第15回 南のシナリオ大賞 審査会ドキュメント

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第15回南のシナリオ大賞 選考会

(4) 「ただいま足音」
(3) 「大飛行」
(3) 「返事しろよ」
(2) 「玄界灘の三度鳴き」
(2) 「エッセンシャルワーカー ダツエさん」
(2) 「おいしいヘタクソ事件」
(1) 「田村のホームラン」
(1) 「オルガニストを探しに」
(1) 「飛ばない鳥」
(0) 「ボクはなくことができない」
(0) 「おもらしと徘徊の夜」
(0) 「しゃもじ」

()内の数字は審査員投票数

しゃもじ

皆田:主人公のきゅうりは、断れない男って設定じゃないですか。なぜ断れないのかっていうと、モノローグに、とまと(主人公の彼女)を失いたくないからってあるけど、なぜ失いたくないのかって理由がない。過去に何かあって断れなくなった主人公が、とまととの関係によって断れるようになったってことなら(作品として)成り立つんだけど。

盛多:きゅうりととまと(のネーミング)に、何かあるのかって読むんだけど、なにもない。だったら野菜じゃなくても、人間(の役名)でいいのじゃないのか。

荒木:あえてこの役名にした理由が分からない。

盛多:きゅうりが「座りたい」って何度もモノローグで呟いてる。この「座りたい」って何なの? (主人公にとって)座るって行為は何なの? ただ「座りたい」「座りたい」って何度も出てくるけど、その意味が分からない。同じ展開が何度もくり返されて先が読めない、と同時に退屈感が出てくる。ラストも「言えた」「言えた」ってくり返してるけど、これもなんだか分からない。

荒木:とまとが男言葉を使って性別逆転しているところで、きゅうりという男性に頑張ってってエールを送っている。今風の女性が好きそうな話だと思いました。こういう系統のドラマってありますもんね、新しくはないけど。

副島:昭和の九州男児としては、こんな軟弱な奴にまったく共感できない。

ボクは、なくことができない

盛多:セミの話ね。

皆田:最後に「そうか、ボクは鳴くことができたんだ」ってセリフがあるんですけど、そもそも鳴くことはできるんであって、ただメスのセミに対しては鳴かないって話だったんじゃなかったの?

香月:そのへんが明確じゃない。鳴けないから鳴かないのか、鳴けるけど鳴かないのか。最後になって騙されたような感じ。

皆田:セミって10年くらい地中にいて、地上に出てから一週間くらいしか生きないだっけ? そういったセミの特徴が活かされてる話だったら良かったんだろうけど。

副島:セミが人間の女の子に恋をした、というのが分からない。何らかの隠喩とか暗喩で使っているのだったら、そこを深く考えてから設定を作らなきゃいけないのに、たぶん(作者は)なんにも考えてない。セミの視点でお話書いたら面白いんじゃない、みたいな、軽ぅーい気持ちで書いてるから中身の無いものになってる。

香月:セミが女の子になぜ惚れたかってところが、いちばん大事なんですよね。

盛多:ありえない話だけど、ありえない話を、ありえるように書くのが作家の力量です。メルヘンチックにするんだったら、メルヘンのまま終われよって思った。

副島:ファンタジーだからありえない話でもいいんです。でも、そこに作家の思想とか哲学が反映されてないと。伝説とか民話とか世界中にいろいろありますけど、現代まで残ってるのはそこに普遍的なテーマがあるからでしょう。この作品からは、そうしたものがまったく感じられない。

香月:これは何いってるのか、テーマが見えなかったですね。

第15回南のシナリオ大賞選考会 皆田和行 香月隆

おもらしと徘徊の夜

荒木:今風の、ジェンダーのことを取り上げつつ、おじいちゃんの認知症と鹿児島の噴煙と、いろいろ盛り込んで楽しく最後まで引っ張っていくし、なかなか良いなと思った。

盛多:タイトル見て、おもらしするのはじいさんかと思った。

皆田:そもそも、このおじいちゃん認知症なんですかね?

香月:おじいさんの描き方が酷すぎる。バリバリの五十男みたいな。認知症だとこんな連続した文章は喋れない。

副島:校長先生の訓示みたいなことを得々と語ってる。

香月:お説教ドラマなんですね。

盛多:人物が薄いんですよ。おもらしとか認知症とか徘徊とか、その言葉を使えばどうにかなると並べたんだろうけど、並べただけでどうにもならない。

皆田:9歳っていったら小学校3年くらいで、家でおねしょすることはあっても、学校でおもらしというのはどうなんだろう。性同一性障害と関係あるんですか?

副島:ないない。第一そのころはまだセックスが未分化じゃないですか。いまの流行りだから入れちゃっとけみたいな感じです。徘徊を心配されてる老人も、すごくしっかりしてるし。

盛多:徘徊とか認知症とかだけでなく、歳とるということは人間のいろんな部分が劣化してくるわけで、そんなところで、この人ほんとに年寄りを知ってるのか、知ってて書いてるのかと思った。

副島:高齢化とか性同一性障害とか流行ってるから、それをストーリーに組み込んどけばウケるだろうみたいな、軽い考えで書いてるんですよ。だから人物が薄っぺらい。

荒木:9歳という年齢にしたので曖昧になっちゃったと思う。これがもう少し上の思春期に近づけていたら、性同一性障害も際立ったかも知れない。そのへんを真正面から取り組んでないという感じはあります。

香月:9歳になっても夜ひとりでおしっこに行けないなんて。

荒木:それを入れたいので9歳だったんだろうな。

副島:精神的に不安定でおもらしする少年というのはいるだろうけど、そこに性同一性障害とか変なものくっつけちゃうから、おかしくなっちゃうんだよ。

盛多:なぜこんなのが(最終審査に)残ってるんだろうな。

第15回南のシナリオ大賞選考会 盛多直隆 荒木弘子

田村のホームラン

盛多:登場人物が少ないのと、実況中継と男女ふたりの組み合わせで、単純に作りやすいと思って票を入れました。

荒木:会話のテンポが良くて、実況とうまく合っていて、面白かったです。

副島:この田村の試合って実話なんですか?

香月:これは作者の創作でしょう。

副島:有名な試合の同時刻に、別の場所でドラマが同時に起こってた、というのなら面白いのだろうけど。

盛多:試合の展開で面白かったのは、田村が代打で出て、打てなくて、もう一度打順を回すために選手たちが頑張るっていうのが、それってアリかって。

副島:都合のいい、奇跡みたいなストーリーの面白さってものもありますよ。

香月:ぼくはそこを買ってる。簡単に言えばマンガですよ。

盛多:ただ、男女ふたりのやりとりが薄いって気がした。

皆田:千鶴さんに好感がもてない。「私は、あなたといる時の私が嫌いになったの。どんどん自分らしくなくなっていく自分が、嫌いでしょうがなくなったんだよ」って。恋愛中だったらそれもアリかなと思うけど、結婚して離婚届も出してるふたりなのに、このセリフは何だろう。

盛多:自分らしくいられないからあなたと別れます、自分らしくいられるので五十嵐さんと一緒になりますって。自分らしくって、どういうことですかね?

荒木:綺麗事ですよね。他になにかの理由はあるんだろうけど。もう少し生々しい感情があったほうが、ストーリーが面白くなったろうと思います。

皆田:この女性、離婚届出したばかりなのにもう五十嵐さんという男がいるってことが、おれは許せん。

香月:いまの夫婦ってそんなものなのかあと、新しい気がしたけどね。

オルガニストを探しに

皆田:東日本で被災した娘の話。

荒木:虚言癖の女の子の話ですね。

皆田:いろいろ嘘をつくんですけど、人を傷つける嘘じゃなくて、「私の希望が詰まってる嘘」って書いてあって、そういう裏事情があったんだって解明される。おとうさんがピアノが得意でビールが好きだったってことで、ピアニストだとかビール会社の社長とか嘘言ってるのが、まだどっかで生きていて欲しいんだろうなって。遺体が見つかっていないから、希望を捨てないために嘘を言ってる。それに今井っていう後輩が寄り添って、最後は五島列島にいつか行こうねって。素直に良い話だなって思ったので票を入れました。

第15回南のシナリオ大賞選考会 皆田和行

荒木:彼女の嘘に後輩がのってあげる姿に好感が持てました。終わり方もお洒落ですよね。おとうさんが弾いているパイプオルガンにあわせて結婚式のイメージが浮かぶ。ファンタジー感があって、最後まで気持ち良く読めました。

盛多:この女の子ってなんで嘘つくんだっけ?

荒木:(東日本震災で行方不明になった)おとうさんが、まだ生きているかも知れないという希望を、自分のなかに持っておきたいから。それに後輩がのってあげて、五島列島でオルガンを弾いてるんだよって。

皆田:この後輩の嘘がなかなか洒落ている。

荒木:未来の結婚式まで持っていったのが素敵だった。音も付けやすいです。話的にはちょっと小さいなって気もしますが。

香月:ぼくはこの終わり方、好きだったですね。とても気持ちの良い作品。ただ、東京、大阪、九州がステレオタイプで玉に瑕。

皆田:最初のほうで「うてきたかー」ってありますけど、大阪って買ってくることを「うてくる」って言うんですか?(※)

盛多:その表現が分からなかった。

香月:最後は気持ちよかったけど、入り(導入部)が良くない。それと、作者のメッセージがナマで出てる。もう少し捻って欲しかった。

盛多:単純に、大学のサークル連中の話って嫌いだし、小さい話に無理やりおとうさんをくっつけた感じがあるんだけど。

荒木:登場人物たちが大きい人間じゃないから、お話がまとまっちゃうんですよ。震災のことを他の人に話せないってことが、いま世の中に出てきてる、その意味で時代性があるのかな。朝ドラでもそれをメインにやっているし。

(※)応募原稿を審査用PDFにフォーマット変換する際、セリフの一部が欠落していました。応募原稿には、[ 買(こ)うてきたかー? ]と記述されていました。深くお詫びいたします。(2021年11月14日:追記)

飛べない鳥

副島:ヤンバルクイナと陸上部の女の子の話。

盛多:よくある話というか、話の先が見えちゃう。

荒木:とてもよくあるありふれた話だと思うんですけど、ヤンバルクイナの使い方がとても良い。YouTubeとかで探したらヤンバルクイナの素敵な鳴き声とか入ってて。
ヤンバルクイナを扱うのは、南のシナリオなら有りがちだとは思うんですけど、使い方がとても素敵な感じがしたんです。

皆田:ヤンバルクイナって群れで飛ぶ鳥なの?

盛多:大学のときに西表(いりおもて)に行って、そのときにヤンバルクイナがいたけど、飛んでるイメージが全然なかった。

荒木:飛べるのは飛べるんですが、群れといっても、そんな大集団じゃない。滅多に飛ばないらしいですね。

香月:ヤンバルクイナをキーワードにしたのは良かった。イメージが明確で、名前を聞いただけでヤンバルクイナの姿が見えてくる。

荒木:最後の「きれいなV字の群れをなして空を舞う。やがてその群れは、金色のきらきらと輝く雲の向こうに消えていった」ってモノローグがとても素敵だなと思いました。

香月:高校生が書いたドラマを読んでる感じがしたけどね。

荒木:プロじゃない方が書いてるような、フレッシュな感じの文章がいい。登場人物もステレオタイプといえばそうなんですけど、モノローグの綺麗さがあとの何かに繋がる、将来性があるんじゃないかと。

香月:いちおう構成力はあるから、しっかりドラマの書き方を勉強したら伸びるんじゃないかな。

荒木:お幾つの方か分からないんですけど、もっといろいろ幅を広げて書いていって欲しいなと思って、推しました。

玄界灘の三度鳴き

副島:佐賀牛を飼育している酪農家の女性を、写真家志望の青年が取材する。

盛多:ドサ回りの大衆演劇みたいなタイトル。これ、どうにかなんないか。

香月:三波春夫とか北島三郎が出てくるみたいでね。

副島:タイトルで損してる。

皆田:親の職業を継いだという共通点のある二人のやりとりというのは、いいなと思ったんですけど。

副島:(酪農家の)女性が子供のころから「臭い」と虐められていて、それでこの仕事をやりたくないんだけど、他にいないから嫌々ながらやっている。それも父親との確執というかコンプレックスが背景にあって人格形成されたという。登場人物の動機がちゃんと作られているし、人物がしっかり描かれている。ストーリーも起承転結の起伏がキチンと出来ている。

香月:牛が舐めたりするでしょう、そういうところは映像でやったらピッタリなんですよ。ドラマとしては構成・ストーリーがよく出来ているけど、ぼくはラジオじゃなくて映像かなと思う。

皆田:写真家の話でもあるので、そこも映像的。

荒木:ラジオドラマとして疑問だな、とは思いました。

副島:ラストシーン、三度鳴く場面なんか上手く作ればラジオでもけっこう感動できるものに出来るんじゃないかな。

荒木:牛が鳴くというのが、音としてどうだろうかなって。

香月:これ映画にしたらいいですよ。三回鳴くところなんかね。

荒木:ラスト、良いですよね、セリフとしても。

皆田:「今日も玄界灘が元気だな!」って、これ要るんかな。

副島:若い二人のセリフだったらおかしいけど、親父のセリフですから。登場人物3人だけでここまでストーリーを組み立てるのは巧いですよ。

盛多:これまで見てきた(お涙頂戴ドラマの)パターンとは違う流れで、背景もストーリーもしっかり作られている。

副島:屹っとしたヒロインが男前で格好良いし。

盛多:ビタミンを与えないことで(肉に)サシが入るって、知らなかった。目が見えなくなった牛をお前ら食ってんだよって。お前らが旨いって食っている牛は、ここまで追い込まれて生産されているんだっよて、メッセージ性は強く感じる。

副島:それがあるから、私はこのシナリオを評価してる。

香月:よく調べてあるんですね。

副島:他が薄っぺらいものばかりだったので、私はこれを選びました。

香月:ぼくも選んでいいんだけど、映画かテレビかなと思った。

盛多:映像でもいいんだろうけど、ラジオドラマとしても作りやすいと思います。サシを入れるって情報が正しければ選びたいという気持ちはあるのですが。

皆田:ぼくも知らなかったので調べてみました。これ、米国産とか豪州産の輸入肉に対抗して、日本の研究からうまれた飼育方法で、ビタミンの少ない穀物を多めに与えて、そうすることで脂がつきやすい身体になっていくので、そこに最後に脂を入れるという話なんですけど、それと同時に目とか脚に影響が出るんですって。
ただ、今は指導として、最後の数ヶ月くらいにビタミンを与えて、身体に影響が出るか出ないかのギリギリのところで出荷しているそうです。
衝撃的ですけれど、(このドラマにあるような)目が見えなくなったり、ヨロヨロして自力で歩けなくなるのは調整失敗したレアケースで、100パーセントじゃないんです。そのレアケースをこのままやっちゃうのは、どうかなって。

香月:そこがいちばん大きな問題で、要するに佐賀牛とか伊万里牛の問題がある。社会的影響がある。

副島:ドラマ聞いた人に誤解を与えかねない。

盛多:いまこれを選ぶのはまずいという気がします。

香月:もし選ぶとしたら、九州支部としての論理体制を作っとかなきゃいけない。

副島:作る以上は制作者としての責任がありますからね。

皆田:このままやったら、酪農家さんからクレームくると思います。

盛多:基本的に、問題を含んでるものはやめておこう。

香月:炎上したら南のシナリオ大賞自体が危なくなる。

副島:アクセス数が凄いことになって(ホームページ運営としては)大歓迎です。

皆田:第16回は盛り上がりますよ。

副島:燃え上がるんですね。

盛多:怖ぇーなぁー。

エッセンシャルワーカー ダツエさん

皆田:奪衣婆というばあさんが服を脱がせるって、知らなかったんで調べたんですけど、蒟蒻が好物で福岡が有名らしいですね。

香月:呉服町・海元寺のえんま祭り、もろそこの行事です。

皆田:デジタルトランスフォーメーションとかの話も入っていて、温泉行ったらって言ったら「毎日釜茹で見てるし」、山登りって言ったら「針山登ってる」とか、ダツエさんが持ってるスマホも「地獄へのホットラインだよ」とか、気の利いた面白いセリフがあって。
最後に閻魔大王が「あの世とのつながりを感じ、いまを大切に誠実に生きようと思うことが、人々の心や生活を安寧に保つのだ」ってあって、このことを言いたいんだろうなって。あとはいろいろセリフで遊んでるなぁって。

荒木:お話的にストーリーがとても面白くて、奪衣婆に焦点を当てたのも面白い気付きだったと思います。エッセンシャルワーカーというのがいま話題になっているじゃないですか、清潔を保つようなお仕事。そうした今風なものも取り入れていて、破綻なく終わってる。ファンタジーで面白い。

皆田:途中でストーカーみたいな陳腐な悪役が出てきて、ちょっとガッカリなんですけど。

荒木:ストーカーに狙われる女の子が奪衣婆の推しをやめたのは何故かというのが、彼がコロナでお祈りしたんだけど亡くなってしまったんで、推しをやめてしまった。もともと閻魔大王さまからそれを調べに行かされたようなもので、その考え方が面白いなあと思ったんです。推しというか信仰をやめた理由を調べに行く、その理由は祈った甲斐もなく彼が亡くなったということと、ダツエ婆さんに会ってもう一度信仰心を取り戻したという話でもある。それを分かりやすく楽しく書いてある。セリフも面白いですよね。

盛多:このセリフ、全部説明じゃん。これを面白いって感覚が、ぼくのなかには無い。全部説明で迫ってくるものが一つも感じられなかった。
そもそもこれ、ラジオドラマとして成立する? 荒木さんがいま言ってる説明の部分って映像だったらいけるかも知れないけれど、ラジオドラマしては情報量が多過ぎて、聞いてる人は整理できないと思う。

荒木:読んだからこそ面白いっていうことはあるかも知れません。名前も、奪衣婆だからダツエさんになってるけど、これも聞いてるだけじゃ分からないと思います。

おいしいヘタクソ事件

副島:小津安二郎の「お早よう」みたいな、なにげない日常の挨拶とか小さな言葉のやりとりの大切さ、それを怠ったらコミュニケーションは壊れるんだよってテーマで、ストーリーも起承転結キチンと出来てる。ラストはもっと面白く作れたと思いますけどね。

香月:セリフが上手いな、と思った。少ないセリフで微妙な夫婦の情感を如何に描くかということを追求した、ラジオドラマ表現のある究極かな。

盛多:登場人物の背景をもう少し作り込んだら、という気はしました。

皆田:奥さんのいう「ヘタクソ」って言葉は、「ヘタクソ」で正しいのかな?

香月:「ヘタクソ」はちょっと違う感じがする。何か他に言葉がなかったのかな。

皆田:男がラーメン屋から帰ってきて、玄関のインターホン越しに「鍵開けてくれよ」って言って、「じゃあ言って、おいしいって」って返されても、彼女が求める「おいしい」なんて、ここじゃ言えないじゃないですか。で、「ヘタクソ」って言われてインターホン切られるんですけど。象徴として「おいしい」「ヘタクソ」を使ってるんでしょうけど。

副島:それを「おいしい」「ヘタクソ」のくり返しでやり続けるのは、違和感というか、違う言葉もあるんじゃないかって気はします。

香月:「おいしい」「ヘタクソ」「おいしい」「ヘタクソ」ってずーっとやってる。役者は演じるのが難しいと思う。一言一言ニュアンスを変えなきゃいけないし。

盛多:そこは役者の力量かな。短いセリフをどう演じるか。

香月:役者によっては出来ない人もいると思うんですよね。

盛多:キャスティングするとき出来る人を選びます。出来ないから選べないということではなく、出来る人を選ぶ。それがキャスティングですから。

皆田:それと、ずぅーっと「おいしい」「ヘタクソ」が続いてて、ラーメン屋行って親父に何か言われて、それで「ただいま」って帰ってきて「いつも仕事から帰っても、ただいまって言ってなかったよね」って気がついたって流れで、お前ちょっと馬鹿じゃないのか、と。
ドラマの流れとして、盛り上がりとか、引っかかるところが全然感じられなかった。

香月:男の言葉の少なさと拙さ、だけど女が欲している言葉。男女の言葉に対する感受性の違い、すれ違いがよく書けてると感心しました。

副島:男と女が結びついての夫婦というニュアンスは、ぜんぜん見えなかった。人物(の作り)は薄いと思いました。

荒木:ラーメン屋の主人に言われて、「ごちそうさまも言ってなかった」って気づきがあって、主人公の気持ちが変わって結論に至るというのがモノローグで進むというのはどうなんですか? ストーリーは特に大きな動きはなくて、モノローグでしか主人公の気持ちが表現されてなくて、最後終わっちゃうのは説明的というか。そのへんは作り方でどうにかなるものでしょうか?

盛多:たぶん、やり方次第かな。日常の言葉のやりとりは大切だな、というテーマは残りました。けど、でも、ちょっとベタ過ぎる。

大飛行

副島:バンジージャンプで娘に父親(であること)を認めさせる話。

香月:主人公の男があまりにも天使すぎると思った。こんな天使みたいな男、ほんとにいるのだろうか。それから、おかあさんがその男に惚れるんだけど、その惚れた理由が明確に出てない。

皆田:半年で亡くなったってことですが、その間に結婚はしたんでしょうか。結婚したので、初めてレストランで(娘を)会わせたんですか?

荒木:結婚は(レストランで会った)その後でしょう。

皆田:いずれにしろ(男と娘が)出会ったのは半年前ですよね。(おかあさんの余命が長くないことは)ふたりはもう分かってたことで、それでも結婚したのは(娘を)一人にしたくないって、天涯孤独にさせたくないって思いがあって結婚したのだろうけど。そのへんの事情の説明がなにも無い。

副島:娘の実の父親は出てきてないんだけど、未婚のまま生まれてきたのか? 見た目デブでみっともない奴だからってのもあるけど、男をおとうさんって呼びたくない理由として、何処かに本当のおとうさんがいるから、というのはあるんじゃないのかな。

皆田:中学2年生ですもんね。そのへんがぼんやりしていて。自分がもうすぐ死ぬのに、赤の他人の男を父親として娘に残してあげるというのは、どういう思いだったのだろうか、とか。なぜ(おとうさんと)呼ばないのかという理由も出てこないし、だから彼女の葛藤もない。呼んで、呼ばない、だけで終わってる。いろいろ大事なところが落ちてる。

盛多:モノローグで説明しすぎかも知れない。

副島:モノローグって娘のモノローグでしょ、その割には娘が抱えている父親に対するコンプレックスというか、気持ちがさっぱり語られていない。これだけモノローグで喋っているんだから、過去のヒントが、単語ひとつでもあればいいのにと思う。

皆田:初めて会ったのがおかあさんが死ぬ半年前なんですね、レストランで会うんですけど、「これから週に3回、うちに来るから」って言ってるということは、まだ(このときは)結婚してないんでしょう。そのあと、いつ結婚したとかの話はなくて。それと、おかあさんの納骨が、おかあさんの実家のある熊本に来て納骨したったって、結婚したのなら、籍入れたんだったら、納骨は男の方じゃない? 幹生さんは墓つくってやらないの?

副島:そこまでは、作者も幹生さんも考えていなかった。

皆田:いつ結婚したの? とか、なんで納骨が熊本なの? とか、分からないところが幾つもあって引っかかる。

副島:(父親が)死別だったらそっちの墓があるだろうし、離婚ならそっちの父親がいるのでこの男の出る幕はないし。じゃ娘は未婚で生まれた子か。

香月:シングルマザーってことを振っとけば明快に分かるのにね。

皆田:余計なことではてなマークを発生させている。なにか一言書いておけば済んだ話なのに。

香月:五木村のバンジージャンプっていったら、映像が明確に見えてくる。これは良いキーワードだったと思うね。

盛多:いちばん嫌だったのは、スタッフのセリフ。

皆田:「おっさん、またですか!」って。

盛多:絶対にこんなことは言わない、このセリフに苛ついた。

副島:うちのスタッフはこのような接客していませんって、運営会社からクレームくるよ。

皆田:(バンジー)飛んだら(おとうさんと)呼んであげるって。何かしたら何々してあげるってのは、パターンとしてよくある話じゃないですか。

副島:月の石の指輪くれたら結婚してあげる、みたいな。

皆田:あのくらいブッ飛んでればいいですよ。

返事しろよ

副島:AIスピーカーに話しかけたり、オルゴール修理したり。

盛多:単純にいい話だな、って思っちゃいましたね。

香月:亡き妻への想いを綴った加藤秀俊さんの「九十歳のラブレター」を思い出した。
1回目より2回目読んだときのほうが良かった。というのは、死んでいる奥さんとのやりとりが最初に出てくるでしょう、それが2回目だとストーリーが分かってるからしんみりした気分になる。不思議な感じがしたね。

盛多:最初の奥さんとの会話って、長崎に行く前の話ですよね。

荒木:奥さんが生きていたころの、5年前の話です。

盛多:その後、どこから現在になってるのか。

荒木:テレビの笑い声が大きくなる、のところからですね。「酔っ払い! もう私寝るからね!」の奥さんのセリフが終わったところからが現在で、拓実が「うるせえなあ」と言うセリフから役者さんの声トーンが変わる。

盛多:ぼくはそうは思わなかった。ここはまだ続いていて、戻ってくるのは、路面電車が走る、の音かなと思った。

荒木:1回目読んだときは分からなかったんですよ。奥さんが生きていて、不倫の話かなと思ってたら、違うというのが後になって分かるんです。それが分かったら面白い。

盛多:ここまではミスリードですよね。

荒木:オルゴールがあるんです。オルゴールが出てきたら、もう汐里さんは死んでるんです。

盛多:死んでるのは、この脚本のなかで死んでるので、現実として聞く人に(死んでることを)分からせたら負けですよね。

荒木:そうです、これが面白いのはミスリードがあるからです。

盛多:難しいな、これ。

荒木:ストーリーとしては、ミステリアスなところを残しつつ展開していってるので、最後まで聞かないとすべてが分からない。そこが風味があって面白い。

盛多:ラジオドラマで難しいのは(音は)消えていくので、その時点で解決していかないと、忘れちゃうんです。映像だったら情報は(記憶に)残っているんだろうけど。最後にわかりますというこのやり方は、ラジオドラマでは出来ないと思う。

香月:このへんの処理は難しい。テレビだったら映像処理でかんたんに出来るんだけどね。

盛多:しかもAIスピーカーとのクロスをやってるんですよね。「アッキー、テレビつけて」

副島:これ、聞いてるとアッキーが奥さんの名前になっちゃうんだよな。

盛多:「アッキー、テレビつけて」のあとに「便利だよなあ、AIスピーカー」ってセリフがくるんです。だからアッキーというのが、AIスピーカーのこと言ってるんだろうなというのは解決できてる。

香月:ぼくは、そこはすんなり分かったけどね。

副島:セリフの頭に役名が書いてあるのを読んでるからですよ。アッキー返事しないし、返ってくるのは奥さんの声だけ。聞いてるだけだと誰が誰だか分からない。

香月:テレビでやったら解決する問題がいっぱいありますね。

副島:(ト書きに)酔った拓実が廊下を歩いてくる、とか、拓実がドサッとソファに倒れこむ、とかあるし。ラジオ(の脚本)じゃねえな、と思った。

香月:テーマとしてはいいんだけどね、やっぱりテレビかな。

副島:会社の女の子と街歩いていて、ガラス細工の店を見つけて、そこで偶然オルゴールを見て、会社の女の子と別れて、壊れたオルゴールの修理に行く。出張行くのに壊れたオルゴールを携帯していたんですね。

荒木:長崎に行くから、機会があれば修理しようかと。

副島:じゃあ、まず最初にそっちに行くんじゃないの?

香月:時計屋に行って自動車事故が出てきたあたりから、話がごちゃごちゃになって。

荒木:種明かしのシーンですね。

副島:時計屋の若奥さんとか、そこでいきなり登場人物が増える。

香月:頭に入ってこないですよ。

盛多:オルゴールの音を聞かせればラジオドラマだと勘違いしているのかも知れない。

香月:それはあると思う。オルゴールのキラキラした綺麗な音に酔ってるような感じ。

副島:ラストシーンとか、雰囲気よく書いてあるし。

盛多:このラストのセリフ、「好きな子ができたんだ。……つきあってみようかな……(フッと笑う)」これ、役者は難しい。

第15回南のシナリオ大賞選考会 盛多直隆 荒木弘子

ただいま足音

荒木:セリフが面白いなと思いました。テンポも良いし。

盛多:軽いカミングアウトが好きだったな。二十歳の女の子が「オノマトペ」って言う?

香月:最近は日常語として若い人がよく使ってる。軽いからかいみたいな感じで。

荒木:大学生というのを表してるんじゃないですか、オノマトペを使うことで。

皆田:ぼくは、この人と「大飛行」は作者一緒じゃないかと思うくらい、セリフのテンポとか似てると思った。

香月:「ただいま足音」のほうが、単語の使い方がシャープで上手いと思う。描かれた人間像が明るくてチャーミングだけれども、ドラマの作り物という感じがしないでもない。

副島:発端から結末に至る流れに太いストーリーラインがないから。セリフが軽すぎて、誰ひとり登場人物に共感できなかった。

盛多:作ったら、ただ喧しいだけのドラマかも。

荒木:いちばん面白かったのは、血の繋がりがないと分かってからも会話が進んでいって、ちょっと途切れたときに「なに? ほんとは産んだ?」ってもう一度訊くところ。ほんとは冗談にして欲しいという男の子の気持ちが出てる。このセンスがいい。そこをおかあさんが「トイレの紙」ってはぐらかして、そのままラストまでいってしまう、そのスピード感がいい。現代の家族の感じが出てると思いました。

皆田:血がつながっていない親子であっても、長く生活を一緒にしていくと足音が似てくるってオチになっていて、足音という細かいところにポイント当てて、いいなと思った。

副島:ラジオのシナリオに足音書くなって、おれがいつも言ってるから、それのアンチテーゼだな。

荒木:日常生活のなかで足音聞いて誰が来たか分かるってこと、ありますよ。

副島:日常生活のなかで聞いている音と、ドラマの効果音は違う。

香月:足音に焦点をあてて家族関係を描いたという着眼点は評価してるんだけど。足音をドラマで作るのは無理だろうね。

第15回南のシナリオ大賞選考会 香月隆

盛多:ここまで足音を使われると(制作)出来ないな。

皆田:(足音は)4つですよ。おかあさんと娘、おとうさんと息子。

香月:足音自体が音として美しくない。実作する者には禁じ手みたいな感じでね。

荒木:男女の違いは分かるんじゃないですか。そこは工夫はしてるんです。

盛多:足音があって、セリフがあって、足音があってって、ぜんぶ(芝居の)転換に足音が入ってきてる。そうでなくて、もっと違うもので(転換)やってたらと思うけど。

副島:逆に私は、この作者の方はそういうことが言われているから、必然的に足音が入ってないと絶対成立しないドラマを、意図して書かれたのじゃないのかという気がする。

盛多:ラストのほうで、玄関の戸が開く音。樹によく似た駆けてくる足音。って、この足音ってなんなんだ、よく似たとか、どうやって作るんだ?

副島:そういうの、音でどうにかなるものだと思って作者の方は書いていらっしゃるんだろうけど。

盛多:おとうさんのセリフって「ねえ! パパの土偶、届いた?」って、最後のこれだけだよね。

副島:テレビ感覚で書いてるから、そういうこと安易にやっちゃうんです。

盛多:正直言いますけど、この作者はラジオドラマを聞いたことない人だろって思います。応募する前にラジオドラマを聞いて、ラジオの脚本とはどういうものなのか分かってから書いて欲しい。それが作者のなかに無かったら、ラジオの脚本にはならない。

副島:テレビなんかよりうんと難しいはずなんだけど、需要ないしギャラ安いからラジオは軽くみられてる。

香月:分かっている人は軽くみてないけどね。ラジオドラマは難しいってみんな言ってる。

副島:15分で短いし、しかもラジオだからってことで軽く考えて、締め切り間際にちゃちゃっと書いて応募してる人、多いですよ。

盛多:応募された原稿をみてみると、みんなラジオドラマ聞いてない、だから書き方を知らないんだろうな、というのは感じてます。

最終審査

副島:残ってるのは4本。バンジージャンプの「大飛行」と、五島のおとうさん「オルガニストを探しに」と、オルゴール修理の「返事しろよ」と、ラーメン屋の親父に叱られる「おいしいヘタクソ事件」。

盛多:「オルガニストを探しに」どうしようかな、と迷ってる。

香月:外していいと思うけどね。

荒木:話としては、ファンタジーでまとまってます。

香月:「オルガニスト」は導入が浅い。

副島:波の音、蝉の声、はしゃぐ人々の声。夏の海と大学生の雰囲気だけ。それでアタマの1ページ使うのはもったいない。

香月:最初読んだときヘタクソだなあって思った。

盛多:ぼくもそうです、実を言うと。

副島:「オルガニスト」はパイプオルガンですよ。

荒木:五島にある教会のパイプオルガンってイメージがいいですよね。

副島:上手く作ったら音に誤魔化されてラストは感動します、絶対に。

香月:パイプオルガンがなかったら、ぜんぜん面白くない。

盛多:仮に「オルガニスト」を外したとしたときに、「大飛行」と「返事しろよ」と「おいしいヘタクソ」の3本が残るけど。

荒木:それはないと思う。

盛多:今回難しいのは、去年の「ほてぱき」みたいなのが無いんですよ。

皆田:平均的なのがずらーっと並んでる。

盛多:皆田さんが「オルガニスト」を推している理由ってなんですか?

皆田:読んでいてストーリーに惹かれていくんですよ。なぜ彼女は嘘をつくのか、誰も傷つけない嘘の理由が明かされて、最後は後輩の今井くんというのが彼なりの嘘をついて、いつか(五島に)行こうね、(おとうさんを)探そうねって終わるんですけど、とっても優しくて、青春の話で、良い話だなあって、気に入りました。

盛多:後輩のセリフで「何でそんな下らないことばかりで嘘つくんですか? みっともない」ってあるんですが、それに涼子が「下らないことなら、嘘ついたっていいでしょ」って、このセリフの返し方がけっこう好き。

荒木:涼子は魅力的ですよね。

香月:だけどやっぱり、海岸でビールっていう入りがダサい。

副島:大学生のサークル活動というのが能天気で軽い。導入部でそれしか描いてないから。大学生がなに遊んでるんだ、みたいな。

皆田:その脳天気な大学生にも、実はすごい重いものを抱えているんだというのが、あってもいいんじゃないですか。

副島:これ、ドラマに合わせてオルガンの音作らなきゃいけないですよ。

盛多:やめて。

皆田:副島さんはどれが大賞候補ですか?

副島:ない。今回3本(投票)入れたけど、みんな△です。最終候補12本並べて作りたくなる魅力ある脚本は1本もなかった。ほんとはゼロなんだけど、それだと審査会始まらないから適当に△3本入れました。

皆田:香月さんはどれか推しありますか。

香月:「おいしいヘタクソ」に票を入れてるけど、考え直したらやっぱりチマチマドラマなんですよね。

副島:「おいしいヘタクソ事件」と最初に落とした「しゃもじ」って似てる。カップルのギクシャク解消ドラマ。ほんと狭い世界の小さな人間関係。

香月:ドラマ世界の広さからいったら「大飛行」なんだけど。
「返事しろよ」は時計屋に行ってから話がごちゃごちゃになって、聞いてる人は分からなくなってしまいそう。登場人物が6人いて、時計屋のシーンでいきなり3人増える。

副島:時計屋の主人と、その娘さんと子供。その子供の年齢で過去の事故の真相が明らかになるという仕掛けになってる。

香月:そのへんがごちゃごちゃしてる。

副島:同僚で愛人の舞って女性の設定が曖昧。話を転がすのに都合よく登場させてる感じ。それとファーストシーンのAIスピーカーとの掛け合いは、もっと強調してないと、音だけじゃ分からない。聞いてる人は混乱する。

香月:あれ、AIスピーカーでなくてもいいんでしょう?

副島:でも誰かに話しかけてるってことがないと……

荒木:ミスリードを誘うために、いろいろ工夫されてます。

副島:作って分かりやすいのは「大飛行」分かりやすいですよ。

盛多:ぼくもそう思う。キャラも作りやすいし。

香月:でも「大飛行」がドラマになったら、南のシナリオってこんなもんかって思われるかも知れない。

荒木:キャラクターが分かりにくいというか、魅力がない。

副島:キャラクター面白いじゃないですか。明るい義理のおとうさんと意思疎通がうまくいってない娘。去年の「ほてぱき」と同じパターン。

香月:タイトルが良くないですね。

副島:タイトルは良くない。今回はタイトル良いのが無かった。

盛多:「おいしいヘタクソ事件」、このタイトルどうにかしろよ。

副島:「玄界灘の三度鳴き」とか。

香月:「オルガニストを探しに」も内容とピッタリ合ってない。

皆田:荒木さんは「返事しろよ」ですか?

荒木:そうですね。オルゴールを使ってるというところで音の美しさ。それとミステリアスな構成が魅力かな。「ヘタクソ」は夫婦の話なので広がりはないし、このテイストは今までにもありました。あまり新しいとは思わなかった。それより「オルガニスト」のほうが新しいというか、今までの南のシナリオ大賞にはなかった雰囲気を感じます。

第15回南のシナリオ大賞選考会 荒木弘子

盛多:妙な言い方ですけど、「オルガニスト」の作者って先があるような、この人の背中をぼくら押してもいいんじゃないのかって気がする。

香月:涼子の悲しみがあるし、最後にオルガンの盛り上がりもある。

盛多:この近くでパイプオルガンのあるところって……

香月:西南(学院大学)にあります、立派なのが。

副島:生音録るんですか?

荒木:シンセサイザーで作れるけど、それじゃ奥行きがないとか?

副島:そこまで音質追求する?

香月:西南に録りに行ったら、話題にはなる。

副島:オルゴール(「返事しろよ」)かパイプオルガン(「オルガニスト」)か、楽器対決になってます。

盛多:大賞は「返事しろよ」か「オルガニスト」の二択ってこと?

副島:「ヘタクソ事件」のラストは盛り上がりに欠ける。え、これで終わっちゃうのって感じ。

香月:作りやすさでは「大飛行」、話の大きさだと「オルガニスト」。オルガン使うからラジオ的ではある。

盛多:「返事しろよ」は、最初のアッキーというのがAIスピーカーだと分からない。

香月:作者はテレビドラマのつもりで書いてるからね。

盛多:今回は全部テレビドラマ。「ただいま足音」もテレビでしょう。

大賞「オルガニストを探しに」

盛多:皆田さん、この3本から選ぶとしたら?

皆田:ぼくは断然「オルガニスト」。

盛多:荒木さんは?

荒木:「オルガニスト」。

盛多:副島さんは作りたいものは1本もないと言ってますが、あえて選ぶとすると?

副島:この3本からだと「オルガニスト」かな。

香月:「大飛行」は聞いて儲けた感じしないけど、「オルガニスト」は何か良いもの聞いたなって感じが残るかも知れないね。文学性が高い。

荒木:良い世界観に触れたなって、聞いた人は思うでしょう。

盛多:大賞は「オルガニストを探しに」にします。

優秀賞「おいしいヘタクソ事件」「返事しろよ」

盛多:優秀賞はどれにしますか?

香月:「大飛行」と「返事しろよ」じゃないですか?

荒木:大賞でないのなら「おいしいヘタクソ」も。

盛多:「オルガニスト」の作者には先がありそうだという気がするんだけど、「大飛行」はそれが感じられない。でも「おいしいヘタクソ」の作者には、それあるかもって気がする。

皆田:去年の「ほてぱき」「月の石の指輪」「不知火」「無音の伴奏」は、それぞれ世界観があってぐっと惹き込まれて、楽しい作品が並んだと思うんですよ。堂々と(ホームページに)載せてみんなに読んでって言えた。でも今回は「大飛行」も「おいしいヘタクソ事件」も、放作協が賞を与えるような作品か、と思うんですよ。脚本を掲載するのは、ちょっと恥ずかしい気がします。

盛多:「返事しろよ」は載せてもいい?

皆田:「返事しろよ」も、ぼくは好きじゃないですね。酔った勢いで後輩の女の子とエッチしちゃったり、奥さんの遺品のオルゴール流れてるなかで「好きな人ができたんだ」とか呟いたりして、なにが言いたいドラマなのか、はっきりしない。「九州支部は何故この脚本載せたんですか?」って訊かれても、ぼくは答えられない。

盛多:皆田さんがおっしゃってることはよく分かるんですが、それを見る人たちのレベルは何処にあるのか。たとえば月刊「ドラマ」誌に創作ドラマコンクールの受賞作が掲載されているんですけど、ツッコミどころ満載でぜんぜん面白くない。しかしNHKはそれを制作して放送している。だからぼくは、あえて載せたいと判断します。

副島:残っているのは「大飛行」「返事しろよ」「おいしいヘタクソ事件」。

盛多:「大飛行」は外して、優秀賞として「おいしいヘタクソ」を残すかどうか。

香月:ぼくは諸手を挙げて賛成。

荒木:世界観は小さいけれど、シナリオの作り方としては破綻がない。

副島:「オルガニスト」とは傾向が違うから、支部のホームページに脚本掲載したときにバラエティに富んでいていいのかな、という意味で私は「おいしいヘタクソ事件」を推します。

皆田:作れないんですけど、「ただいま足音」は残したい。

荒木:はい、私も私も。

香月:作れない作品の見本として出せないですか。

盛多:優秀賞3つってこと?

荒木:入れられるものなら、入れて欲しいです。

香月:レーゼドラマというジャンルがあって、読むためのドラマね。ぼくは「ただいま足音」をレーゼドラマとして推したいね。

副島:レーゼドラマというジャンルがあるってことは分かります。だけど、南のシナリオ大賞は受賞した脚本は作品化するという前提で募集しているのだから、制作できないものを応募するな、というのが私の考えです。そのために一次、二次、最終と審査しなきゃいけない。その手間は省けるものだったら省きたい。

皆田:それは分かります。ただ一言、この作品良かったのだけど、こういう理由で落としましたというのがあってもいいのかな、と。

盛多:それは多分、副島さんがドキュメントをまとめるときに入ると思います。ただ、南のシナリオ大賞はラジオドラマを作るということが前提という、こちらの姿勢というか方針は、はっきり明記しておきたい。音で作れないものを読み物として評価するというのは本末転倒な気がする。

香月:レーゼドラマの考え方を広げていくと、モノローグだけの小説でもいいってことになる。それは現実的にドラマの制作が成立しないので、南のシナリオ大賞のルールから外れるってことね。

盛多:「返事しろよ」と「おいしいヘタクソ事件」を優秀賞にします。

第15回南のシナリオ大賞選考会 盛多直隆

盛多:しかし今年は不作だったなあ。

皆田:去年のほうがバラエティに富んでいて面白かった。

副島:応募数は去年とほぼ同じで。だから、下読みの段階で面白そうなのがかなり落とされてるのじゃないかって感じがしてる。
残ってたのって、手際よくサラッと書かれているのばかりでしょう。

皆田:セリフのテンポとか言葉の使い方とか、みんな似てますね。

副島:全員同じスクールで勉強してるのか、と思えるくらいみんな似てる。

2021年10月9日、福岡市中央区赤坂
審査委員:盛多直隆皆田和行副島 直香月 隆
実行委員:荒木弘子

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