第11回 南のシナリオ大賞 審査会ドキュメント

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第11回南のシナリオ大賞 最終選考会

第11回南のシナリオ大賞_審査員_盛多直隆

(5) 「無心の水槽」
(3) 「たまてばこを探して」
(3) 「優しさめぐり」
(2) 「池の鯉」
(2) 「父からの贈り物」
(0) 「ラクダが飛んだ日」
(0) 「風の向こうに見える君」
(0) 「フェイクファーザー」
(0) 「貯禁箱」
(0) 「ロボの手も借りたい!」

()内の数字は審査員投票数

「ラクダが飛んだ日」と「風の向こうに見える君」

副島:「ラクダが飛んだ日」で面白いのは、小島老人のキャラだけです。

盛多:「風の向こうに見える君」は句読点がなくて読みづらかった。
これ(遊園地のアトラクション)をラジオドラマで擬人化するっていうのも、どういうものかと。

副島:(アトラクションの)役名が普通に人名で、そこに事故に遭った男の霊魂みたいなものまで絡んでくるから、余計に混乱してしまう。

皆田:結局、最後まで誰が誰だか分からなかった。

副島:2次(審査)で10本読んだんですが、その中からなぜこの2本を残したかというと、他の作品があまりにも類型的で平凡だったから。

松尾:ぶっ飛んでたんですね、この2本が。

香月:確かに、2本ともスゴイ作品。

副島:作者の個性が感じられたのはこの2本だけで、他は、何処にでも転がっているようなネタ(題材)を普通に書いたものしか残ってなかった。それで、大賞の対象にはならないと判っていながらも、この2本を2次で通しました。かと言って、落とした8本に「申し訳ないな」って感じはまったくなかったですね。
本人が書いたものか、添削指導の先生が書いたものか区別がつかないような、体裁だけは整っているけど作家性が感じられない作品は、ぜんぶ落としました。

「フェイクファーザー」

副島:6年前、娘の結婚式をぶっ壊して、そのときやっていた芝居も台無しにしちゃって、居辛くなったので海外逃亡していた父親が、結婚式の日に帰ってくる。

香月:楽しかったけどね。(フェイクファーザーが)元の芝居仲間だったっていうの。

副島:話がトントン拍子に進んでタメがない。これこれこういう事でした、そうでしたか、じゃあお父さん許してあげる、みたいな。

香月:田舎芝居の10分演劇みたいなのね。

「父からの贈り物」

盛多:「父からの贈り物」はベタっぽい。

皆田:良いなと思ったのは、息子に「お前の半分は姉ちゃんだと思っている」という父親のセリフです。

盛多:うん、あのセリフはいい。

香月:そこだけね、光ってるのは。

「池の鯉」

松尾:「池の鯉」は重い話なんですけど、鯉のキャラが可愛かった。鯉が重いテーマを軽くしてくれている。

盛多:この物語って、極端な話すると鯉はいらねえなって思った。

副島:私もそう思う。鯉は関係ない。

森 :超能力を持っていて(主人公の青年を沖縄に)連れて行った。

松尾:(浦島太郎の)亀みたいなもの。

副島:どうしてそういうくだらない設定をわざわざ入れるのかなあ。

香月:その池の鯉が海を泳ぐんだよね。鯉は比較的塩分に強い魚だけど、でも、強めの塩水を泳いだら、身体の水分が出てしまうよ。

盛多:石垣島で米兵を殺したって話が、途中で入ってくる。

香月:あれは「私は貝になりたい」(脚本:橋本忍)とまったく同じ。

副島:軍命で(捕虜の米兵を)殺してしまったがために、戦争裁判で裁かれる男の話。

香月:だから、作品のいちばん核のところが、パクリとまでは言わないけど、作者は知らずに書いたのかもしれないし。だけど「私は貝になりたい」を見ていた人なら、すぐに分かると思う。

盛多:で、その話を(メインに)持ってくるのだったら、どう考えても鯉はいらない。

副島:なんで池の鯉じゃなきゃいけなかったんだろう? 沖縄戦を扱ってるんだから、戦争で壊されたシーサーの破片とか、他になにかありそうなものなのに。

香月:決定的な致命傷は、鯉の言葉が、関東弁か関西弁かよく分からない喋りになってるのね。最初は関東弁だったのに「わてホンマによう言わんわ」みたいなのが入ってくる。

第11回南のシナリオ大賞_審査員_香月隆

「たまてばこを探して」

森 :これはけっこう好きです、品格があって。

盛多:良い話だとは思ったんだけど、主人公の千代の気持ちが、もうひとつ掴みづらかった。

副島:遺書の(入った)箱探しでフェイクしてるじゃないですか、このお婆さん。そこが共感できないんですよ。

盛多:なぜフェイクしてるかって事?

副島:うん、素直じゃないな、って。

香月:そこがカラクリなんですけどね。

副島:それで話を面白くしてやろうっていう、(作者の)作為が感じられて。

香月:いちばん不満に感じたのは、骨董を扱う学芸員が出てくるでしょ、だったら会話にもう少し品がなければいけないと思う。利害関係に直結した話ばかりで。

盛多:学芸員の喋りは好きになれなかった。おまえらのする仕事はもとっと別なことだろうって。

香月:非常に良い話なんですけど、物語がギスギスしてしまってる。奥さんも、もう少し心の豊かな奥さんであって欲しかったね。

副島:娘が遺産を狙っているみたいな話を入れたがために、嫌らしいお婆さんになってしまってる。

盛多:気に入らないのはそこなんです。心の豊かなお婆さんのままであって欲しかった。

香月:むしろ逆に、このお婆さん、こんなに狡いんじゃなくて、豊かな気持ちで、美術館が断っているのに上手く仕掛けをして見事な寄付をしてみせた、みたいな形にしたらね……

森 :でも、どちらかというと、そういった感じで受けとっているんですよ、あたしは。女性として。だから品があっていいな、と。

皆田:男性だけど、(ぼくも)そう受けとってますよ。

第11回南のシナリオ大賞_審査員_皆田和行

「優しさめぐり」

森 :「優しさめぐり」は、SEの部分がテレビ的だなって思って。この人、ラジオドラマ書けるのかしら、っていうのがあったわけ。

盛多:読んだときに、この子どもたちが好きになったんですよ。最初はイチオシで考えてたんですけど。

香月:セリフは良く書けていて、可憐さが出ていて良かったんだけど。森さんが言ってるように、スタスタ歩くなんて音、出来ないですよ。

副島:ラジオに限らず、シナリオに擬音語は書かないですね。

森 :ねー、ねー、絶対おかしいのよ。

香月:スタスタ歩くなんてライブラリにないですよ、あるのは走ってる音ばっかしで。実現不可能なSEです。それと、世界が小さいのがちょっと玉に瑕だね。だけど、ぼくはセリフはいい、とても上手いと思う。

副島:「お金には呪いがかかっている」とか、「お金に優しさを乗っけて、それが世界中に広がったら、呪いが解ける」とか、子どもの発想っぽくて、ものすごく好きだな。それと、看護師さんが旦那さんにキスする場面とか、この年代から見た愛情の表現が、甘酸っぱく描写されてて大好き。
私は「無心の水槽」を一番に推してるけど、あと残すのならこの作品しかないと思ってる。

香月:ぼくも2番目に推してる。これでドラマは作れないけど、レーゼドラマ、読むだけのドラマとしてならこれは非常に良い。好き嫌いで言ったら、ぼくはこの作品ものすごく好きなんです。めんこいめんこいって感じ。出来が良いんですよね、カタチが、綺麗に彫刻されてる。

盛多:子どもが「呪い」って言葉を口に出したときに、こっちに迫ってくるような、サプライズがある。

森 :その、お金の呪いって、これがお金の呪いなのかねぇって、分からなかった。

皆田:呪縛から解き放とうとしてキスするわけですよね。それはすごくいいけど、すごくテレビ的だなあと思って。

森 :ねえ、絶対そうですよねえ! 音出ないし。キスの表現とかどうするんだろう。

盛多:最初に読んだときに、これを映像的だと思った記憶はないんだけど。ラジオドラマとして作ったとき、この世界って良い世界になりそうな感じがしましたけどね。

香月:引っ掛かってるのはスタスタ歩くだけなんですけどね。

森 :それと私は、お母さんがお父さんにキスシーンとか、どうやって音で表現するとっというところがあって、それでまずこれはテレビ的よねと思った。

盛多:たぶんセリフの雰囲気で持っていけると思ってる。それと普通のキスシーンじゃないから……

森 :だから、映像的だなあって思った。そっちのほうがきれいなのができると思ったんで、ちょっとマイナスにしたんです。

第11回南のシナリオ大賞_審査員_森久美子

「無心の水槽」

盛多:ぼくは「無心の水槽」か「優しさめぐり」のどちらかが大賞だと思っているんですよ。と言うのは、「池の鯉」、「たまてばこを探して」、「父からの贈り物」は、どうも、見た感、読んだ感がある。「無心の水槽」は、えっ、珍しいじゃん、この話って。今までなかった新鮮さが感じられたんですね。

香月:世界がしっかりしてて新しいからね。社会に幸福をもたらすといったものではないけど、人間の虚無感を詩的に哲学的に描いた作品ではあると思うね。

盛多:クラゲが、脳も心臓もないのにってのに驚いちゃった。

副島:むかし読んだ安部公房とかの、ああいった幻想的な雰囲気があって。他にこういうタイプのものがまったくなかったので、このなか(最終候補作)では「無心の水槽」が一推しですね。

香月:ノーベル文学賞のカズオ・イシグロの作品がこんな感じでしょう。人類のDNAとか扱っていて、それで人間の歴史を大きく書いていくという。

副島:この異質で独特な世界観は、他では見られないものです。

香月:絶対作者のものですよ、これは。
ひとつ気になっているのは、日本一のクラゲの水族館というのが東北(鶴岡市)にあって、それとの現実の整合性がどうなるのか、それだけが問題。

松尾:下関もクラゲですよ、海響館。

香月:ああ、(クラゲの水族館は)日本に一箇所だけじゃないんだ、じゃいいや。

最終審査

皆田:選ぶのは3本でしたっけ?

盛多:大賞1本と優秀賞2本です。
いま残っているのが「池の鯉」、「無心の水槽」、「たまてばこを探して」、「父からの贈り物」、「優しさめぐり」。これを3つにしぼるとしたら、どれを落としますか? 「池の鯉」は落としてもいいかな、と思っているんですが。

香月:「池の鯉」はメッセージがそのままでしょう。言いたいことをそのままセリフにしてる。ドラマの場合、セリフは捻って膨らませてやらなきゃいけない。

副島:反戦でも嫌戦でもどっちでもいいんだけど、今風の若者に戦争体験を語って聞かせるって構図が、もういいやって。

香月:説教してやるとか、教えてやるって感じでね。

森 :(4作品に得点を入れているけど)3つにするのなら「無心の水槽」を減らしたい、かなぁって感じ。ちょっと丸が欠けてるんだよね、あたしの中では。怖いけど。

皆田:「たまてばこ」にしても「父からの贈り物」にしても、最後が爽やかであったり希望を感じたりというものがあったんですけど、ちょっと色合いが違うじゃないですか「無心の水槽」は。色合いが違うから、どうかなって思ってる。

香月:つまり、ドラマの持っている社会性という、やっぱり喜劇であって欲しいという、喜劇っていうのはおかしいけど、世の中に幸せをもたらすものであって欲しいという。

皆田:それから言うと、「たまてばこ」か「贈り物」のどっちか。

香月:「たまてばこ」は、確かに結末は成功劇になっているけど、ちょっと沈んでる、気持ちのいい成功じゃない。「父からの贈り物」は、もろにハッピーエンド。社会に幸せをもたらす作品ということであれば、「たまてばこ」はちょっと弱いかなって感じ。

森 :「無心の水槽」と「父からの贈り物」と「優しさめぐり」で考えればいいんじゃないですか?

盛多:「たまてばこを探して」を落としてってことですか?

副島:「たまてばこ」と「父からの贈り物」とだったら、私は「たまてばこ」を残したい。

盛多:まったくぼくも副島さんの意見に賛成。「たまてばこ」のほうがまだ説得力がありそうな気がする。「父からの贈り物」は作り物ぽい。

皆田:(ぼくの採点では)両方同じ点数なんですが。「父からの贈り物」には(場面の)移動があるじゃないですか、あえて違いを言えばそれくらいかな。

副島:「父からの贈り物」は、終盤が偶然に頼りすぎているんですよ。

香月:時計を10分進めていたゆえに、火事から助かったというのは、仕掛けがあまりにもね。

皆田:それが贈り物なんでしょ。それによって、異母弟と向き合おうってなったわけで。

副島:だからこの偶然の事故が起こってなかったら、何事もなく終わってた。

香月:うちの親父なんかも、明治生まれの男だけど(腕時計の時刻を)10分進めてた。確かにそういう習慣はあったんだけど。(世間に)時計があふれているでしょ、だから20年前とはいえ、10分進めている人はもういなかったと思うね。

副島:この人間関係で作るんだったら、男の子を主人公に、義弟の視点で語られていたら、共感できるストーリーにできたのじゃないのかって思う。お父さんに逃げられた母親と娘に共感できなかったんですよね、一方的過ぎて。

香月:これ、父親がいなくなった理由が明確に書かれてないですね。

盛多:それって大事件なのに、なんで(言及しなかったのかな)という疑問が残ります。人物が一方的だったり、そういったところで作り物ぽい。「父からの贈り物」は消してもいいですか?

皆田:はい、どうぞ。

盛多:では、「無心の水槽」、「たまてばこを探して」、「優しさめぐり」から、どれを大賞に選ぶかということになりますが。

副島:「優しさめぐり」は子どもたちのキャラクター作りがデリケートというか丁寧で、セリフが生きている。

香月:これは本当にいい、可愛い作品ですよね。テクニックが、スキルが非常に良い。

盛多:水族館があって、そこにイルカの作り物があってという、「無心の水槽」の世界観って、すんなり入ってこれました?

副島:セリフがわりと説明なんですよね。説明なんだけど、「無心の水槽」はプロが仕事の段取りとして喋っているから、説明っぽく聞こえない。不自然さがない。

香月:喋りに必然性があるからね。

盛多:娘と母親が水槽のなかで会う。この結末って感動の話なんですかね?

香月:これはやっぱり、人間の虚無感あるいは無常観、それに未来の社会を投影させている感じの。つまり脳と心臓に何があるかってことね。

盛多:娘と母親が会うことができた、その先に何か別のものが見えてこないと。頭脳が人間でしたよってブラックな終わり方だと、それはなんとなく違うような気がする。

香月:本当は最後はそこまで押さなきゃいけなかったんでしょうけど。

盛多:まぁ、音楽とかいろんな要素が入ってきますけど。(そこまでやるのが)良いか悪いかの判断がつかない。

香月:ただ、そこまで押したら作品が通俗の世界に陥るから、という作者の潔癖感があるんでしょう。作品を真摯に書いていくと最後はハッピーエンドでなかなか終わらないんですよね。それは媚びるっていうとおかしいけど、リスナーに良い気持ちになってもらいたいというサービス精神があるからそうなるんであって。作者が自分を極めていったら、そこまで書くと作者のサービスになってしまうから、サービスの部分は切り落とそうってなる。やっぱりこういった結末になるでしょうね。

松尾:でも、お母さんと娘のイルカを(水槽に)一緒に入れてやったのが愛、人間らしい優しさなのかなって思ったんだけど。

盛多:決めていいですか、「無心の水槽」が大賞、「たまてばこを探して」と「優しさめぐり」が優秀賞。

松尾:これ、ドラマ作るの楽しそうじゃないですか! 絶対楽しいと思う。

2017年10月8日、福岡市中央区今泉
審査委員:盛多直隆森久美子皆田和行副島 直香月 隆
実行委員:松尾恭子

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