第8回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
作品内容および一次審査員の寸評(応募順)
ラジオの人
突発性難聴の療養中の女。ある日、女の耳にあるラジオDJの声だけが聞こえるようになる。実は、その声の主は光のリハビリを担当する啓介だった。
対面して話していても聞こえない声が、ラジオを通すと聞こえてくるというのは面白い展開だが、ボードで会話をする場面の表現方法には工夫がほしい。
ヒミツの花園
家出に失敗し押し入れに隠れた小学生が、両親や嫌っていた祖父の秘密を知るひと夏の成長物語。
秘密をテーマにうまく描かれているが、オリジナリティーに欠ける。家出しようと画策する少年にしては、素直すぎるかもしれない。
二十年後のアウェアネス
高校時代、制帽廃止を煽動した主人公。20年後、ある若い帽子職人との出会いから、当時の帽子店が廃業した事実を知り…。
ダイナミックな展開はないが、あたたかくやさしさを感じさせる物語。セリフも自然で好感が持てる。
流れの中で
妹の代理母をし全てを失った姉。妹から失った物を奪い返そうとするが…
姉妹の女としてのどろどろした関係は面白いが、盛り上がりが足りない。
理想の恋人始めました
謎の男がすすめる自販機で「理想の恋人」を買った女と、現れた理想の男。女は男に父の面影をみはじめ…。
極めて不自然な出会いのなか淡々と会話を続ける女と謎の男を軽妙に描いている。定番のオチだが雰囲気をもっている作品。
夜空のおくりもの
鉄道運転手としてのモチベーションを失いかけていた主人公が、イブの夜に泥棒と見紛うようなサンタクロースと出会い…。
サンタの裏設定は面白いが、盛り上がりに欠けた。エピソードが少なすぎるかもしれない。
風の中の綿毛
夢もなく働く主人公は「何も残さず死ぬ」という病気の父の言葉を聞き、あることを思いつくが…。
「生ききる」ということを、短いなかで深く描こうとしている。「父の皮をなめして残す」という着想も良い。場面転換の多さがやや気になる。
到着
優しい祖母の愛情を一心に受けて育った主人公。時は経ち、骨となった祖母と一緒に向かったのは、祖母の思いの詰まったあの海だった。
やさしくあたたかい物語だが、物語の起伏にかける。爽やかなラストは好感が持てる。
九月のトビウオ
両親の離婚話で心を痛める少女。森の湖畔で老婆との再会し、前を見つめようとする。
思春期の傷つきやすい少女を丁寧に描いた静かなドラマ。湖の描写が美しい。
思い出邂逅
よくしてくれる食堂の店主のため、亡き息子の幽霊のふりをするが…。
主人公の淡々としたなかに見えてくる感情の描き方はよいが、女店主は作り過ぎの感がある。
Aiは傍に
10年間飼ったペットロボットが壊れたことをきっかけに冷めた考えで冷めた人間関係しか築いていない主人公が変わる。
10年前に流行ったペットロボットのユーザーサポートの終了というタイムリーな話題をうまく使っているが、肝心のラストの溶鉱炉に入れるシーンが伝わりにくい。
明日の境界線
疎遠になっていた幼馴染がいじめを苦に自殺。時間をもどせる少女に出会い自殺の前日にもどり幼馴染と過ごす時間を増やしたら自分がいじめの対象にされた。
少女の存在が浮いている。友人関係のバランスが崩れていく設定は面白いが、もう少し個々の人間性が見えると良かった。
校庭一周できる紙飛行機
夢破れて東京から鹿児島に戻り、年下の女性上司に嫌みを言われる毎日。25年前に助けた田の神様が現れ当時の夢の話をされて人生は悪くないと思う。
脱字・変換ミスあり。あらすじの内容が本編に出てこない。話は悪くないのでもったいない。
落下し続ける花火
12歳のころ、転校間近の花火が苦手な女の子を花火大会に連れ出したという初恋の思い出を、仕事をしながらみる花火で思い出す。
少年時代の初恋はすごく良く描かれているので、大人になった主人公がコンビニの店長であることしかわからないなら、大人になった描写はいらないのでは。
大村あま辛黒カレー
長崎の大村で道ならぬことをしたわけありの男女が、東北のカレー店で店主と話しながら故郷と向き合う覚悟をする。
カレー作りに心の動きをうまく乗せているが、鍋を床に落としたあと健児が必死でカレーを作りだし、店主が自分たちでカレーを作ることが必要と説くのが唐突に感じる。
武士がホームランを打つ確率
11歳の夏、少年野球のレギュラーになれず落ち込んでいたら江戸時代の武士と出会う。一緒に練習しながら武士の精神を学び高校では4番になれた。
野球と武士道との組み合わせがうまく練習風景がおもしろい。武士の年齢設定をしたほうがより人物像がはっきりしてよかったのでは。
神様の業務改革
不妊治療に疲れた夫婦が、拾った100円を募金箱に入れた。業務改革により清らかな願いを選別して叶えるためにその募金箱を持っていた神様が募金した気持ちを評価し願いをかなえてくれた。
セリフ・SEなど技術的にうまくきれいに書けている。温かい話だと思うが人物描写が浅く物足りなさを感じる。
ベリーの本音
優秀だが傲慢な由子の愛犬が突然しゃべるがその高飛車さが自分と同じだと気づき翌日から態度が改まるが、同僚の陰口を聞きもとにもどる。
可愛がっていたミニチュアダックスに散々言われ、その態度に自分を客観視できるのが面白い。犬の最後の一言がもうひとひねりあったらなと思ってしまう。
楽しい墓参り
80歳でも健康で老人ホームにも入れず運が悪いと思っていると、施設育ちの若者が墓参り代行に来て、人生トントンだから運が悪いなら生きてなきゃ良い目に会えないと言ってくれる。
主人公のキャラクターがいい。施設で育った人物は都合よく一面的にしか描かれないことが多いが嫌みなく描かれている。
ひげが消えた日
旅館を継ぐことを強要された女性が結婚相手まで決められ、高校時代の教師に想いを告白する。
テンポもよく、選択の余地のない主人公の悩みもよくわかる。最後もう少しひねりがほしい。
彼方との約束
離婚にした息子の孫娘に会いに鹿児島に来た主人公はともに知覧の特攻記念館に行く。主人公は継父の虐待におびえる孫娘を救おうと考える。
丁寧に書かれた本。ただ人物が二人なので自ずと主人公のMが多く、長くなるのが気になる。鐘の音の違いだけで回想にはいるのには無理があるか?
北浜に降る雨
就活用に買った背広のクレームをつけた縁で主人公は苦情係のちひろと電話で交流を始める。
設定が面白く、ストーリーの流れもスムーズ。ちょっと主人公が強引だが、誠実さに救われている。大事な箇所の「心配停止」が残念。
生まれ変わりの旅
事故で娘を亡くした夫婦が八十八カ所霊場巡りをする話。
しっかり書かれた作品。Mが少し長いか?娘の事故の場面はSEや他の人を登場させてもっと臨場感がでればよかったと思う。また最後の聡美の台詞は必要か否か?
ミラクルはーさん
万年平社員のハーさんは実はミラクルな営業マンだった。
テンポがよく、主人公のMも遠慮がなく面白い。ただMもセリフもやや長め。最後に、主人公が簡単に納得したのが残念。「山傘」「関心」など大事な言葉の誤字あり。
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真冬の夏
旅行代理店勤務の主人公は、真冬の埼玉で、屋内は真夏を装った民宿に泊まる。店主は夫と子供と過ごした沖縄の民宿を思い、宿を営んでいた。
設定は強引だが、ファンタジーとして読めなくはない。そう思わせる展開とセリフに上手さを感じる。慣れた書き手。
さよならまーち
若くして社長を継いだ主人公は入社式ならぬ退社式を提案。一癖も二癖もある社員との騒動。
最後まであきさせないコメディに筆力を感じる。ラストへ向かう展開もうまい。テーマーがやや曖昧か。
幾年、ふるさと、来てみれば
売れないコメディアンが実家に残された高額の切手を求めて老いた母のもとに帰郷する。
ただの慣れではなく完成品の持つ雰囲気。うまい書き手は、効果音もセリフように使いきる。これはコメディアンも泣く。
親不孝・嫁不幸
面識の無い有名ミュージシャンのパーティーに誘われるが、会場で人違いだと知らされる主人公。その後も人違いで結婚式に連れて行かれ……。
2度も間違われる設定はおもしろい。中盤までは引き込まれるが、夢の件がわかりにくい。別の展開でラストに繋げられれば。
御船川で繋がる想い
妻とのぎくしゃくした関係に悩む主人公が家族で福岡に帰省する。出かけたお祭りで娘が迷子に。
筆者は若いが大人の描写も上手い。才能だろう。ラストはおじさんと娘の画策も推し量られるが、これが正解。ペンネーム以外はイジるところない。
浜辺の彼女
主人公が故郷の海で死んだはずのクラスメイトそっくりの女性に出会う。
Mの語りがいい。言葉も選び抜かれている。幽霊との対話はめずらしくないが、新鮮に思わせる筆力。素直にうまい。
大怪獣ムツゴドン現る
ムツゴロウを怪獣化し、原発、水門、オスプレイと佐賀の抱える問題をねじ込んだ。政治家・軍人・科学者ではなく漁師が怪獣に挑む。
ネイティブの佐賀弁がいい。人物構成も計算高い。星新一を思わせる世界観。ただオーディオでは表現が難しいかも。筆者は他のジャンルで書いても上手いはず。
久留米のマンハッタン
店のオーナー夫人に思いを寄せる若いバーテンダー。苦悩する夫人のために、自分を犠牲にして夫人を救う。練られた上質のミステリー。
筆者は才能あるストーリーテラー。だが、この展開にしては、ありふれたセリフがやや軽い。主人公の心情をもう少し描ければ。15枚では短かった。あと5枚ぐらいあげたい。
打球の彼方
主人公の少女は、ホームランを打ったら付き合う約束をチームの主砲に押し付ける。主砲はスタメンを外され最終回に代打で打席に立つが。
設定は面白い。高校生の軽さと意固地な監督との対比もいい。このストーリーをよく15枚にまとめたと思う。無理にドラマを作りすぎたか。
『/』(スラッシュ)
修学旅行での肝試しで主人公の少年は親友の男にキスされる。それを知った同級生の少女はラインで呟き、噂が一気広がる。
設定もいいし、セリフも面白く展開もうまい。中学生の複雑な心情もしっかり描けている。慣れた書き手。
愛しのさつま
高齢の母は、父にプレゼントされた愛車「さつま」を溺愛。ある日、さつまが原因で母は重症を負う。
タイトルが効いてる。手書きのリズムか自然な展開であたたかさが満ちている。「さつま」も完全に登場人物の1人。無口な父もいい。
ダイオウグソクムシ
嫌な上司にダイオウグソクシ以下だと罵られ、主人公は水族館にいく。それになりたいとつぶやく主人公にナゾの老婆が忍び寄る。何も食べずになぜダイオウグソクムシは生きられるのか。これが回答。
課長のいやな感じが絶妙。オネエ言葉のセリフだけでもうまさがわかる。老婆の執念(愛?)、母との短い会話も効く。詰め込み過ぎの感もあるが間違いなくうまい。
ナナとカッチン 最後の晩餐
結婚1年目の夫婦がファミレスでケンカ。嫁は浮気を疑うが、誠実な夫の悩みは離婚ではなくもっと深刻。
場面転換無しに2人の会話だけで成立させた技術は十分。人物もしっかり描けている。特に嫁がいい。ボニー・パーカーはこんな女性だったかも。
バッテンとオールドミス
偶然出会ったかつての部下は、若年性認知症を患っていた。退職に追い込むほど苛めた部下に主人公はかつての行為を詫びるが……。
これはうまい。自然に引き込まれる展開。無駄のない15枚。娘の使い方も効果的。深い余韻を残すラストにしびれる。
みかんと雪女
久しぶりに参加した同窓会で、主人公は20年前の淡い記憶を呼び起こす。
短いセリフを小気味よくつないでオーディオドラマをイメージしやすい。ラストもさわやかだが、いまひとつ盛り上がりにかける。
USA
14歳(中2)の男の子、女の子が体育祭の応援団をやることになった。二人は空気が読める、まったく読めないで対立するが、最後はKYの女の子に引きずられて・・・
中学生のセリフがファッショナブルに書かれていて面白い。もう少し筆力があったら・・・
博多美人
博多美人が転入してきた。それをきっかけに幼馴染の二人の間に小さな波風が。でも二人の恋心は確かなものとなって。
あまりにもありきたりの高校生恋物語。だが爽やかな風が吹き抜けて。
あなたの未来を覗きませんか?
片想いのマドンナが突然会社を辞めて去っていった。その後母が倒れ、失意の暮らしの中にやってきた介護師があのマドンナだった・・・
テンポがあり気持ちのよい作品だが、結末が早すぎる。ドラマはこれからではないか・・・
一本の傘
女に振られそうになった男と、旦那が浮気している女が、一本の傘ですれ違った。そこはかとない人情劇。
自然体のシナリオでそれなりにうまく書けている。だがパンチは今一つ。
初恋レクイエム
亡くなった父の元カノに、文句をいいに鹿児島へ発つつ主人公。知らぬ女と空港で出会い、親切をかわすが、その女こそ父の元カノだった。
それなりの雰囲気を持った作品だが、偶然の出会いが多すぎて・・・
ドン!
施設に入所している認知症の祖母をめぐって、その夫、娘、孫が繰り広げるリアルなホームドラマ。
どこにでもありそうな3世代家庭を確かな筆致でとらえた秀作。
雲は流れる
なぜだかいつも帰りが遅い夫の突然の死。帰りが遅いのは気象予報士になるためのひそかな勉強だった。夫の死後、妻が夫の夢を受け継ぎ、気象予報士に。
いい話だがドラマ作法が未熟。
いつか晴れ
母の進める結婚がいやで女友達に恋人のフリをさせるがそこから明るい愛が生まれて・・・
爽やかなドラマ。島の人情もうまく描かれた過不足のない佳作。ちょっと毒がなさすぎるが。
恋とはどんなものかしら?
ゲームのキャラに恋した男の子がリアルでキャラとデートする。なんとキャラはフランス人の男の子だった。リアルでも二人は恋人同士だが、さて恋人とは何かと考えるとわからなくなってくる・・・
面白いドラマ設定。発想の突飛さに書く力が追い付いてない。この路線でさらに展開を見せてほしい。
海の記憶
無精子症の男と妻の間にAID(匿名精子提供)で子どもができた。血のつながりがないわが子に悩む男が子供の言葉に生命のつながりを知らされる。
生命という大きなテーマにやさしい言葉とわかり易い設定でせまる。内容は深い。制作が難しいか。
リサイクル
冷蔵庫が冷えた関係の夫婦を見ている。
冷蔵庫の擬人化が面白い。人間の冷たい関係が哀感をもってつたわってくる。
勇者とお姫様
保育園の内情を子供の目でとらえたドラマ。
楽しい。鹿児島弁が素晴らしい。
記憶力
30年ぶりに開かれた小学校のクラス同窓会。その中に一人だけ、思い出せない人物がいた。あれは誰だ?
同窓会を舞台にした可愛いホラー。無駄なセリフをなくし、もう少し文体を練ればもっと面白くなったと思われる。
以上、52編
一次審査(日本放送作家協会九州支部)
本山久美子、長谷部楓、江口香奈子、原 雅裕、香月 隆