が出てくるけど。

副島:市の事業として、実際このような作業員を雇って委託作業をやらせているのか、とか。

香月:制作するときは調べなきゃいけないね。やってなければ、これはフィクションですって但し書きを入れないと。

南のシナリオ大賞_審査会

香月:「出会い橋」は、直すとすれば誰か担当のディレクターを決めて打ち合わせしながらでないと、直らないでしょう。

盛多:おじさん風に書かれているセリフを、若い女の子が演じるってこともあるんじゃないですか?

りゅう:そういう心境的な状況にあれば、やれないこともないです。最初は違和感あるかも知れませんが、心情とセリフがむすびついていったら、出来ないこともない。作者を尊敬して、このままやるっていうのはどうでしょう。

副島:古めかしい喋り方も、この女性の個性として納得させる。

盛多:役者でどこまでやれるか分からないけど、これをいまの若い女の気持ちで演じる面白さってあると思うんですよね。

香月:やれないこともないとは思う。だけど全体的に古色蒼然としているでしょう。

りゅう:ここで客観的に読んでるぶんには批評しようってするから、どうしても Noって力が強く働くけれど、オープンに、いらっしゃいって感じで読めばアリかなって感じもするんですよ。まぁ、みんなが納得できる作品に仕上げたいということであれば、やっぱり直さないといけないでしょうけど。でも、どの作品も少しは変えなきゃいけない、このままでいけるってのはないでしょう?

みたび「永遠子の恋人」について 椎名林檎を聴いてみる

盛多:カラオケが椎名林檎でなければならない理由はなんだろ?

副島:椎名林檎って固有名詞を出すことで、永遠子がエキセントリックな癖の強い女だという個性を作っているんでしょう。

香月:やっぱり、椎名林檎は書き手の思い入れがあるんでしょうね。

副島:ここに、ふたりに共通する何か、これだったら腹割って友情を交わしてもいいってものがあったわけで。これだったらふたりが結びつくっていう確証が、作者の中にもあると思います。

盛多:椎名林檎の「正しい街」って聴いたことあります?

皆田:歌詞を読みます。

--------------(歌詞を朗読)--------------

盛多:ここに百道浜や室見川が出てくるのか。しかし長いな。

副島:使えたとしても何処を使うのか。地名が入ってる部分か。

皆田:そこは使わないといけないでしょう。ちょっと聴いてみます?

--------------(音楽再生)--------------

盛多:うーん。

皆田:もういいですか?

--------------(音楽停止)--------------

香月:非常に使いにくいですね。カラオケで仲良くなったって設定ですが、この曲が効いているのかというと、そうでもないような。

副島:作ったほうがいい、オリジナルを。おれ、作りましょうか。そんなに長く使わないでしょう。30秒くらいあれば充分でしょう?

香月:書いているときはイメージがのってるから、それがバーンと強いアタックがあるような感じがするけれど、実際に作ってみるとちょっとしか出せないですよ。ぼくも経験があるんだけど、作者が考えているそれだけの思い入れが、果たして番組で展開できるかというと、それほどでもない。そのあたりの計算違いがある。オリジナルでやっても、ほとんどパンチは変わらないんじゃないかと思う。30秒も40秒も(ドラマの中で)延々聴かせるわけにいかないし。

りゅう:作りましょう。私の娘が20年くらいバンドやってるんで。こういうのをって要望があればすぐに出来ますし、既に作ってるやつのなかから選んで使ってもらってもいいです。

香月:オリジナルでいきますか、作者に了解とって。

盛多:著作権管理者に使用許可を問い合わせるのがひとつと、この設定を別の設定にしてくれないかと作者に要請するのがひとつ、最終線でオリジナルを作る。

香月:それでいきますか。

盛多:これまでの受賞作とは毛色が変わってる。

副島:いいな、と思います。

盛多:では、大賞は「永遠子の恋人」に決定します。

香月:タイトルもいいよね。

盛多:「出会い橋」は県知事賞で。

市長賞は「鶏扱いにはご注意を」

副島:市長賞はどれにしましょう?

りゅう:「じいちゃんの川下り」でどうですか。

香月:ぼくは若干抵抗があるね。

皆田:「永久停車」、長崎の電車のやつ。

副島:「鶏扱いにはご注意を」。大賞には値しないけど、これは面白い。

りゅう:面白いよね。

皆田:あとは「猫だけが聞いていた」。

香月:あえて言えば「海の声が聞こえますか」。

副島:この5本を、ひとまず佳作ということにして、この中から市長賞を選びましょう。

香月:おれはどれでもいいや。

りゅう:どれでもいいなら「鶏扱い」にしましょう!

香月:「鶏扱い」は書式がテレビなんですよ。

副島:(台本に)柱が打ってある。ト書きはいいんですけどね、音しか書いてないから。

香月:シナリオを公開するときには、直してもらわないといけない。来年応募する人がインターネットで読んで参考にするから。

りゅう:では、柱落としで「鶏扱い」を市長賞に。

盛多:ホントですか!

総評

香月:今年の応募は163編。かなり増えたことが第一の特徴でした。内容的には中肉中背の感じで、去年と比べてそんなに遜色ないレベルでしたが、個々の作品を突っ込んで読んでみると、それぞれに多少の欠陥があって、選考に苦労しました。
最終選考で競った「永遠子の恋人」と「出会い橋」について。2作品とも幾つかの問題があり、例年ならば賞に推しにくい内容でしたが、南のシナリオ大賞は空席をつくらないのが建前なので、大賞、県知事賞に決まったという感じです。
今年も突出した作品がありませんでした。
早く誰かが突き破って欲しいと思います。

副島:今回候補作10編を読ませていただいた感想です。全体に、新人らしいフレッシュな感覚が感じられませんでした。技術的には、みなさんそれなりに上手なんですが、プロの作家がお仕着せで書かされているような、枠にはまった窮屈さが感じられました。あと、世界観が狭すぎる。自分の周囲にあるリアルにとらわれ過ぎて、フィクションの愉しさを感じさせる作品が少なかったように思います。

盛多:今回も163編と応募が多かったのですが、その中の10編を最終選考にかけたときに、作られた人物設定の背景にあるものが見えてこないというのが、全編に感じられました。
父親を描いた作品が3編ほどありましたが、その父親がどんな人物なのか、どんな職業なのか、どんな性格なのか、どんなスタイルなのか、一切書かれていない。ただ「父親」として、記号のように書かれているのがすごく不満でした。人物設定は細かく作らないと、その人物は生きてきません。
最終選考に残った「永遠子の恋人」は、ふたりの女性のセリフのやりとりと、期待を裏切る最後のどんでん返しが面白かった。「出会い橋」は、普通に書かれていて、平板になってしまっている。
これから応募される方は、自分の世界観を突き破るといった意識で書かれたほうが、より選考に残りやすいと思います。

皆田:今年もたくさんのご応募ありがとうございました。最終の10編を読まさせていただきました。
大賞の「永遠子の恋人」と市長賞の「鶏扱いにはご注意を」の2編は、他とは毛色が異なる作りで、読む側を惹きつけたように思いました。
「海の声が聞こえますか」、「猫だけが聞いていた」、「じいちゃんの川下り」は、故郷を離れた人が、行き詰まったり傷ついたりすると故郷に戻って再生するストーリーで、このパターンのドラマはとても多く、このパターンでも違う展開があればいいのにと毎回思います。
「永久停車」はとてもサラサラした気持ちで読み終えました。読後感が気持よくて、あとで男性が書かれたのだと知って、ちょっと驚きました。
全体的に、セリフが甘いな、と感じています。もう少し推敲されたらどうでしょうか。一日置いてもう一回見直す、もう一日置いてさらにもう一回見直すくらいしたら、もっと良い作品に仕上がったのでは、と感じられる作品が多かったように思えました。

りゅう:かつて倉本聰氏から「ものを書くのだったらそのことに対してしっかり取材をやって、専門的にやれるくらいにまでなれ」と言われたことがあります。(最終候補作10編を読んで)取材が甘く、上滑りな感じがしました。面白いということは絶対的であって、その面白さには質があるんですけど。私個人は、どこか裏切って欲しいという希望があります。
「生き仏は上方落語の夢を見るか」と「鶏扱いにはご注意を」はエキセントリックな作品で、題材への取り組み方がとても面白かった。「永遠子の恋人」も最後はミステリー的な展開をみせ、裏切られたような感覚で面白かったのですが、果たしてこの作品の結末はこれでよいのか、と問題になりました。
押し並べて、今回は画期的に新しいものがあまり感じられませんでした。

2013年10月13日、福岡市中央区 天神エコール
盛多直隆皆田和行りゅう雅登副島 直香月 隆

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