第13回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
一次審査員の寸評(応募順)
南の国のピンク・マザー
タイトルから楽しそうと思わせた。ステップファミリーが増えた現在。離婚と再婚を7回も繰り返した父親のもとで育った主人公。その母との再会はドラマ的でなかったけれど、金持ちの父と貧乏な母を住まいの違いで比較。自らの恋の予感でまとめている。
浮気のくすり
時計の音を効果的に使っている。制作側にとっては、面白い素材となるように思う。浮気をさせる薬なのかと思いきや、反対であった。場面転換もなく、ほぼ二人だけの会話で膨らませることができるのも作者の力量がうかがえる作品。
交渉
サッカーのことはよくわからないが、気になるセリフがいくつかあった。東京から見ると大分は海外。移籍を決めるセリフが欲しいというサッカー選手に対して、そんなものはない。という潔の良いセリフも二人のやり取りの中で心地よく響いた。
髪切り屋
セリフとセリフの間に挟んだハサミの音とのテンポが良く、一気に読めた作品。同性愛の設定、また、気持ち悪く感じる場面もありながらも、エンディングの不気味さとあいまって奇妙な物語風。突っ込みどころが少なかったというのが高得点につながった。
雨の神様
かつての高校野球のライバル同士が偶然再会し、その後の人生を語り合うという話。二人はコールドゲームによる勝者と敗者。ありがちなシチュエーションだが、話が進むうちに「人生の勝負は目先の勝ち負けではない」ということに気づかせられる。「雨」をキーワードに勝者が逆転する展開はおもしろい。やせ我慢した男が自分の想いを涙雨に重ねたラストもうまいと思う。
マシュマロ食べたよ
元号が令和になった日、麗和という名の女性の身におきる話。物語はテンポよく進んでいくが、かつての担任と自分の父親が二人ともLGBTであると分かったシーンや、しかも二人が互いに恋をしていたという衝撃のシーンがあまりにもサラッとしている。この事実を娘としてどのように受け止めるのか、その葛藤や心のひっかかりをもっと丁寧に描いた方がよいのではないかと思う。
たまたま
ドМの夫とドSの妻という設定。超わがままな妻の要望に一切逆らえない夫。二人の会話を声優たちがどのように演じるかで、このラジオドラマの面白さが変わってくる。次第に追い詰められていく夫の心情と、最後に明かされる妻の想い。サスペンスの要素も盛り込まれて飽きさせない作品だと思う。
しょぼチン!さま
妻を亡くした男の依頼で、30年前の思い出の場所を探す写真館の女。手掛かりは「しょぼチン」と呼ばれる男性器を模した青銅の物体。意表をつく設定だが、若い女性と探し歩く様子が笑いを誘う。聞き手の想像力をかきたてる展開はラジオ向きの作品と言える。昔のカメラのSEを効果的に使っている。そこに亡き妻の思い出が重なり、うまくまとまっていると思う。
沼子の人生
引きこもりの主人公(沼子)の挙動やセリフに、スタートから一気に引き込まれる。主人公が20年間引きこもっている理由、そして亡くなった母の願いを分かっていても曲げられない主人公の憎しみや哀しみは、本人が何よりも大切にしたい「自分の想い」であると思う。そこに人間の生を感じる。
誰かの日記
記憶喪失、「誰かの日記」を読む謎の女性、そしてその女性に抱く男性の恋心。展開はお決まりで分かりやすかったが、日記というツールを使うことで、主人公が主人公の行動を客観的な視点で見てみるという面白い話に仕上がっている。男が入院している今が現実なのか、はたまた日記の中が現実なのか境目があいまいになるのだから、ラストにもっと大きなどんでん返しが欲しかった。
ごメンなさい
何もかも荒唐無稽。この作品は本当にラジオドラマになるのだろうかと思いつつも、面白かったので選んでしまった。豚骨ラーメンや盛りそばが議席をとった方がはるかに自由で平和な世が迎えられるかもしれない。最後の議員のセリフは今の社会への課題提起のようで胸に刺さる。でも、この作品を一次通過させて「ごメンなさい」
大規模修繕
犬の反応から三人の関係が崩れ、現実が明かされていくのが面白かったです。伏線もつながっていて構成がしっかりされていますね。数カ所の誤字脱字が勿体無いです。
鳴音~ハウリング~
狩猟による害獣駆除と、主人公が持つ女性としてのコンプレックスをうまく交えた物語ですね。素材が新鮮でした。「ジビエの姫」姫子の存在ががかっこいいです。
オーエン!
緩急のあるストーリー展開で、最後はゴールで一緒にテープを切ったような感動を得られました。スポーツものの良さですね。文字の状態ですと状況がわかりますが、仮にオーディオ化した場合、祖父、父、息子の声の違いが明らかに聞き取れるようにする工夫がいるなと思いました。
キンモクセイの調べ
幽霊だったのはまさかのまりちゃんだったとは。しびれるオチでした。ピアノと金木犀と謎とホラーがうまく相まって面白い物語でした。ピアノを始めた人がビギナー時代に弾く「エリーゼのために」が、まりちゃんの年齢とも重なって、さらにホラー感が強まりました。
通り雨
昭和の人情劇をおもわせる作品。登場人物の性格や個性の追求がいまひとつ物足りません。例えば、凶器がナイフというのも安直です。丁寧に描けば、加害者の体格や年齢職業、生い立ちまで思いをはせると、凶器が設定されるはずです。傘やステッキに変わるかもしれません。ドラマ性が深まる潜在力をもつ作品です。
着納めのワンピース
母子家庭で奮闘する主人公に共感し、その人生を応援したくなるほど、わかりやすく書けています。新たなドラマが始まる予感を漂わせ締めくくっていますが、手慣れたドラマづくりという印象がのこります。主人公の内面をもっとほりさげてほしかった。
間違いだらけの協奏曲
聞き間違いがひきおこす青春グラフティ。テンポよくてコミカル、リズムがいい会話も青春ドラマにあっている。しかし、この作品の出来は、演者の口演に負うところも大きい。作品を活かすには、作家に演出の才能も求められます。作家に想定のキャスティングがあれば聞いてみたい。
おじいちゃんが引きこもり
祖父をめぐる家族騒動。祖父を天照大神に、部屋の扉を天の岩戸に見立てたユーモラスな展開。しかし、冗長な台詞が邪魔をしている。各自のセリフを吟味して短くしたほうが作品の狙いにちかいと考えます。核家族の社会にあって、遠慮ない家族関係の温もりが復活するのを願ってしまいます。
餃子の気持がわからない
採用した女料理人は、もしかして娘かも。娘であることを確かめたい男親のもどかしさが、いまひとつ伝わってきません。娘だと確信する、味という設定に無理がありそうです。しかし、音で味を表現できれば、広がりと深みが加わったオーディオドラマができそうです。
同級生
東京モノレールの車内で交わされる大人の男女の会話劇。短くすっきりとしたセリフで読みやすい。女が宮崎旅行の帰りであるということから発展していく物語は良いが、実は偶然の再会ではなかった、というオチまでの経緯が不明確に感じられた。ラジオドラマの書式の再確認を。
夏奈と宮古の守り神
「宮古島まもる君」のキャラクターが楽しい。「まもる君」を知らない人のために、宮古島に嫁いできたばかりの主人公の設定を活かして、説明があってもよかったかも知れない。シーサーの戦いなど、映像がないラジオドラマだからこそイメージが煽られて面白い。方言は放棄せずに、書くことに挑戦してほしかった。
ボクと家と両親と
災害に遭った家族の葛藤に正面から向き合った作品。父、母、子の会話が優しく、良いドラマ、という印象。
アザミの花
ドラマというより、個人的な思い出話のようにも思えるが、地に足のついた方言の魅力で読まされた。他人のことでもどこか懐かしく、ホッとさせる世界観がある。
母とイチジク
読んでいて(聴いていて)味や香りがするようなドラマ。恋人の妊娠をきっかけに、かつて自分を捨てた母の真相を探る旅に出た主人公が、母の故郷の人々と出会ってゆく展開が良いが、結局恋人との関係がどうなったのか描かれていないのが消化不良。
ある獣医の長い一日
全体的にスピード感、緊迫感があり、現代の畜産業界の抱える問題も浮かび上がってくる。生き物(人間も含めた)の命と正面から向き合っており、好感がもてた。
夏休みの宿題
サメを掴まえて有名になりたいという、発想が面白い。ただ夏休みにサメが出たから海水浴が禁止になった、という理由にさらに夏休みの宿題もからませると、もう少しタイトルの意味が深く伝わる気がする。
パラダイス・ロストーこの世の果ての物語
新鮮なストリーであった。双子の兄妹、おばあさん、3人だけの孤島。生活物資を船で運んでくるおじいさん。しかし誰かに会いたいという思いが募る男の子。ラストに向かっていく勢い、展開も意外性があり、おもしろい。これは長編にして何故二人が誘拐されたのか、理由も徐々に明確になると、おばあさんの存在感が増す。今回読んだ中で一番衝撃を受けた。
クジラに食べられたい
タイトルに惹かれた。父親が昔商業捕鯨の漁師になりたかったが、禁止になって夢を諦めた経緯がある。主人公の少女も野球選手に女性はなれない事を知った時、夢を諦めた。しかし死んだ父親の日記の「クジラに食べられたい」と言う一文に、家族が遺骨をクジラに食べさせようというのをほんとに実行する。ホエールウォチングができる沖縄で成立する物語。
空汰の赤
琉球ガラス職人の父親と、その父親に反発して東京に行った息子の話。難しいと言われている赤の出し方を長年追及している父親に、息子が唯一の父親との思い出である太陽が海に沈む時の空と海のグランデーションを絵に描いて見せる。しかし、既に息子は3年前に死んでいる。父親の葛藤がよくえがかれている切ない物語
田んぼ道
ほのぼのした感じがいい。田んぼの神様、紙ひこーき、上司との関係。その関係が程よく、お互いのことを思っている。
おさない・・・罪
父の暴力から逃げ、そして殺そうとした幼い日の罪。それが回想と絡んで展開していく。構成はよく出来ている。
欲しがりのなのに
ちゃんと心の動きを描いている。日常会話なんだけど、心が動いている様子が分る。
おもかげ
女性の心理描写がよく描かれている。細かな点まで。事件はないのだが、起承転結でまとまっている。
はるしぐれ
終わりがイメージですが、サスペンスの香がする。読後感がよく、いい感性だ。
さらさら願い
年の離れた妹に嫉妬する美和の気持ちがよく描かれている。美和が河童のせいで川の事故で死んでしまったのは残念。
柳の庭
アイラブユーの手話が、全世界同じだというところが印象的。級友の死んだ訳を推測する章にもっと緊迫感が欲しかった。
星屑のランタン
読んでいくうちに、みくと和子が楽しそうでランタンが希望を運んでくれるような気がしてきた。読後感がとてもよかった。
はぐれ仙人、島に帰れるか
主人公と仙人の会話が笑えた。最後、願いを犠牲にしてまで帽子を拾ってあげたいと主人公は本当に思ったのだろうか。
ピアノ
主人公の気持に寄り添いながら書かれている。型にはまらず自由にのびのびと引く主人公のピアノの音がきこえてきた。
女々しさたっぷりに育ったトマト
ちょっとした恋。やがて、その恋も終る。あわい思い出感がよく出ている。
散骨の旅
めまぐるしく事件が起こる。物語はテンポよく展開していく。起承転結が旨く運び、起伏のある物語になっている。
精霊の光
心臓移植された子どもの中で移植された子の心が生きている。ありえない話がどこかで悲しみを持っている。読後感がいい作品だ。
絡まった青春のほどき方
微妙な軽さがいい。この感覚は書いた作家しかない感覚だろう。二人の親友の流れ方がスマートだ。
以上、44編