第13回南のシナリオ大賞 二次審査通過作品
二次審査員の寸評(応募順)
雨の神様
面白いです。都合の良い展開ですが、これも有りで、ストーリーテラーの才を感じます。最後に作者の仕掛けに引っ掛かってしまったのは悔しいですが、これもうまいです。終わらせ方も良いですね。
もともと長い話だったものを15枚に詰め込んだのか、個々のセリフが説明調で長いので、ドラマにする際にどうでしょうか。短いセリフでテンポよく繋げばさらに良くなると思います。タイトルについても、この作者なら、他にも候補があったはずで、おそらく他のタイトル候補が正解かと。
念のため、雨天コールドゲームの条件を調べていたら、2016年の高校野球地方大会で、同様の雨天コールド試合があったのですね。ルールとは言え、実際に試合を裁いた審判、残酷です! 作者もこれを知って利用したのでしょうが、使い方が本当にうまいです。作者は長編もうまく書けそうですね。
沼子の人生
48歳という年季の入った引きこもりに対して、外国人女性を絡めたのが面白いですね。片言の日本語(カタカナ表記)が和ませてくれるのでしょう。家もろとも母親を火葬にするかと思わせる「引きこもり」っぷり。良いですね。引きこもりはそうでなければ。本物の引きこもりですと、基本的に他人と話さないし、自分の意見を述べるのも稀ですから、オーディオドラマでは使い難い題材でしょう。それでも最後までしっかり読ませる慣れた書き手だと思います。
主人公は「沼子」で、姉は普通に「玲子」なので、読んでいる間、「沼子」の由来がずっと気になっていましたが、そこも作者の狙いですかね。本当の名前は別にあって「沼子」は自虐でしょうか。自分が「沼男」と名付けられていたら、親を生涯許しません。
誰かの日記
ある夫婦の物語だ。夫は記憶をなくし、妻は病院で朗読のボランティアをしている。その関係が読み進んで行くとわかってくる。その関係は、後半一気に理解できる。その物語の流れは秀逸とも言える。それゆえにもっと、人物が絡みあえば、と思ってしまう。
キンモクセイの調べ
読んだ後に「シックセンス」を思い出した。つまり、ゴーストの話だ。読み手にミスリードさせながら、実はこうなのだと、種明かしをする展開。なるほどと思ってしまう。面白さはあるが、人物キャクターの造り方は、ベタ感が残る。
通り雨
これから生きていく若者への応援歌ドラマ。読んだ後に心よい読後感が残る。しかし、登場人物が、映画やドラマで見た感が残ってしまう。作家が独自に造った登場人物が欲しい。
着納めのワンピース
シングルマザーの奮闘記である。読んでいて応援したくなる物語だ。ラスト近くで、男性とランチの誘いに乗る。この終り方はいかにも安直だ。一人で生きていくシングルマザーの姿をみたかった。
おじいちゃんが引きこもり
ひきこもりと天の岩戸の故事を結びつけて、部屋の前でチンドンヤを呼んで騒いだり、カラオケをしようとする発想が面白い。全体的にテンポもよく、オチのキーワード「音痴」へも上手に誘導している。
「(ひきこもった)孫の笑い声がしないと真っ暗闇だ」という「天の岩戸」を連想されるおじいちゃんの台詞など、上手い台詞もあるが、必要のない遊びの台詞が少し多いのが気になる。効果音として難しい音は台詞で補ったり、他の音と組み合わせるなどの工夫が欲しい。
タイトルが内容そのままで、面白いが評価が別れるところか。
パラダイス・ロストーこの世の果ての物語
メッセージ性がある題材を描いた意欲作。作者の情熱が伝わってくる作品。映像的な表現が効果的で、場面転換が早く飽きさせない。はっきりとした起承転結で、ラストまで一気に物語を進める力がある。
はるしぐれ
深夜バスに乗り合わせた男女の会話のみで進行していく作品。雨の音が印象的に使われ、情感にあふれた余韻が魅力的である。さりげない小道具が二人の関係性の伏線となっていたのも面白い。
さらさら願い
構成のしっかりとした読み応えのある作品。最後に美和が妹の身代わりになって命を落としてしまうことにショックを覚えてしまうのは、それだけ美和に感情移入しているためだろう。美和の心情がよく描けている。
精霊の光
幼いのときに心臓移植の手術を受けた男子高校生の前に、心臓を提供してくれた女の子が突然現れる。女の子は移植された心臓と一緒に男子高校生の中で共に生きてきたという設定。原稿には数行しか書かれていない二人で生きてきた時間について、読んだあと想像してみるのも面白い。
以上、11編