第17回南のシナリオ大賞 選考会
はじめのおかえり
盛多:どうも嘘言に見えてくるんですよね、読めば読むほど。作家の都合のいい物語を作っているだけの感じがしましたね。いつ頃からこの症状が出ているんだろうとか、そういう素朴な疑問が湧くんですよね。
皆田:中身の展開があまり良くないなと。母娘で呆けた父親を支えているというフレームは良いとは思うんですが、会社も協力しているという点などは現実的ではないし、私はあまり引き込まれなかったです。
松尾:短い中にまとまっていたと思います。作家さんが考える世界観とかオチまでの展開も非常にわかりやすかった。ただ、キレイな物語ではありますが、もう少しフックが欲しいと思いました。
日高:ボケてしまった夫を、この母娘は、毎日、店に客として受け入れているという、そのアイデアは優れていると思いました。ト書きで「ママが晃を揺する」というような、これはどうやって音として表現するのかな? というような映像的なト書きが所々見受けられました。
町田:夫婦の絆が見える物語だと思いました。ただ、既視感があるというか・・だったら、もっと、夫婦の絆を深く描いた方が良かったなと。途中で夫目線から妻目線に変わるんですが、最初から最後まで妻目線で描いた方が、より深い物語になったのではと思いました。
Perfect Worldへようこそ
皆田:今時のテーマで面白くて好きです。ただ、なにかと説明コメントが多いのが欠点かな。サチコとヨージのことをもう少し描いて欲しかった。なぜ、この45のおじさんが引きこもりになったのかとか、そういうことを。面白い作品だから、人物のことが知りたくなるんですよね。
松尾:話のモチーフは非常に好きです。タイムリーで時代が今の物語だと思いました。SFの要素もあるし・・・実際いるんですよね、こういう人が。この物語に共感する人もいると思います。ラジオドラマでどれくらいこの世界観を再現できるかなという面白さはあると思います。
日高:バーチャルの世界を取り上げたというのが、今を感じさせていてそこは高評価です。ただ、好みの問題ですが、私はこの世界のような乾いた世界が好きではないというところはあります。私の評価としては、よくできているけど感動は出来なかったという感じです。
町田:私の中では上位です。最終選考に残った作品の中でラジオでしか表現できない物語はこれだけです。「Perfect Worldへようこそ」から始まって「Perfect Worldを退会しました」で終わる流れのセンスの良さもいい。ここでしか生きられない人々を描いている点にも今を感じます。
盛多:アバターの世界と現実の世界で25歳と45歳。23歳と15歳というふうに年齢が入れ替わっていくのも演出的には面白い。感動ポイントは、この女の子が亡くなっているという点です。物語としては高い評価です。ただ最初に出てくる『ライ麦畑でつかまえて』はもう使い古されている気がします。
株式会社ホワイト
皆田:これ結構好きです。まずスピード感があり笑いもあって。あと、この星印の白星と黒星の変わり具合が楽しみでしょうがない。じいちゃんが乗り移るっていうのは使い古されてきたようなことなんですけど、今の世の中は鬱陶しいじゃないですか、そういう世の中をじいちゃんがぶった切ってくれたかなと。ただ、お母さんが娘の愛子にかけるセリフがあるんですが、これがストンとこなかった。
松尾:テンポがあって面白い。ドタバタ劇ですが聞いた後にイヤな気持ちがしない。最近のコンプライアンスで言えないことが増えちゃって、そのしわ寄せが全部どっかに来てるんだよっていう問題提起を代わりに乗り移ったじいちゃんが言ってくれる気持ち良さ。これは役者さんが演じてみたい脚本だと思います。
日高:最初から最後までスピード感があってテンポがよい。あとはキャラクターの面白さ、セリフも面白いっていう。一番思ったのは役者さんが大変そうだけどやりがいがありそうだなと。どんなふうに演出されるのかなって思いました。私も主人公のお母さんが諭すところは、辻褄合わせる為に作者がひねり出したような感じはしました。
町田:テンポがよくて面白い。私にも孫がいるので、もし自分の孫が愛子と同じ目に遭ってたら、このおじいちゃんのように乗り移ってやっつけるだろうと思います。ハラスメントを徹底するとそのツケが誰かにくるという、社会への問題提起も出来ていると思いました。
盛多:俺は全然乗れなかった。セリフが全部説教に聞こえてくるんだよ。(お爺ちゃんだからの声あり)入れ替わるところも、芝居自体が嘘っぽいんだよね。そういう部分で演出出来ないなと思った。
ファーストプレゼント
皆田:これは好きでした。読んだ後に光をもらえた。ありがちっちゃ、ありがちですがね。最後、主人公の息子も養子縁組だったということがわかりますが、いい子に育って良かったなぁと思いましたね。
松尾:福岡の物語で身近なモチーフだったから入りやすかった。で、養子縁組というのは今の時代の問題提起にもなってますし。養子縁組で育った子供と飴買い幽霊の言い伝えがクロスされてて非常に読みやすかったです。伏線がしっかり意味を持って繋がっている。温かくて美しい物語だと思いました。
日高:感動的な話のはずなんだけど、なんか今一つ感動できなかった。セリフで語りすぎなのかな? 十代の少女の感情が今ひとつ見えてこないし。最後、主人公が女の子に会わなかったじゃないですか? それで代りに息子さんに会いに行かせた。だからかな、主人公に気持ちが入らなかったというのがありました。
町田:私はこの作品を上位にあげました。15枚とは思えないほど中身が濃い。もしラジオドラマになったら、この主人公の「大丈夫、幸せになるよ」っていうセリフに救われる人が出てくると思います。
盛多:ストーリーに既視感はないかな。あと、個人的に「大丈夫」という言葉が嫌いです。子供の頃、「大丈夫、大丈夫?」って言うおばさんがいて。「俺の何がわかって大丈夫と言うんだ!」と、反発した記憶がそのまま残ってる。だからこの作品を評価しにくくて△にしてます。
氷砂糖ひとつ
皆田:ふられた女性が会社を辞めて吉野ヶ里遺跡の発掘バイトに行って、そこで出会った年下の男に気づきをもらうという話なんですが、「ふーん」で終わった感じです。ドキドキ感、ワクワク感が感じられない。
松尾:吉野ヶ里の発掘に行くっていうぶっ飛んだシチュエーションは好きでした。氷砂糖ひとつが受け入れられるか、られないかという、その女性の性格や想いとかで物語を展開させるように丁寧に作られたシナリオだと思いました。最終に残ったのはこの丁寧さだと思います。
日高:わかりやすく、いい作品だと思いました。教科書通りと言うようないい話なんだけど読み終わった後、皆田さんと同じで「ふーん」という感じでした。上手でいい作品なんだけど普通かなという感想です。
町田:読みやすくて美しい原稿だと思いました。ただラジオドラマとして見た時に盛り上がりが足りないかなと。香奈の心が徐々に武士を受け入れるように変化していく部分の描き方は上手だと思います。
盛多:印象としては丁寧だなと。この主人公の女性って年下を好きになるタイプの女性かな? そう思ってくると、大学生が突っ込んでくるのもこの女性は受け止めることが出来るんだなと思っちゃったんだなと。僕は「癒されていく」というラストの言葉があまり好きになれなかった。なぜこの言葉を最後に持ってきたのか? これは女性目線なので何とも言いようがないですが。男性目線でいくと「もう回復してるだろ?」と思っちゃた。最後のセリフは僕の中ではクエスチョンです。
マリーの鏡
皆田:10年前の作品ですかって言う気がしました。昔にこういうストーリーってよく見たような気がします。ジェンダーの話を取り上げるのもいいんですけど、おカマを騙して金を巻き上げるっていう展開も古臭い。デコピンの音とか取れるのかな? 評価しにくかったです。
松尾:全体的に昭和の匂いがします。ジェンダーレスみたいな素材は嫌いじゃないです。ただ、どうしても悲しい方に扱われがちです。むしろそれを吹き飛ばしてくれるぐらいポジティブにコミカルな展開にしてたなら、私は絶賛したと思います。
日高:一気に世界観に引き込む力がある作家さんだなと思って、嫌いじゃなかったです。カルメンマキっていう感じがしましたね。主人公はどんな声でどんな歌を・・歌はオリジナルですよね、そこは制作でどんなふうにするのかな? ジェンダーは今に通じる問題ですが男に騙されてという展開は読めてしまいます。ラストにひとひねり欲しかったです。
町田:ゲイバーの雰囲気、鏡の割れる音などラジオドラマに適していると思います。気になったのは、どうして母親の出棺の時にセーラー服を着て現れたのか? 自分の本当の姿をお母さんに見せたかったのかもしれないけど、大騒ぎになることは予想がつくし・・その時のマリーの心情を描いて欲しかったです。
盛多:気になるところが二点あって、一点目は都合が良すぎないかと。父親が主人公を騙した男に突然出会って、殴って警察に行くとか普通ありえないじゃん。二点目は鏡が割れたっていうのが物語の伏線となるかもしれないけど、じゃあ誰が割ったの? それとセーラー服で出てきた。このセーラー服はどうやって入手したの、お姉ちゃんがいたの? 要するに伏線を張ったときにそれをきちんと回収できてないんで、この二点で評価はしてません。
失恋の苦しみから抜け出す方法
皆田:面白かった。洋子が一番面白かったな。こんな男おるんかな? ふられて友達に次々にコメントをもらうっていう。まあこれが面白いんですけど。失恋の苦しみから抜け出す方法は結局時間だという答えなのかな。洋子の「殺す」っていう話も面白かった。洋子も苦しんだんだなぁ。頑張れ洋子! と思いましたね。
松尾:会話劇でテンポもよく主人公の稔のどんくささも面白い。なんといっても再会した時の洋子の「殺すしかないで!」というセリフ。洋子のキャラ設定がすごく良かった。実際、役者が演じた時にとても面白いと思う。忘れる為にどうやって殺すかみたいな。盛り上がりますよね。でもやっぱり最後、稔はちょっとどんくさかった(笑)。
日高:軽快なテンポで面白かった。洋子の登場がちょっと遅いのでは? 面白いとこでもあるんだけど、あまりにも『殺す、殺す』っていう言葉を連発するのは私としては抵抗がありました。洋子は関西弁だから面白いのかもしれませんが博多弁でやって欲しかったですね。面白かったんですが主人公の成長は感じられませんでした。
町田:洋子のキャラが素晴らしかった。ただ、ちょっと主人公の稔は23歳にしては幼すぎて、こんな人いるの? と思いました。洋子の学生時代のあだ名の『泣く子も黙る南風』っていうのがインパクトがあって面白い! これがタイトルでも良かったのではと思いました。
盛多:洋子のキャラ好きなんですよね、僕は。それを考えるとちょっと前半が長いかな。友達に聞く云々というところはもう少し端折ってもいいかもしれない。登場人物を少し減らしてもいいねっていう。あと洋子が稔が好きだってって言うのが最後にわかるんですが、そんなバカなと思う反面、こういうふうに言える女の子がいたらいいなと思いましたね。抜け出した評価にはなりませんが面白いストーリーでした。
親方と息子見習い
皆田:展開が読めてしまう。中味はエッと思うような展開にして欲しいけど。結局、嵐の中に船を出してチャンチャンみたいな展開。結婚に反対していた親父が認めるというフレームはいいですけど展開が読めるから感動も無いし。ワクワク感もなかった。
松尾:釣りものという設定は面白くてシチュエーション的な魅力は感じるんですけど、なんか定番のテンプレートになっているかな。エッセンスとしては年の差の恋愛だったり、バツイチ男が息子さんを亡くしているという切なさだったり、そういう味わいはあると思いますが型通りという感じがしました。
日高:場面転換の流れが分からなくなってるとこが所々ありました。気になったのは、亡くなった息子さんがやりたかったことをやろうと思ったという部分。金髪でチャラチャラした服を着るのが息子がやりたかったことなの? そこが腑に落ちなかった。娘が水上を好きになったとこも腑に落ちなかった。ドラマに入り込めなかったですね。
町田:ほっこりする作品とは思いましたが先の展開が読めちゃいました。水上とお父さんとのやり取りは面白かったです。水上の亡くなった息子のエピソードは花木のモノローグで簡単に説明しているだけですが、ここをちゃんと描いて欲しかった。
盛多:色々と腑に落ちない。自分の息子が19歳で亡くなったっていう設定があった時に金髪でチャラチャラして・・そういうことをやりたかった息子なのか? そうだとしても、父親がそうはしないだろうというのがあります。水上のキャラが好きになれない。それと大きかったのは年の差、32歳だっけ? この差を埋めるのには、もっと大きな動機がないと結婚までいかないだろうという思いを引きずったまま読んだんで、腑に落ちないまま終わったなという気がしてます。だからあまり評価できませんでした。
呼び継
皆田:よく理解できませんでした。死んだ旦那さんと奥さんとの関係が呼び継にかかってくるんでしょうけど、ご主人と奥さんとの関係が何だかぼんやりとしか理解できなくて。技術的なところとテーマは良かったと思いましたが、すっきり僕にわからせて欲しかったなと思いました。
松尾:丁寧に描かれた物語だなあと思いました。唐津の雰囲気が浮かびました。背景がわかりやすかったです。『呼び継』は違うものをくっつけた器を嫁入り道具に持たせる、絶対に離れないようにということを伝統的に受け継いできている。だから亭主関白の夫とも別れずにいた。『呼び継』という言葉としっかりと結びついていると感じました。静かに聴ける物語として私は好きです。
日高:しっとりとして抒情的で好きです。唐津焼というところもポイント高いです。夫婦2人だけの会話でスッキリしている。陶芸を作ってる音なんかもすごく良い。亭主関白な夫の妻として、日々色んな想いを溜めてきたと思うんですが、夫が癌になって優しい夫に変った。その辺の妻の心の動きがよく描けてます。緩和ケアの話などもリアルです。「呼び継は割れた傷を無かったことにするんじゃなくて、傷をあるがままに受け入れる。その傷が面白くて美しい」といったセリフからも再生の話だと思いました。そういうラストも好きでした。
町田:セリフが上手くて、夫婦の絆がよく描かれているという点を評価しました。読み終わった後にタイトルの『呼び継』という言葉が胸に刺さりました。ただ私は元々こういう話が好きなので、亡くなった伴侶が出てくる夫婦の物語を映画やドラマでたくさん観ています。なので、どうしても既視感がぬぐえないところがありました。
盛多:僕はわかりやすそうで分かりにくいと思いました。オプソという癌治療薬って一般的に流通してるの? この中に副作用があると書いてあったから医療用の麻酔なのかな? よくあるのはこの言葉(薬)を妙に使うとクレームの対象になっちゃうんですよ。そこが不安かもと思いました。オプソという固有名詞を使っていいのかどうかという点がクエスチョンでした。薬品名等は使い方を間違うとまずいから。
魔法使いのシュークリーム
皆田:この子はどうして喋れないの、転校がきっかけ? 詳しくは書いてないよね。あと豆乳と米粉のシュークリームってそんなに悩んで失敗重ねて作るほど難しいものなんですか? ラジオドラマとして難しいんじゃないかな。モノローグと会話ですよね、大丈夫かな? 聴く方も大変だなと思いましたね。
松尾:渚ちゃんの頭のセリフ。はじめの1回、2回とか。アニメーションだと思いました。ジブリみたいな。ファンタジー感がありますよね。いま不登校になる子供が非常に多いんですよ。素材的には今の子供達のリアル感があると思いました。
日高:私は高評価です。最初の渚ちゃんのセリフが詩みたいですごく素敵だなと思いました。渚ちゃんを演じる子が上手くないといけないと思いますけど、場面緘黙賞やアレルギーも現代を映し出していると思います。渚ちゃんが「これ本当に美味しいんだよ」って喋るところのクライマックスが良かった。
町田:私はあらすじを読まずにシナリオを読むので、なんでこの子はモノローグばっかり? と思ってました。場面緘黙症の症状だとわかった途端に渚ちゃんが愛おしく感じました。でもラジオドラマだと作品の良さを消してしまうのではないかな? モノローグと普通の会話との対話形式なので。映像向きかなとと思いました。
盛多:逆に僕はラジオドラマ的かなと思ってます。モノローグの女の子の声が聞こえてくるんですよ。この女の子をどう演じるかっていったところを考えると、映像にするとつまらなくなると思った。アニメーションに近いかな。僕の中で評価が高いです。このファンタジー感はやりたいなと思わせますね。
一等、別府温泉一泊二日
皆田:スピード感と面白さがあって僕は好きでした。ただラストは血の池バーガー屋に行くけど、臨時休業だったとか売り切れだったとか、最後の最後まで畳みかけた方が良かったかなということはありますが、全体的にアッという間の15分間だなって思いました。
松尾:軽快で面白く拝読しました。私としては旅館が臨時休業してたっていうインパクトがある場面で雨が降って欲しかったんですよ。皆田さんがいま言われたように、ことごとくなんかこう不運な2人にした方が、不運なんだけど話的には面白かったかな。
日高:テンポが良くて、この2人の不運自慢が漫才みたいで面白かったです。でも、その部分がちょっと長い感じがしましたね。これは私の感覚なのかもしれませんけど、出会ったばかりの2人が一泊二日の別府温泉に泊まりで行くかなって、気持ちが入らなかったっていうのがあります。
町田:私は好きでした。最終選考に残ったドタバタ系の作品の中で私はこれを押しました。不運な男女が出会って不幸自慢をする場面が漫才のようで楽しかった。ラストで旅の栞を落とすシーンで思ったんですが、不運と嘆いている人は運がないんじゃなくて、運を捕まえる勇気がない人なんだと伝えている感じがしました。
盛多:面白いは面白いんだけど。最後までこの展開で行くの? 起承転結はどうなってるの? そういうことが気になりましたね。これ芝居にしたら全然面白くなくなるぞって思っちゃった。なので僕は評価できませんでした。
ゆきだるま届けて
皆田:作者が言いたいことって「正直に生きなさい」っていうことなのかな? 溶けた水を小林さんがペットボトルに取ってたっていうのがナイスプレイだと思いました。その場面がないとこの物語は成立しないですから。心温まる物語ですけど大きなフックが感じられなかったですね。
松尾:小林さんが子供にペットボトルの水を「お父さんが作ってくれた雪だるまの雪だよ」と言って差し出した場面が、私には一瞬わからなかったんですよ。ここは大事なキーポイントですが、映像だったらわかるけどラジオドラマでリスナーに伝わるかな? 物語全体としては好きでした。男の子の存在が可愛らしかったです。
日高:私はこの作品が一番高評価です。3回読んで3回とも泣きました。水がチャプチャプする音とか、セリフで情景が目に浮かんでくるんですよ。健気なお母さんと可愛い子供というのがお決まりな感じがしますが。家に行くと父親の遺影がある。それで全て理解できるというところとか。私は溶けたペットボトルのこともすぐにわかりました。子供がペットボトルの水を頬に押し当てたというシーンも目に浮かんで泣けました。
町田:面白くて温かくて切ない。あとセリフがうまい。ハニワ運送の配達員がキャラ立ちしてて、コントを見てるような楽しさがありました。ペットボトルを置くシーンは、確かにラジオドラマではわかりにくいかもしれないのでセリフを入れた方がいいかもしれないですね。
盛多:どうするか悩んでるとこだね。上に上げるか上げないか。話としては面白いと思う。感動するとこもあるし。ただ作家が狙ってやってるのかなと思うとあざとく思えてくるし。その辺のところを加味しながら悩んでいる最中です。ちゃんと伏線も回収してるんですね。そこはいいんですけど、発泡スチロールを切って粉みたいに飛んでいるという絵がピンとこない。ラジオドラマじゃわかりにくい。
みずあかりに想いを馳せて
皆田:すごい母ちゃんやね。こんな母ちゃんおるんかな。ストーリーとしてはお母さんがお父さんにそっくりの男の人を見つけて5回目の結婚をする。娘も最後は祝福する。親子のやり取りがちょっとよくわかんなかった。今までの人はお父さんと同じだと思って結婚したけど違った。当たり前やんと思いますけどね。で、5回目の結婚相手の人はお父さんにそっくりだと。それで娘も納得しちゃってるんですよね。こんなのでいいのかな? なんとなく評価できないなと思いました。
松尾:お母さんのキャラがちょっと弱いんですよね。5回も結婚するような人に思えない。もう少しキャラ立ちしていれば、この人なら5回結婚するよねと思えるんですけどね。あとは今回のお母さんの結婚相手のことを娘さんが納得するようなエピソードが欲しかったと思います。
日高:みずあかりの情景は美しいなと思いました。ただ、誰にも感情移入出来ないというか、登場人物がみんな本音を語っているように思えなくて・・心に響いてこないというか。セリフを聞いてもホントって思ってしまう。そこがちょっと残念でした。
町田:このお母さんは4回も5回も結婚する必要があったのかな、と思いました。武雄さんなら母親を幸せにしてくれると娘が思える、要のシーンがあるといいですね。そのあたりをきちんと描いて欲しかったです。
盛多:計算していくと20年近くのうちに4回も結婚してる。それって5年に1回結婚してるってこと? というふうに思った時に、現実的にそれないだろうと僕は単純に思ったんですよ。年齢設定っていうのは、この前も別の審査で話題になったのは作家はそこまで考えてるの? それをきちんと考えて物語を通していかなくちゃいけない。その前提条件から欠落している、ということになってきた時に、読めなくなっちゃうんですよ。正直言って甘いよねという感じを受けました。
ハート・パート・バード
皆田:登校拒否の弟さんがいて、その理由ははっきり分からない。今はそういう子供が多いみたいですね。フリースクールに行くとか行かないとか、そういう話ですよね。これは夢じゃなければいけなかったの? フリースクールに反対していたお姉ちゃんが応援するようになるんですけど、それが夢を見たことがきっかけになってるんですよね。それがいいのかどうか僕にはちょっとわからないですね。
松尾:日暮一家はどこに住んでるんだろう、東京ですかね? 東京の高校生が「お前の足、桜島大根みたい」とは言わないと思うんですよね。桜島っていうキッカケを出したかったと思うんですが・・・。物語としてはきちんと書かれているとは思います。今どきの旬の素材というか、不登校とかフリースクールとか・・モチーフはあるけど、なんだかこうバラバラだなと。ラジオドラマで聴いてわかるかなと思いました。
日高:この一家は仲良くていいねというような感想ですね。両棒餅は漢字で見ると情緒がありますけど音で聴いた時にイメージとして使えない。夢もですね・・・ラスト、主人公はブラザーコンプレックスから脱出したのかな? 弟の方は成長したけど寧々は何も成長してないと思ってしまって、ただ夢を見てただけだよねと。その点で終わりがスッキリしなかったというところはありました。
町田:まず姉弟の会話が上手だなと思いました。ただ、私は郷が鹿児島なので、この作品は検索した情報だけで書いていると思いました。物語のキーとなる両棒餅は桜島の名物ではなくて磯地区の名物です。鹿児島県人なら皆、違和感を感じると思います。多分、両棒餅が桜島SAに売っていたから勘違いしたのかな? そもそも桜島SAは桜島じゃないので。そういう細かいところが気になってしまいました。弟に依存していたのは自分の方だったことに姉が気づくラストはよかったです。
盛多:ブラコンって一般的に使っている言葉なんだっけ? これ漫画であるんだっけ? (ありますよの声)ブラコンってそんなに聞くイメージがないから、そこから引っかかっちゃって。それと同時に何で夢にしちゃうの? その動機がわかんなくて。この寧々の行動が常になぜ? と見えなくて、中になかなか入っていけなくて。この家はお父さんはどうしたの? どうもよくわからないままでした。夢オチというのもついていけない。僕の中ではあまり評価できない作品でした。
ホワイトボードに各審査員が〇△を書き入れる
(○=2点△=1点)
8点 PerfectWorldへようこそ
7点 ファーストプレゼント
5点 ゆきだるま届けて
4点 株式会社ホワイト
4点 呼び継
4点 魔法のシュークリーム
3点 一等、別府温泉一泊二日
2点 氷砂糖1つ
1点 失恋の苦しみから抜け出す方法
0点 はじめのおかえり
0点 マリーの鏡
0点 親方と息子見習い
0点 みずあかりに想いを馳せて
0点 ハート・パート・バード
盛多:点の入らなかった作品は外します。1点の「失恋の苦しみから抜け出す方法」もいいですか?
皆田:はい、「洋子」良かったけどね。
盛多:2点の「氷砂糖1つ」は。
日高:みんな「丁寧さ」は高く評価しましたね。でも上位の作品に比べるとちょっと弱い、普通な感じ。
盛多:外しましょうか。町田さん、「呼び継」を評価しなかった理由を聞かせてもらえますか?
町田:この作品は好きですが、夫婦のどちらかが亡くなって幽霊で出てくる話は良くあり既視感があったので。
盛多:皆田さん、「魔法のシュークリーム」を評価しなかったのは?
皆田:米粉と豆乳でシュークリーム作るのってそんなに苦労するのか、どうもよくわからなかった。冒頭のモノローグとセリフの区別もわかりにくいのではないか。
日高:演出で区別できるんじゃないでしょうか。
盛多:ファンタジー性、そしてマイノリティーを応援している点が良い。日高さんが「呼び継」を推す理由は?
日高:唐津焼を扱っていること、それを創る音の魅力がある。主人公が夫と生きてきたなかでの様々なわだかまりを精算し1人で生きていくという、ラストの後味が良かったです。
盛多:薬の「オプソ」が引っかかったんだよな…。「ファーストプレゼント」はどうですか?
皆田:僕の中では一等賞です。
町田:本当にこれを書いた人は力があると思います。
盛多:どうも古い感じを受ける。
日高:「PerfectWorldへようこそ」に比べたらですね。
盛多:「雪だるまを届けて」は?
日高:私は大好きです。もう「ハニワ運送」からして気に入りました。センター長に怒られるのを覚悟するラストも良いですね。
盛多:自分はそこが人間らしくない、運送をやっている人はもっと逞しく図太くあってほしいと思ったんだけど。
皆田:これ、そもそもですが、溶けてるのを受け付けるのはおかしいですよね。受け付けないでしょう。
日高:箱の中で溶けてたら、ちゃぷちゃぷしてわかりますよね…うーん。
町田:溶けかけてたのでは?
盛多:いや、もう「溶けてたんです」ってセリフでありますもんね。 「Perfect World」は評価が高い。
町田:ラジオドラマで聴きたいです。今までの「南のシナリオ大賞」にはない感じ。
盛多:女の子が亡くなったのはいつだっけ、半年前か…。
町田:最後のデートの後連絡が取れなくなった。だからきっと女の子は相当ギリギリの状態でやっていたんでしょう。生まれつきの病気でずっと病院にいて、でもカッコいい男の人とデートする夢を持っていた。そう思うと切ないです。
盛多:歳が違っても同一人物だから同じ役者に演じさせたいな。
もう一度「ファーストプレゼント」について論じましょう。主人公の恵に感情移入できましたか?
日高:最後の方で恵が神社に来れなかった理由を、息子が「泣き顔見せてくなくて」と言うんだけど、ベテランだからそんなことはないだろうと思ってしまって。
町田:恵がずいぶん立派で出来過ぎた人に感じる。
日高:いつも周りの人を「大丈夫、大丈夫」と励ましてますもんね。
町田:それは自分がたくさん辛い目に遭ってきているからでしょう。
日高:でもその辛い目に遭ったというのは息子が語ってる。主人公が自分の感情として出していないから感情移入できないのかも。
盛多:主人公は欠点があってそれをクリアしていくものなんだけど、完璧すぎるな。
町田:マリア様みたい。でもこの作者は上手ですよ、この話を15枚にまとめていて。
皆田:主人公も昔このお寺に通って泣いていたんですね。月乃の姿が自分に重なったんでしょうね。
盛多:上位2作品は決定して、残りについて更に話し合いましょう。
日高:3点の「一等、別府温泉一泊二日」について話し合ってないです。
盛多:「別府」は「株式会社ホワイト」と同じニオイがするなあ。
《休憩》
盛多:8点の「PerfectWorldへようこそ」、7点の「ファーストプレゼント」は受賞。大賞1作品、優秀賞2作品なので後1つということになりますが。
町田:受賞作3つはそれぞれタイプが違った方がいいですかね。
皆田:上位の2つは、午前中松尾さんが言われた「とんがった作品」ではないような。
盛多:いや「PerfectWorldへようこそ」はとんがった作品と僕は見てますよ。
町田:今までないタイプの作品ということであれば「魔法のシュークリーム」。落としがたいです。可愛いし。
皆田:僕は「ゆきだるま届けて」「呼び継」「魔法のシュークリーム」の3つはお話として気に入ってないんですよ。
日高:私は逆でその3つを気に入っています。
町田:今回テンポが良くて面白い作品が多かったですが、上2つはそのタイプではないですね。
盛多:テンポの良いというと「株式会社ホワイト」と「一等、別府温泉一泊二日」ですね。「別府」は消えたから…。「ホワイト」ですか。
皆田:今どきの、有給取るの当たり前、飲みに誘わない、パワハラになちゃうっていう世の中をちゃんと取り上げて、それをじいちゃんがぶっ壊してるっている爽快感がいいんですよ。
日高:私は「ゆきだるま届けて」が一番好きなんですが…。でも、上位2作品が決まって後1つ違うタイプのものを選ぶとすれば「魔法のシュークリーム」がいいと思います。場面緘黙症とアレルギーのことを扱ってるし、セリフが詩のようで素晴らしい。
町田:私は「魔法のシュークリーム」のモノローグがラジオドラマ向きでないと思い低い評価にしてたんですが、制作側の盛多先生が「作ってみたい」とおっしゃったので評価が変わりました。
盛多:「呼び継」は? 何か意見ありますか。
日高:「呼び継」も好きですが、一つ選ぶなら「魔法のシュークリーム」ですね。
盛多:「魔法のシュークリーム」を推す理由として一つあるのは、いわゆるマイノリティーを応援している姿勢です。でもその応援してることが何となくあざとい感じもしてしまう。
町田:「あざとい」というのはどのあたりですか?
盛多:全体が。でも少なくとも「ホワイト」ではないな…。
皆田:いや、僕は作ってもらいたいんですよ、☆印と★印の変化を。
町田:これ演劇にしたらいいですよね。
日高:面白い、演劇になったら観てみたいです。好きな役者さんで。でも……「南のシナリオ」で選ぶとしたら「魔法のシュークリーム」ですよ。
盛多:「ゆきだるまを届けて」はいいですか?
日高:えー、一番好きなんですが…。
盛多:いや僕も推してるんだけど。上位2つは抜けないですね。
日高:それはそうです。
町田:「魔法のシュークリーム」がいいんじゃないですか。可愛いし、甘い香りを感じるような作品です。私の知り合いのアトピーの酷い人が要るんですが、本当に大変。何かを食べられない人って世の中に多いですよ。
日高:それは本当にそう。アレルギーって、もはやマイノリティーじゃないくらい。
町田:ジェンダーレスを扱ったものは良く見るけど、場面緘黙症を扱ったものはあまり見ないです。
皆田:僕が推せない理由なんですが。お話として、駆け出しの新米シェフが米粉と豆乳を使ってシュークリームを作りました、じゃないですか。 それに引っ張られるというか。これは誰が主人公なんですか?
町田:喋れない女の子、渚ちゃんです。
皆田:彼女は与えられたものを食べるだけで、美味しかったら美味しいというだけですか。
町田:いや、彼女さんが登場してそれに嫉妬する。
日高:それで変な顔をしたのを美味しくないと勘違いされて、そうじゃない「美味しかった」と伝えたくて声が出るんです。それがクライマックス。
町田:喋り出したらすごく喋りますね。
日高:私はシェフ見習いの青年には引っ張られなくて、渚ちゃんが主人公として見れましたけどね。
皆田:すごく大雑把で乱暴ですが、例えばアレルギーの子が反乱起こして陣地作って、そして何かアレルギーを克服するものを発明して世界中に大ヒットするとか。
町田:この作品は主人公が受け身だと?
皆田:そうなんですよ。だから青年が主人公かと思っちゃう。一生懸命に作って彼女に食べさせる。
盛多:「シュークリーム」か「ホワイト」かってことですね。
皆田:両方とも今を捉えてはいますよね。
盛多:単純に「ホワイト」より「シュークリーム」の雰囲気が好きってことなんですが。
日高:私もです。
盛多:これは挙手したら2対2になりますね。松尾さん(午前審査のみ参加)はどれを推してましたっけ。
皆田:「ホワイト」ですね。
盛多:「シュークリーム」は入れてない。
日高:でも点数は4対4ですよ。
町田:確かに「ホワイト」は古い感じがしますが、内容は「ハラスメント防止」のこととか入っていて決して古くないんですよね。
盛多:僕は、☆と★でセリフの調子が変わるというのがなじめない。それが1回ならいいけど何回も続いて飽きちゃうし、芝居が続くのか? 舞台ならいいかな、映像かなあ?
日高:じいちゃん、いろんな人に入り込みますからね。
盛多:外した作品から復活させたいものありますか?
町田:「別府」復活させたいです。私は「ホワイト」より「別府」の方が好きなので。
盛多:なんかわかります。疑問だったのはガラガラを回すじゃないですか、どうやって二人…。
町田:あれは商店街のおじさんが二人の手を掴んで合わせて回したんでしょう。
盛多:おじさんが回したのか。
日高:そこのシーン面白い。結構おじさん重要な役なんですよね。
盛多:さあ、どうやって決めていくか…。僕のなかでは「ホワイト」と「別府」は似ている。「ホワイト」と「ファーストプレゼント」は似てませんよね。
町田:「ファーストプレゼント」はヒューマン。
盛多:「シュークリーム」がこのなかでは異質な感じがするというのが皆さんの意見ですね。
皆田:ストーリーがなあ…。外で喋れなくなるって、なんと言うんでしたっけ。
日高:「場面緘黙症」。作品の中ではこの言葉は出てきません。でもこの頃話題になったりメディアに取り上げられたりしています。
盛多:この作品の中では長崎に引っ越したことがきっかけとなってますね。
皆田:兆候はなかったのかなあ。
町田:それだけでなくいろいろな原因があるのかもしれない。
盛多:確認します。「パーフェクトワールド」を大賞でいいですか。
町田:いいと思います。
日高:私だけが票を入れなかったんですが。時代性は一番あると思うし、賛成です。
盛多:では「パーフェクトワールドへようこそ」を大賞、「ファーストプレゼント」を優秀賞第1位、「株式会社ホワイト」を優秀賞第2位とします。問題ありますかね。
日高:いや、「魔法のシュークリーム」を入れたいです。
盛多:特別に優秀賞を3つに?
日高:過去にはありましたよね。賞の数を増やしたくないとのことでしたが…。
盛多:確かに過去にはありました。
町田:そうですねえ…。
盛多:僕も「シュークリーム」落とせないなあ。優秀賞を3つにするか。皆田さん、いいですか?
皆田:はい。
盛多:では、「魔法のシュークリーム」を優秀賞第3位とします。今回は大賞1作品、優秀賞3作品です。