第16回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
一次審査員の寸評(応募順)
かわんちゅ
構成が良いと思った。ほのぼのとした、しかし、なぜかぎこちない父と娘の会話で始まるが、物語はキーマンのようなストライプをめぐって、進行していく。やがて娘は死にかけていて、先に亡くなった漁師の父親が、賽の河原からあの世の入り口まで、魂を乗せて運ぶ川守と知る。
全編に父親の愛情が伝わる。セリフもテンポよく、悲愴さを感じさせない。父親の娘をまだあそこに行くのは早いと、船から突き落とし現世界で仮死状態だった娘は生き返る。その手には父親と荼毘に付したはずのストライプが握られていた。ありふれたラストかもしれないが、なぜかホッとする。
ふさわしい悲劇
タイトル通りのホラーコメディ。ラストが予想できる内容だったが、スピード感があってオチに向かって走りきった作品だった。
ボゼとして生きる
登場人物表を見た時は多かったため、混乱しないかと思ったが、書き分けができていた。またラジオドラマでしか表現ができない展開が評価できた。
星降る湖
絵が描けなくなって重い気持ちの司が、ミチルとの出会いによって、少しづつ希望を持つようになっていく心の動きがよく書けていると思う。ラストの。「隕石は星の子だから星に帰してあげる」というミチルの言葉に、読者の私は妙に納得させられた。
可愛らしい変なやつ
『明治時代に観賞用だった苺を、食用に品種改良していった農学研究生の福原と、彼に寄り添い続けた女中のさわの物語』
この物語が史実を元にしているかどうかは不明だが、さわのキャラが愛らしい。福原とさわのやりとりは、心がほっこりして幸せな気持ちにさせてくれる。数々の苦労を重ね、おいしい苺を作り上げた二人に拍手を送りたい。
ビター・スイート・チョコレート
展開がわかりやすく、引き込まれた。最後のひねりがもう少しあればさらに良かった。
ア・イ・シ・テ・ル
近未来を扱っているため好き嫌いが分かれるところだが、設定は面白いと思う。現代のコロナ禍の中ではよりリアルに感じられるところもある。モノローグで話が進んでいき、登場人物同士の会話が少なく、ドラマというより小説を読んでいるような気もした。
天国フライト
飛行機事故に巻き込まれ、天国へのフライトを続ける機内に乗り合わせた男女の運命は? 蘇生処置が成功した男が、女と一緒に脱出しようと右往左往する過程が面白かった。
長浦スイカ
名産、特産に因むこども時代の想い出。とりあげられたのは、びわやいちごでなく「すいか」というのがいい。スイカ割り、夏の浜辺、縁台、夏休み、つぎつぎに連想がうかぶスイカ。物語がたちのぼる。
父のいる庭
遺品整理のなか姉弟、父子の絆が丁寧な会話で描かれている。父(祖父)の心情が柚子の香のようにたちあがる。
献血車のシドとナンシー
献血は世のため人のため、巡り巡って自分のためにもなるってよ! 快調テンポのセリフの流れが心地よい。元気が出るポジティヴ志向のコメディ。シド&ナンシーの名前の由来とかは蛇足。終盤になって失速してます。
スーパー嘘つきじいちゃん
74歳の祖父は、ありもしない嘘を平気でつく。9歳の孫(女子)は、それを同級生からからかわれるので祖父を叱ってばかり。互いに相手から嫌われれていると思っていた2人があることがきっかけで…という話。
冒頭からSEを利用し、祖父のキャラクターを明確に打ち出したのがうまいと思う。孫との会話も軽快で、ワクワクしながら物語が進む。SEに関しては、「体から水滴を垂らしながらアスファルトの歩道を歩く」をどのような音で流したいのか。ラジオドラマであることを常に意識してみてほしい。最後のシーンは2人の心情が丁寧に描かれていて、あたたかい作品になっている。
あかり、消さないで
蝋燭の火が点いている間死者と会話ができるという話。
ありがちな設定ではあるが老婆の描き方や登場人物のキャラがわかりやすく描かれていて良かった。役者が楽しく演じられそうな点も◎
ポッペンの親心
妻に出て行かれた男にその母親が一計を案じる。先の読める展開だが、テンポの良い会話が面白く、最後まで楽しめる作品だった。
トルコライスな私たち
はじめは、九州のあるあるを語る会話が続いていて、それで終わると思っていたが、最後にあっと驚くどんでん返しがあり、それを最小限の説明で進めていたところがよかった。
ちりんとくん
起承転結があるストーリーで構成がしっかりしている。生き生きと描かれた人物が魅力的である。過去のエピソードも押しつけがましさがなく、主人公の心の変化に共感できた。ちょっとひねった「ちりんとくん」の居場所がほのぼのとした後味となり、好感が持てる作品だった。
消えぬまに
安易に人の死を扱った応募作は多いのですが、この作品は別モノ。長いセリフはオーディオドラマですと少々扱い難いのですが、筆者はそれも承知であえて長くしている様にも思えます。十分に書き慣れた方でしょう。
ナカタナカ
タクシードライバーの田中が空港でユーチューバーのコーエイを乗せる。かつて2人は芸人を目指していたが、コーエイだけが有名に…という話。
あらすじを知らないリスナーに、本編のみでキャストの名前やストーリーを伝える必要がある。コーエイがいきなり「中田」になると、リスナーは混乱する。早い段階で、中田と田中がコンビを組んでいたと情報提供しては。また、コーエイがドライバーがかつての相棒だといつ気づいたのか、そこを工夫してほしい。車内の物語ではSEが限られてしまう。タクシーなので急発進・急停車のSEは不自然。特に、コンビ結成の思い出の地に立つシーンで、そこがどこなのか分からないためSEの足音が想像できなかった。ラジオドラマとして分かりやすい効果音を意識してほしい。
牛喰って地固まる
例年、この絶叫大会はニュースでもやっているので、先の展開は読めるのですが、妹の絶叫は想定外でした。オーディオドラマでの絶叫はハマりそうです。兄の本当になりたい職業も良いですね。
素直じゃないんだから
子どもを思う親の気持ちと、親を思う子どもの気持ちが伝わってきてさわやかな印象。読後感がいいい。しかし少し物足りない気がした。
夜汽車を待つ下駄の音
よくあるタイムスリップネタだが、構成がしっかりしていて、現在と過去のつなぎ方が上手い。電車や機関車、そして軍靴や下駄の音などの効果音がドラマを引き立たせてくれそう。ただ情景描写として気になった点は、主人公がタイムスリップした駅は喜入駅ではなく、都会、もしくは東京駅のような気がしたところ。
君からの贈り物
ドラマの冒頭のニュースが伏線なのかと思っていましたが。(80代の祖父母の話かと…)
孫の女の子と祖父母の交流が描かれている。なんかちょっと良い話でジーンときました。縁側でのやり取りから祖父は80代くらいかと思っていたら60代。年齢の設定を考慮するとより良くなるかもと思いました。
大悪党ラーメン
タイトルからしてどんな悪人が出てくるのかと期待したが良い意味で裏切られた。久しぶりにドラマらしい作品。女の子の変化が面白い。伊藤の背景を感じさせるとさらに良いと思う。最後のセリフは役者の演じどころで余韻を持たせるか…。演出家の腕の見せ所かもと思ったが、セリフの捻りがあるとさらに良かったと思う。
屋上の人々
2028年、主人公カイタは仮想空間に作られた町に住んでいて、毎日の戦死者を入力する仕事をしている。設定の面白さもあるが、さりげない会話の中に、作者の気持ちが詰まっている物語だと感じた。
結い奏のヴァイオリン
子どもの頃、母から厳しくヴァイオリンを指導されたため弾くことをやめてしまった陽子。大人になって5歳の娘を連れて里帰りした際、孫に優しくヴァイオリンの手ほどきをする母の姿を見て…という話。
多くの応募者がSEで苦戦する中、楽器の音色をうまく使っていると思う。ただ「家の中を歩く音」はSEになりにくいので考慮されたい。もう少し丁寧に描いてほしかったのは、陽子に嫌われていると思い込んでいる母の心情と、孫に優しく教えている母の姿を見て、自分にも楽しく弾いていた頃があったことを思い出すシーン。この旅で、素直になって何を話し合うために帰省したのかが分かると、「ずるい」というセリフが活きてくると思う。
50日目の朝
一番気にいったストーリーであった。見えないもの(悪霊)とそれと対峙できる若い女性の霊能者、そして悪霊の母親である女性の祖母。構成もラストのオチがありきたりの、悪霊が成敗されたとか、無事に成仏したとかではなく、作者が実はこの悪霊に寄り添っていたのだと知り、ただの悪霊退治とは趣が違った。悪霊の悲しみが根底を貫いている。幼い頃母親に捨てられ、父親に虐待されながらも母親の愛情を求め続け、死んでなお魂が悪霊となって、母親の元にきたのに、その母親は最後まで生き別れた息子に愛情のかけらも残っていなかった。そんな祖母に霊能者の孫娘は、悪霊となった息子の想いを浄化して、祖母の体内に入れる。そして祖母の違和感は、それまでの息子の想いだと告げる。音が入った完成作を聞きたい。オドオドロシイ音だけではなく、様々な音や音楽で、聴く人の更なる共感を得るような気がする。
陣痛元の元
大絶賛!!!! この作品は最高に面白いです! プロフェッショナルな逸品です! 出産(分娩)と、やさぐれた言葉遣いと、すけべ心という、センシティブな素材でありながら、物語ははずんでいて、コミカルに描かれています。各所に笑えるフックがあり、それらがきちんと回収されていて、エンターテイメント性満点です! 何より登場人物のキャラクター設定がすばらしいです。セリフのキャッチボールが面白く、全員が”キャラ立ち”しています。オーディオドラマでセリフが音(声や演技)になったら、、、聴いてみたいです! 想像するだけでもニヤニヤしてしまいます。個人的にはこの作品に大賞をお贈りしたいです!
モモサン
鐘の音で始まり鐘の音で終わるストーリー。鐘の音は読者の心に、響いたと思う。いくつになっても子どもというものは、親にとって気になるもの、その気持ちがよく書けている。
フィリピンのタガログ語で、幽霊のことをモモというそうだが、百恵のことを、「モモさん」とマリアが呼ぶところが面白い。
水面月
「日本昔ばなし」調のシナリオで、読み手(聞き手)にお話のテーマがわかりやすく描かれています。そこが好きです! 物語を描くテクニックのある作家さんのシナリオだなと思います。悪いことをすると妖怪になるのではなく、悪いことをすると人間になるという逆の発想が作者さんのセンスてすね。やや長めのシナリオなのでオーディオドラマにすると20分を超えるサイズかなと。
遠い日の記憶
母子の父に対する恐怖感が読んでるだけでも十分に伝わってきます。SEの使い方も効果的で、音が入るとさらに緊迫度も高まりそうですね。終盤まで緊張感をもって読ませてくれるので、最後にほっこりさせる終わらせ方もキレイです。「肩たたき券」の仕込みもいいですね。
ユーチューバーようか、糸島で源さんと出会う!
糸島が舞台。身近な地域であるので、情景が目に浮かんだ。ストーリーは今風でとても面白かった。源吉の方言がよくできている。ユーチューバーの若い女性ようかと、それを知らない世代の源吉。また、アクセントになっている「のど自慢」と出場予定の源吉。遅刻しそうで急いでいるがのど自慢に興味を持ち、無理やり車に乗り込むようか。しかし、工事中の道があったり遠回りさせられたり、諦めかける源吉だか、ようかに励まされ会場にギリギリセーフで到着。ようかはその過程をユーチューブ配信していた。やがてのど自慢の中継で、源吉は合格し遅刻しそうになった理由。妻の病気とか、ユーチューなんとかの若い女性に励まされたと語る。源吉の必死な想いが伝わり、完成品を聞きたいと思った。
海辺の腹鼓
今はない妻と娘、ふたりに先立たれた男が出逢ったのは幻想か、いまだ解明されていない彼岸の一端の現出か。作者の眼差しがあたたかい。
ターザンになった娘
田舎暮らしに居場所を見つけた娘(27歳)と、子離れできない父親(56歳)の他愛ないコメディ。ストーリーの流れに破綻がなく、最後までスッキリ読めました。
青くない海
10歳の雄介はコンクールに出す海の絵を描き、元美術教師の祖父に見てもらう。しかし、酷評されて口論に。仲直りできないまま祖父が病死してしまう…という話。
SEで「1枚の画用紙を広げる」音は難しい。また時間経過と場面転換を表すのが「土の上を歩く」SEというのも効果がないので工夫してほしい。
最後のモノローグが、とってつけたような感じになっているのがもったいない。祖父が遺した「人が何と言おうと、自分が見えた色を使って描け、思い込みで描くな」というテーマを、大人になった雄介がかみしめた方が筋が通ってまとまるのではないかと思う。
ペンギンの船
説明過多でストーリーの起伏に乏しくテーマもぼんやりしていますが、黄泉の世界を描いた、オーディオドラマならではの着想を評価します。
涙でにじんだ夕日
高校生男子と一歳年上の女子高生のやり取りが爽やか。前向きになるセリフも良かった。長崎が舞台で、夕日が沈むシーンに期待したが、特にどこの海でも良さそうなのがちょっぴり残念。登場人物はみんな良い人。個性を描き分けるとさらに面白いドラマになると思います。
湯布院で見~つけたっ!
『銀行員の松川は、社員旅行で訪れた湯布院で、捜していた元地下アイドルの女を見つける。親友の自殺の原因となったその女を許せない松川は……』
タイトルの軽さからは想像できない重いサスペンス。誰一人、幸せになれない結末に気が滅入るが、人間の深層心理の闇をうまく描いている。
わたしたちの富士
とても読みやすい本です。短いセリフのつなぎも良いし、セリフ自体の区切りもいい。使われている言葉の一つ一つも韻をふまえて厳選された様にも感じます。筆者は相当な読書量をもとに、これらの作業を自然にこなしているのではないでしょうか。うらやましいセンスです。
夢見るカチャーシー
沖縄を舞台にした家族もの物語は、本来ならば物悲しいシチュエーションになりうるテーマでも、土地柄か気候柄か、島んちゅ気質か島唄の旋律なのか、陽気に収まるのがいいですね。天国へと旅立つオバアの心残りだった”後悔”が、”許し”に転じてよかったです。
クルスの海にて
ところどころにちりばめられた伏線が最後につながったことに工夫が感じられた。
高崎山月記
高崎山でもメス猿がボス猿になる時代。タイトルで「山月記」のパロディだろうと予想がついたが、それでも独特のテンポやセリフが効いて楽しめた。サルの鳴き声などオーディオドラマとしては面白いかもと思わせるところもある。ただ主人公が最後まで行動しない点がドラマとして残念かも。
緑光
思い出の旅行先でグリーンフラッシュを待つ間の父と娘の会話で成り立つシンプルな構成。問題を抱えた家族とその葛藤、ほろ苦い終わり方がなんともいえない。
日の出屋のごほうび
主人公と駄菓子屋の女主人、それに客の小学生たちの会話のテンポが心地よい。主人公の性格、他人とコミュニケーションをとるのが苦手というのが、実は小学生時代の駄菓子屋でのできごとがトラウマだったと、客の小学生たちの、駄菓子をめぐる会話で気がつく。九州という単語は、幻の焼きそばの味付けが、実はたまに入荷する九州産の甘い醤油であったというのは、少し弱い気がするが、会話のテンポと面白さが良かった。大人にとっても、このごろ駄菓子屋が密かなブームと最近報道されていたので、タイムリーかもしれない。
フロリダに風呂はない
『フロリダから一時帰国した植物研究者の紀明は、将来、日米のどちらで働くか迷っていた。迷いの元を見抜いた父親が紀明を銭湯に連れ出す』
人生の節目で悩む息子に、父親が伝えたアドバイスが的確で温かい。人生の分かれ道に立った時、正しい道へと背中を押してくれる優しい物語。
ずっと……
関西的なエンターテイメントセンスが効いています。着眼点とユーモアとおかんとの会話がおもしろく、なによりもそこに愛があるのがいいです。読み手が肩に力を入れずとも物語の中に誘導される描き方。楽屋で主人公たちと一緒に過ごしている感じがしました。最後に暖かい気持ちになるのがうれしいです。
海底の舞
ダンサー志望だった兄弟。ダンサーへの憧れをバネに、隻脚のからだの兄とスッテプをふむ弟。ふたりの逞しい足音が、心地いい和音が、関門トンネルにひびく。海へ散骨された兄弟の父母に見守られるように。
青空の彼方から
『ほぼニートのオンラインゲーマーの航太。母親から認知症の祖母の介護を頼まれた航太は、祖母と一緒に戦争もののゲームを始めるが……』
戦争で夫を失った祖母が、ゲームの中で夫に似た人物を捜す様は切なく心を打つ。祖母の姿を通して、航太が自分の人生に向き合い、前に進み始めるラストも良い。認知症の祖母と戦争ゲームを結び付けたアイデアはスゴイ!
ルリモハリモ
不思議な語感のタイトル。強烈な虐め描写。駄菓子屋おばさんの優しさ。印象に残る作品ですが、それらが導入部の人事異動とどのように関係しているのか分かりませんでした。
以上、48編