第16回 南のシナリオ大賞 審査会ドキュメント

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第16回南のシナリオ大賞 選考会

(4)「ちりんとくん」
(3)「かわんちゅ」
(3)「ア・イ・シ・テ・ル」
(3)「水面月」
(3)「日の出屋のごほうび」
(3)「青空の彼方から」
(2)「ボゼとして生きる」
(2)「ナカタナカ」
(2)「ペンギンの船」
(1)「モモサン」
(1)「遠い日の記憶」
(0)「牛喰って地固まる」
(0)「君からの贈り物」

()内の数字は審査員投票数

君からの贈り物

盛多:話が当たり前過ぎて面白みに欠ける。

皆田:お祖父ちゃんがドナーになっていたことを知って、孫娘はなぜ早く教えてくれなかったのって訊いてるけど、それって隠さなきゃいけないこと? 堅く口止めされてたって言ってるけど。お祖父さんの命と引き換えに骨髄を提供されるってことなら、奈々子が嫌だって言うのもわかるんですが。

町田:手術は7歳のときなので、まだ自分でそれを判断できる年齢じゃないですよね。

皆田:だけど、そこがお祖父ちゃんと孫娘の関係のポイントになってるわけですから。なぜ今まで隠していたのか。そこが疑問に残って感情移入できなかったですね。

盛多:お祖父ちゃんお祖母ちゃんと、お父さんとお母さん。母親が娘に話すときと、自分の親に直接話すときで呼び方は違うはずなんです。それが混在してる。

副島:冒頭に独居老人死亡のニュースがあるので、何かの伏線かと思って読みすすめるけど物語に絡んでこない。

香月:ニュースの後に続く1ページくらいのやり取りはぜんぜんドラマと関係ない環境描写。すべり出しがかったるい。
お祖母ちゃんが出てくるけど、登場人物表に書いてないですね。

盛多:応募する前に推敲してないんでしょう。細かいところに気を配ってない原稿です。

牛喰って地固まる

副島:夕方の情報番組で牛喰い絶叫大会のニュースやってて、こんな親子もいましたって紹介してるだけ。息子は「ユーチューバーになりたい」、娘は「ベスカタリアンになる」って。親父は会社辞めるぞって。ただ叫んでるだけでしょ。だから何?って感じ。どこが面白いのかサッパリ分からない。

盛多:最後まで何にもなくて終わる。お父さんの仕事ってなにやってるんだろう? 表面的なものだけで組み立てて、裏に何かあるか分からない。ドラマになってない。

香月:「折ってある紙を広げて机に叩きつける」とか「芝生の上を歩いて行く」とか、音の使い方も良くないね。

遠い日の記憶

皆田:父親と娘の和解を「肩たたき券」を使ってやってるところが良いかな。もう少しドラマに山と谷があればと思いました。

町田:主人公が抱えてきたトラウマはよく書かれていたと思います。

副島:昨今流行りの男女の平等とかフェミニズムをテーマにしているんだろうけど、家父長制の悪いところだけを一方的に批判していて気分が悪い。

盛多:断片集めて無理くりストーリーを作ったみたいな。「へんだよね、家族のそんな感じって」ってセリフにあるんですが、分かります? 家族のそんな感じって。

町田:叔母からの連絡でお父さんが死にそうだって知って、それで会いに行くんだけど、叔母さんは、沖縄に置き去りにしてきた父親とコンタクトしてたってことでしょうけど、そこがどうも引っかかって。

副島:父親の兄妹なのか、母方の叔母なのかで違ってくるんだろうけど。

皆田:(叔母さんが)尚行さんって、さん付けで言ってるから母方の叔母でしょう。逃げた母娘の居場所を(父親に)ずっと隠してた。

副島:登場人物表に合川咲良と合川翔平がいて、翔平はきららの夫って書いてあるけど、きららって誰よ? 前半は咲良で後半病院で再会するときは(役名が)きららになってる。執筆中に変えちゃったのかな。

香月:キーパーソンの名前が変わってるっていうのは、原稿としてどうなんだろ?

盛多:投稿する前にチェックしていない?

副島:締め切りギリギリに応募してる人多いです。15枚だからサラッと書き飛ばしてパッと送信して、賞獲れたらラッキーみたいな感じじゃないかな。あと、原稿の最後に(終)でも(了)でも(完)でもいいけど、入れておいて欲しい。とくにこの作品の場合、「そうか、骨ばって痛いぞ」「うん、うん、大丈夫」って尻切れトンボなセリフでバサッと終わってるから、これで終わりなの? PDFに変換するときにミスったのか? とか、余計な心配をしてしまう。

香月:これは完成品の原稿ではないですね。タイトルもゆるい。

モモサン

副島:今回、死後の世界を扱っているのが3本あって、そのうちの1本。映画「シックス・センス」と同じ(登場人物は)実は死んでいましたってトリックは3本共通してます。

町田:タガログ語の「モモ(幽霊)」と主人公の名前「モモエ」をかけたところ、マリアさんにしか見えない設定は、とても良いアイデアだと思いました。

香月:妖しげな、不思議なムードがありますね。

皆田:最終ページの百恵(主人公、実は幽霊)のセリフなんだけど。

副島:「家族なんだから、わかってるはず、家族なんだからいつでも言えるなんて思っていると、伝えたかったこともちゃんと伝えられないままになってしまうのね」

皆田:結局それがテーマで、作者はそれを伝えたかったんだろうけど、セリフでストレートに出しちゃうのって、駄目なんじゃないの。

香月:冒頭に、大浦天主堂の鐘が鳴り始めて、遅れて妙行寺の鐘が鳴り始めるってあるけど、テンポも音色もまったく違うふたつの鐘の音って、これうまく録れるんですかね?

盛多:精霊流しの場面で「サイホウ」って言葉が出てくるんだけど、これって「西方」が音だけで分かる?

副島:「西方浄土」って言えば分かるかもだけど。「サイホウ」だけだとどうだろう? 「浄土」ってあればすぐに「極楽浄土」が連想できるだろうけど。

香月:どうしてフィリピン妻なんだろうね。息子はなぜフィリピンの女性と結婚したのか、その理由が書かれていない。これって必要条件じゃないですか? それと息子が帰国してすぐに不動産屋に行って家の売却手続きやってるんだけど、家の売却というのは大変な作業であって、これは無理でしょう。

ペンギンの船

副島:もう1本の幽霊ネタ。映像がないからこそのトリック。

町田:幽霊ものが3本あったなかで新しいのは「ペンギンの船」。ずっと標準語を使っていた母親が長崎弁で「この子はこがんこと言うごとなって……」ってシーンは、グッと胸に迫ってくるものがありました。

香月:「標準語」というのは駄目ですね、いまは「共通語」って言ってる。高本さんに確認したけどやっぱり「共通語」だって言ってました。「標準語」は差別語でまずいんじゃないかって。ドラマ化したらかなり問題になる。

盛多:手紙と葉書が混在してて、ここがよく分からない。郵便箱には僕宛の葉書の束が入っていて、その一通は園長先生から送られてきたもので主人公はそれを読むんだけど、読んでる最中に手紙になってて。

副島:葉書は裏が絵葉書で、色がついてたので(主人公は)そこでこの場所がモノクロで死後の世界だってこと気づく、仕掛けの種明かしとして使われてる。

皆田:手紙と葉書のくだりは一回聞いただけで分かるかな。

副島:読んでいるぶんには文字が(記憶に)残るから理解できているんだろうけど、これがセリフとして音で流れていったとき、リスナーにちゃんと伝わるかどうか。ラジオドラマって一度集中が切れちゃうとそこで終わりです。

盛多:園長先生は順番が逆じゃないって書いてるんだけど、これって誰に言ってるのか? 相手は誰?

副島:リスナーでしょう。モノローグでストーリーを進めているけど、これ全部リスナーに向けての説明で、この不思議な世界は死後の世界でしたって、その説明だけで終わってる。ドラマとしてのたっぷりが足りてない。

ナカタナカ

盛多:単純に登場人物が二人で作りやすいなと思って。それと、DVとか幽霊とか陰気な話ばっかりだったので、この男二人の友情物語っていいなって思って(一票)入れました。

香月:男同士の友情がよく出てる。セリフのテンポがいいですね。純文学ではなくて中間小説、大衆小説としての面白さ。私は絶賛してます。

皆田:この二人って、一人は将来タクシー会社の社長が約束されてる男だし、もう一人は売れっ子ユーチューバーで、そこそこ成功してるし再結成しなくてもいいんじゃない? この二人を応援しようとは思わなかった。

盛多:ぼくは逆に応援しようと思った。いまの生活に満足していないんだなって裏が読めるんで。夢が終わっていない、まだ可能性あるんじゃないかって、男二人の友情に共感した。

副島:まだ26歳ですよ。人生始まったばかりじゃないですか。再結成するとかしないとか、好きにすればって。さっきの牛喰い絶叫の話とこれだけは絶対にないと思ってきました。
足音、足音、足音、車の発進、停車、発進って、つまんない音ばかり並べて。ぜんぜん効果音になってない。

盛多:ぼくは副島さんのその意見に賛成できない。音はいっぱい作れますよ、波の音とかで情感だせますって。(音のドラマとして)成立してますよ。

香月:セリフがいいんですよね、面白くて楽しい。

副島:ぜんぜん楽しくない。「やばっ! 運転手さん、すごいね。もう気づいちゃった?」「そう、幸せよ永遠にぃのユーチューバーのコーエイでぇす」「すいません、眩しいんでサングラスかけさせてください」。軽薄でわざとらしいセリフばかり。お笑い芸人ってキャラ作りでガチャガチャしたセリフ喋らせてるんだろうけど、うんざりだわ。

町田:コンビのどっちかが人気者になって片方は芸人を諦めているという話は映画やドラマに多くて。それとタクシーの車内での会話劇は2年前に「ほてぱき」があったので私は外しました。でも爽やかで、会話のテンポは(最終候補作のなかで)一番良かったと思います。

ボゼとして生きる

副島:DVとか幽霊とか陰気なドラマが多いなかで、突出してナンセンスなバカ話だったので(票を)入れました。

盛多:それは分かる。

副島:しかも登場人物が13人!

盛多:それは駄目だ。

副島:実際あるんでしょ、悪石島のボゼって。

盛多:あるある、鹿児島県の南のほう、人口 670人の島。

香月:いや、悪石島の住民は 70人くらい。十島村全体で 670人でしょう。元朝日新聞の記者が書いた本もあって、ぼくは読んでるんだけど、それ知ってると引っかかるところがいっぱいある。

盛多:お面かぶってマラ棒持ってて、そんなボゼが都会に広まっていくってのは面白いとは思った。

副島:水木しげるのニューギニアを舞台にした漫画にこんな妖怪が出てくる。都会の夕日の中をボゼの親子が手をつないで歩いてる、ラストの情景がシュールでいいなあ。

ア・イ・シ・テ・ル

盛多:NHKが制作した「星新一短編ドラマ」に似たような話があった。身体がどんどん腐っていってロボット化してしまう話。

町田:この気持ち悪さはラジオドラマの想像力で映像で見る以上に伝わると思ったのと、最後の爆発するところのドキドキハラハラが良いと思いました。主人公は上からの指示を無批判に受け入れていて、腕が取れたり身体ボロボロになりながらも悲観してないんですね。そこが新しい。

副島:直面する問題を場当たり的に蓋をして抑え込んでいく政府の対応が、コロナ問題に対する今の政府を風刺している。

皆田:指先から腐っていくというのが、今のスマホ時代を警告してるのかな。

香月:始まりは面白かったんだけど、途中から話がどんどん陳腐になって。突然玲奈のモノローグが入ったりしてるでしょう。

盛多:主人公でなければモノローグやっちゃいけないというルールでなくてもいいのかな。つまり、玲奈のモノローグはあってもいいかも。というのは、この作品は基本的に玲奈と和也の話なんですよ。

副島:ラブストーリーですよ。

盛多:そう、玲奈と和也のラブストーリーでありながら、どんどん腐っていって、最後は爆発しちゃうというのが、ここまでやるのかと。ぼくのなかでは評価高いです。他の作品は評価しなくちゃ審査しなくちゃと冷静に読んだんだけど、これは熱心に入り込んでラストまでイッキに読んでしまった。

香月:最後がいちばん気に食わないですね。玲奈はどうしてこんなに和也に執着してるんですか?

副島:好きだからですよ。

香月:なんで執着しているのかが書かれていないね。

盛多:男と女の間に理屈はいらない気がするんですけど。

副島:恋に理屈などいるものか!

香月:タイトルのナカグロってどういう意味だろ? どんな風に読むの? あ、い、し、て、る、ってロボットみたいにやるのかね。ドローンの音とかどうやって録るんだろう。

副島:気になったのは、グィーンとかギュインとか、ぽたりぽたり、ガチャリ、ガリガリ、ぐにゃりとか。擬音語が入った効果音のト書きはやめて欲しかったな。

水面月

盛多:最初は、なんだ河童の話かよって読み始めたんだけど、もしかしたら良い話じゃんと思って。人間が河童になるって昔話はよくあるんですけど、逆に河童が人間になるというのは珍しかったので(票を)入れたんですけど。

皆田:最後は人間になるってオチに、やられたなって感じですね。

副島:倫理観道徳観が消えていって、それで人間になって(河童でいたときの記憶を)忘れていくってラストが良い感じ。場面が水辺というのが情緒があって良いですね。

盛多:悲しい話だけど良い話だと思いましたね。

香月:セリフが拙い。よく書けてる作品には瞠目するような魅力のあるセリフがあるけど、それがない。河童が成長して醜い人間になるのは、テーマとして通俗的。ラストが長いモノローグで結論付けてる、これは決定的な欠点になるんじゃないですか。ラジオドラマとして辛いですよ。

盛多:逆にそこが良いと思った。

香月:枚数2枚オーバーしてますが、それはいいんですか?

副島:募集要項には枚数制限は書いてません。15分程度のラジオドラマ脚本とだけ書いてます。去年の(九州支部の)定例ミーティングでも、多少の長短は許容しましょうと伝えています。

盛多:モノローグ多いから、実際作ったら15分では収まらないだろうけど。

副島:中盤の相撲大会のあたりはテンポ上げられますけどね。

かわんちゅ

副島:これも幽霊もの、夢オチのどんでん返し。

盛多:幽霊3本のなかではこれがいちばん良かったかな。

香月:沖縄弁で「かわんちゅ」ってないでしょう? 沖縄は川のことを「かー」って言う。

皆田:ネットで調べたら「かわんちゅ」あるんですけど、それは靴とか草履とか革製品を製造している職人さんのことなんですね。川の人ではないですね。

副島:うみんちゅ(海人:漁業など海の仕事に従事してる人のこと)があるから、それに対してかわんちゅってつけてる。作者の造語でしょう。

香月:セリフがうまくないですね。追っかけセリフがいっぱいで、主人公の14歳の少女のセリフも、どうかなぁって思う。

皆田:三途の川を渡っているんですよね。それで親父は「しっかり生きろ」って突き落として(主人公の娘を)現世に戻してやる。でも、娘はただ溺れていただけで、物語的に足りない。

香月:(娘が溺れている)状況説明がないのは苦しい。それと最後、ただ一言だけのために人物が出てくる。こんな人物は必要かな?

副島:シーサー工房の社長。お母さんが社長と良い仲になってるけど黙ってていいのって。幽霊トリックでリスナーを引っ掛けるためだけに用意された人物。こんなのいらない。

盛多:重要な小道具としてストラップを出してるんだけど、どんなのか分からない。形くらい書いて欲しかったな。

日の出屋のごほうび

香月:この作品には気取りがない。自然体でうまいですね。駄菓子屋のオバサンがよく描けてる。作品としては小さいけれどオリジナリティがありますね。

副島:駄菓子屋に集まるガキンチョたちの会話が楽しかった。10円足りないからカレーせんべい買えない子がいて、仲間が塩せんべいと半分こしようってくだり。

盛多:それを見て主人公は「子供の友ちゃんはできてなかった」と反省するんですよね。

皆田:分けるのと違う。ちょっと意味がズレているんじゃない。

副島:主人公に魅力がない。幻の焼きそばってなんだろって興味だけで駄菓子屋に通ってる。それが主人公が抱えている問題に直接関わってこない。行動の動機が脆弱にすぎる。

皆田:最後に主人公が「他人のせいにして自分から目を逸らすのはやめる」って決意を述べてるんですけど、作者が言いたいことを念押しでモノローグにしてる。

副島:その長いモノローグの合間に、焼きそばを啜る音がずっと入ってる。咀嚼音は聞いてて気持ち良い音じゃない。カットしちゃえばすむ話だけど。シナリオの作りはダメダメ。主人公はなぜ Webデザイナーなのか、職業がストーリーにまるで絡んでない。なぜビーチサンダルで歩いてるのか、なぜ車に轢かれそうになるのか。ストーリーに関係ないことばかり意味ありげに書かれている。ト書きに足音書かなきゃ場面作れない人はラジオドラマに向いてない、テレビのシナリオに専念されたほうがよろしいかと思います。

ちりんとくん

副島:子供が可愛くて可愛くて、ちりんとくんのネーミングも可愛くて。脚本としてはあまり良い出来とは思わないけど(最終候補作のなかでは)いちばん共感できて、大好きな作品です。

町田:子供はDVを受けてるんですけど、これって相手の男から?

副島:姉でしょ。預けに来たんじゃなくて、姉が捨てたんです。

皆田:こういうケースって警察ですか?

盛多:区役所の児童相談所かな。警察に行っても児相を紹介されると思う。

皆田:それで主人公は自分が引き取るって決心するわけなんですけど、これって当たり前過ぎてドラマとしてどうかな。

副島:セリフのなかに「自分にも姉と同じどす黒いところが半分ある」ってあるんですが。普通にやさしい男ですよね。

皆田:そこが足りてない。

香月:この作者はずいぶん書き慣れてると思う。というのは、セリフのあとに「--(ダッシュ)」を入れてるでしょう。いまは「…(三点リーダー)」ふたつ入れる人が多い。

副島:そんなのどうでもいいです。その手の(書式についての)質問をメールでよく受けるんですが「好きにしろ」って返事してます。

香月:シーンのなかに「 X X X 」ってあるんですけど、これなんですか?

盛多:間を空けてくれってことかな、場面転換の。

香月:それと風鈴の音というのはもうずいぶん使い古されてますね。古いパターン。

副島:可愛いからいいじゃないですか。ちりんとくーん。可愛いね!

青空の彼方から

町田:オンラインの戦争ゲームと認知症のお祖母ちゃんの組み合わせが新しくて、他にないものだった。ゲームの音がいっぱい入ってきて、ラジオドラマとして良い題材だと思いました。

香月:孫(主人公)を「一郎さん」って呼ぶところはホロっとするけどね。でもやっぱり92歳の認知症のお祖母ちゃんがゲームするというのは、正直言うと無理なんです。

副島:ケース・バイ・ケースでしょう、決めつけないでください。

香月:いや医学的に無理よ。認知症にはアルツハイマー型と脳出血型と二つあって、アルツハイマー型だとまるっきり駄目だし、脳出血型でも指が動かないんですよ。老人ホームって言ってるけど、老人ホームも種類はいろいろあるんで、どんな老人ホームなのか分からないけど、だいたい老人ホームに入ってる人に(ゲームは)駄目でしょうね。

皆田:認知症にもレベルというか、いろんなパターンがありますから。うちの母親も最後の方はちょっと痴呆が入ってましたけど、ぜんぜん問題ないときもあるし、ぼくが母親の弟に見えているときもありました。まったくもって会話できないわけでもないし……

香月:でもこれゲームやるわけでしょ。

皆田:だから出来ないことでもないと思うんですよ。(ゲームが)出来る認知症なんだなって、ぼくは(このドラマを)受け入れましたけど。

盛多:認知症でゲームやってる92歳のお祖母ちゃんというのが、このドラマの面白さだと思ってます。香月さんがおっしゃっている事が現実だと思うんですけど、もしかしたらそういうお祖母ちゃんもいるかも知れないということですよね。

皆田:こういう(ゲームを使った)治療法もあっていいんじゃないかなって。

香月:認知症を経験した家族がこれを読んだら、かなりナンセンスだと思いますよ。

皆田:認知症のお祖母ちゃんがゲームやるという設定も面白いし、ゲームの中で一郎さんを探してて、帰ってくるのを待っていつも空を見ているというのが良くて、大好きな話なんですけど。最後のモノローグで「お祖父ちゃんやお祖母ちゃん、お父さんやお母さんに恥じないように……いや、息子や孫に胸を張って言えるように生きていきたい」ってあって。それは物語のなかで表現して、聞いた人に感じてもらうことであって。最後の最後で、なんでこんなこと書いちゃったんだろうな。

盛多:作者のメッセージがダイレクトに出ていて説明的にすぎる。その最後のモノローグですけど、ここだけ役名が「耕太」になっているのは作者のミス?

副島:登場人物表にバスガイドとあるけど出てこない。たぶん知覧に行く場面で登場してたんだろうけど、推敲したときにカットしちゃったのかな。知覧に行くって行動があって、主人公の成長に発展する。引きこもりで母親に何のために生きてんのみたいに見られていた主人公が、老人ホームでボランティアやるようになる。いい話です。

香月:「そうですね、飛行機の方へ行ってみましょうか」ってあって、航太のモノローグで「僕は展示してある特攻機に目を奪われた。海から上げられたという特攻機を僕は隅々までみたくなった」とあるんだけど。これは飛行場のことですかね? 飛行場は知覧に残ってたっけ?

盛多:飛行場はもうないですね、とっぱらって公園になってます。

香月:その公園に平和記念館が建てられて、飛行機は記念館の中に展示されてるんだけど。読んでいてそれが疑問だった。

ここで休憩をとって再投票

第16回南のシナリオ大賞選考会 皆田・町田

盛多:いま残っている作品の中から、どれを外して、どれを残すか? 絞っていきます。「ナカタナカ」は外します。如何でしょうか?

香月:いいですよ。

盛多:「水面月」は残したい。

副島:「かわんちゅ」は残しますか?

盛多:死にネタは(3本まとめて)もういらないかな。

町田:幽霊ものを全部外すのはどうでしょう? 3本全部落とすと来年は死んだ人の話は応募する人がいなくなりますが。

盛多:全体を3本(大賞1本、優秀賞2本)に絞っていくうちで、幽霊ものって入ります? 作品本位で考えた場合、いま残っているものを落としてまでも残しておきたい幽霊ものってないように思う。

香月:私は「ア・イ・シ・テ・ル」は100パーセント買わない。ストーリーが破綻している。最後の爆発、八方破れなエンディング。女はなぜこんなバカ男に執着しているのか、その理由が書かれてない。

盛多:男女の愛に合理的な理屈を求めたら、すべての恋愛物語は成立しませんよ。「青空の彼方から」は評価が分かれてますが、3票入ってるので残します。

副島:「ちりんとくん」は?

盛多:残す!

皆田:ぼくが△で票をいれてるのは、全部消してもらっていいです。

副島:じゃおれも△の票はぜんぶ消す。

盛多:皆田さんと副島さんの△を外したところで再投票。一人2本で。

皆田:「青空の彼方から」か「水面月」

盛多:「水面月」か「ア・イ・シ・テ・ル」

町田:「青空の彼方から」と「ア・イ・シ・テ・ル」

香月:ぼくはなし。どれも買わない。

副島:「ちりんとくん」残ってますよ。

香月:じゃあ「ちりんとくん」

副島:私は「青空の彼方から」か「ちりんとくん」

最終審査

香月:「青空の彼方から」は、92歳の認知症でこんなにキチンと喋れるか疑問。

副島:(おばあちゃんは)16歳に戻ってるから。

香月:それは言葉の遊びでしょう! 92歳の認知症のおばあちゃんが、こんなにみごとなセリフを喋るのが最初から疑問なんですけどね。文体が普通の、正常人の喋りでしょう。それを気にしているんですよ。

町田:私が通っていた老人ホームに、このおばあちゃんみたいな人がいらっしゃいました。お父様が東宮御所でお仕事されていたという、そういう家庭に育った気品があって、いつも綺麗にお化粧されて、シャキシャキ喋って。この人が痴呆とは思えないくらいしっかりした話をされていて。でも「空襲は大丈夫だった?」とか「昨夜は一晩中爆弾が落ちて大変だった」とか言い出して、本人はまだ戦時中に生きていると認識してる。だから、こんな認知症の方もいるんだなと思った経験があります。

香月:要介護認定はいくつ?

町田:そこは3以上でないと入れない施設でした。

香月:それはまだら認知症といって、症状に偏りがあるゆるい認知症。ときどき正気になるような、そういう人もいるけど。だからこのおばあちゃんも立派にセリフを喋ってるときと、認知症を思わせるような喋りがあればいいけど、これにはそういう表現が全然ない。長いセリフをベラベラ喋って、演技どうする?
それに老人ホームで卓球とかテニスのゲームって無理ですよ。うちにもゲームがあって、ぼくはむかしテニスやってたけど、いまのAI相手にとてもついていけないのね。ぼくと同年代の友だちに聞いても、ゲームの画面見ただけで拒絶反応おこすって言ってます。老人ホームで卓球のゲームやるとか、実際の関係者が聞いたら吹き出しますよ。

盛多:おばあちゃんの認知症よりも主人公が問題。母親のセリフで「一番辛かった記憶のときの記憶を蘇らせて可哀想だって思わないの?」とあって、それに対して主人公は「思わない! だって、お祖母ちゃんゲームしている時、お祖父ちゃん探してる時、生き生きしてるから」って。こんなに言い切ってしまう主人公が好きになれない。

副島:航太の言ってることが、それが絶対正しいことのように、作者が聞き手側に押し付けてる。確かにこれは危険。おれがいちばん嫌いなキャラだ。

盛多:(「青空の彼方から」は)モノローグのあとで突然場面が切り変わる箇所がいくつもあって。例えば「祖母ちゃんはいきなり走りだした」って航太のモノローグのあとで、次の(食卓の)シーンに突然とぶんだけど。これってどういうつながりなのか。

副島:そこでCMが入るって感じですね。

盛多:そのへんの(シーンのつくりに関しての)丁寧さが欠けている。

香月:今回残ってるのは、どれも作りにくいですね。

副島:「ちりんとくん」は作りやすいですよ。

皆田:「ちりんとくん」は、幼い子どもの面倒を見る決意が風鈴の話だけで、物語が足りない。

香月:お母さんのDVをもう少し書き込めばよかったね。

副島:それが無いから良いんです。おなじ家族の暴力を扱っていても「遠い日の記憶」みたいに暴力描写をダイレクトに入れるのは嫌らしい。「ちりんとくん」の間接表現のほうが品があって良い。

町田:6歳の子がトイレットペーパーを買ってくる場面が胸にジーンときました。

副島:なぜトイレットペーパーなのかと考えたとき、たぶん、朝、自分が使い切ってしまったのでそれで買いに行ったんだろうって。

町田:母親に叩かれてたりしてきているから、紙が無くなったら自分で買ってくる、それが6歳で身についている。そんなところが、このたった2行で表現できている。500円持ってたのも前に振ってあって、よく書けていると思います。

副島:「ちりんとくん」はタイトルが良いんです。「水面月」も情感があって良い。タイトル最悪なのは「君からの贈り物」「遠い日の記憶」「青空の彼方から」。

盛多:最終決定は挙手で決めたいと思います。

副島:数の暴力を行使するんですね。

盛多:多数決は民主主義の基本です。「水面月」「ア・イ・シ・テ・ル」「ちりんとくん」「青空の彼方から」の4本。一人1本で挙手お願いします。

「水面月」(なし)
「ア・イ・シ・テ・ル」(副島)
「青空の彼方から」(皆田・町田)
「ちりんとくん」(盛多・香月)

副島:とりあえず「ア・イ・シ・テ・ル」を優秀賞として。「青空の彼方から」か「ちりんとくん」のどちらを大賞とするか?

皆田:あとは副島さん次第です。

副島:じゃ「ちりんとくん」。今日この部屋に入るまでは「青空の彼方から」1本と決めてたんだけど、セリフひとつひとつ追って読み直していくうちに、どうも共感できなくなってしまって。主人公は成長してるんだけど、その過程で迷いや葛藤がなかったのがマイナスに傾いてしまいました。高齢者介護、ゲーム、戦争、それに青空のイメージと、物語はすごく濃いんですけどね。

盛多:大賞は「ちりんとくん」。優秀賞は「青空の彼方から」と「ア・イ・シ・テ・ル」とします。

エピローグ

第16回南のシナリオ大賞選考会 香月・盛多

盛多:今回はどういう傾向だっけ?

皆田:幽霊が3本。

副島:「今昔物語」とか「雨月物語」とか、幽霊は日本文学の伝統です。

盛多:3本が3本とも実は死んでましたってオチ。

副島:アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」みたいなの。

盛多:ラジオドラマだからモノローグ使わなきゃいけないっていうのがあるんだろうか。モノローグでストーリーを説明してるのがやたら多かった。

皆田:作者のメッセージをラストでまとめた念押しのモノローグが何本かあって、これってドラマとしてどうかなって思いました。

2022年10月22日、福岡市中央区大名
審査委員:盛多直隆皆田和行副島 直香月 隆
実行委員:町田奈津子

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