第17回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品
一次審査員の寸評(応募順)
はじめてのおかえり
この手の話は好きなのですが、読み手(聴き手)が、すぐに理解できるか少し不安。私は2回読んでとても好きになりました。
ちゃぽん、と休んだ昼下がり
温泉地を舞台にした、傷心の主人公と仕事に悩んでいる新人バスガイド嬢。そして、人生経験豊かなベテラン運転手の3人の絡みが絶妙に構成されている。状況描写の言葉の使い方も巧みで、効果的なSEの配置もストーリーの流れを良くしている。運転手から、のんびりすることの大切さを諭され、2人は足湯で元気を取り戻すが、主人公の「バス自体がなんか温泉みたいでした」の言葉こそこの作品のテーマであろう。
サンタクロースは二度ベルを鳴らす
最初と最後にだけ登場するタツヤのモノローグが、やや説明調だけれどとにかく優しい。誤字があったのは残念でしたが、全体のストーリーが良く、今年のクリスマスは、ベルが二度鳴らないかな?と、思い出してしまいそうです。
ドライビング・アッシー
アッシーという言葉だけで話を広げられたことが良かった。会話のテンポもよく、話が入って来た
家族と妖怪
主人公によると、キジムナーはガジュマルの木に宿る妖怪だ。存在の有無を考えるより先に、その存在が成立している世界線で、自然な家族の物語になっている。
Perfect Worldへようこそ
バーチャル空間で出会った男女二人の物語。そこは思い通りの人生を送ることが可能、ということでまるでドラマのような!物語がイキイキと展開します。バーチャルの中で楽しい時間を過ごしていると突然急展開。現実世界に戻った時、バーチャルでは味わえない現実世界での体験をしたかったと後悔する女の子。男性も現実逃避からバーチャルのように思い通りにならない現実を生きてみようと進み出す物語は短い時間の中では多少無理があると思いながらも発想は面白いし時間を延長したドラマで描くとメッセージ性のあるドラマになると思いました。
モグらはみんな生きている
出世と無縁の、陽のささない部署の3人壁際族が、会社へ存在をアピールするため全国穴掘り大会へいどむ。男と女に老人、3人の個性を掘り返し、さらに道具や20回を超える大会の歴史などを掘り返すと、穴掘りをめぐる人間模様と文明を絡めたコミカルで深い作品に化けるかも。
卒業旅行
何故か、心に刺さる作品だ。人を好きになる!貶める!壮大な三角関係というか、ラストに唖然とする。どちらの立場も、人を一途に愛した結果なのだが、複雑な読後感があった。愛する者を守るための嘘。それを良しとして受け入れる女性。このストーリーは、リアルタイムの進行ではなく、飛行機という限られた密室の中での、回想、という展開でこそ成り立つ気がした。
爆弾とラーメンは同じお皿に盛りつけるな
爆弾と、SEの爆発音の使い方がうまい!いきなり面白く始まる。占い師から『博多に行け』とか、地元の博多弁とか、地元の人間が楽しめる作品。
楽屋にて
華やかな舞台の裏側では、きっとこの物語のように、多くの人間の心の葛藤が繰り広げられているのだろう。新曲よりもファンの気持ちに寄り添うことを選んだ主人公に好感が持てた。
ハートの名探偵
ストーリー、構成とも優れた完成度の高い作品。発想、着眼点が斬新で医療従事者の作品と思われるが内容は全体的に重たくなく、会話のテンポも良く温もりを感じる作品。
株式会社ホワイト
愛子の体に愛子と鬼平の2つの魂が入ることを「相乗り」という言葉で表現していることが新鮮だった。鬼平(博多弁)のキャラがモーレツに際立っていて楽しい。テンポもよく単純に面白く読めただけに、鬼平が去っていくラストがどうも消化不良。
さしすせそ、の前から
長らく会っていなかった母親に会うために帰省する男。余命幾ばくも無い母親の愚痴にぶっきらぼうな言葉をぶつける息子との会話は、深刻な内容にもかかわらず軽妙でテンポが良い。取り返せない月日への痛切な後悔と長年の空白を埋めようとあがく不器用な男の愛情が滲み出る作品。
ファーストプレゼント
作品全体に流れるホカホカした雰囲気がよかった。養子縁組コーディネイターという名前の仕事があるということを、私は初めて知ったが、この仕事によって一人でも多くの赤ちゃんと妊婦が、救われて幸せになってほしいと願う。恵とその息子の奏の会話から、血がつながらなくても家族になれるということが伝わって来たし、恵が、本当の母親と離れて生きていく赤ちゃんに手づくりの肌着をプレゼントするというところが印象的だった。
氷砂糖ひとつ
タイトルが素敵。登場人物もストーリーもシンプルながら、会話のテンポや展開が上手でどんどん引き込まれていきました。東京で働いていた過去の主人公と東京から逃げ出して佐賀で発掘アルルバイトをしている今の主人公の対比が良いですね。そして最後に口の中で溶けていく氷砂糖がいい味をだしています。
ラムネの後味
主人公の高校生2人の爽やかな恋物語のはじまり。ビー玉を介したセリフ、「取れそうで取れない」。「手に入れると別の面白さがある」。の中に、恋愛物語へと進んでいく予感を感じさせます。ラムネのビー玉の音を効果的に入れるとラジオドラマとして爽やかな後味を感じられそうです
開聞岳の彼方に
緊急着陸で一時は死を覚悟した主人公。戦闘機で海に散った特攻隊員を対比させ、まだ見ぬ愛児や愛する人からの贈り物を絡ませて戦争の悲惨さ、反戦を描いたストーリー展開に涙が出てきた。情景も良く伝わる良い作品でした。
マリーの鏡
既読感のあるストーリーだが、オーディオドラマでは、めずかしいかも。展開も、こうなりそうかなという線を沿っていて、ある意味安心して読める。セリフもいいし、ゲスはゲスらしく、父ちゃんは父ちゃんぽくて、人物もいいし、読後感もいい。あれ?この作品、悪いところないじゃないか。個人的には、マリーが父のこと「父ちゃん」と呼ぶのがとても好き。
失恋の苦しみから抜け出す方法
読み終わった後、余韻にひたれた作品。稔の失恋について、友人たちが声をそろえて「大丈夫、時間が解決してくれるから」というセリフは稔の心情と対比していて効果的で面白い。稔と幼馴染の洋子が元カノを殺す方法を話し合っているところもいろいろな場面が想像できる。ラジオドラマだからできるシナリオに仕上がっている。
水みくじ結んだら
フリーライターの女性が、過去の殺人事件の家族で引きこもりの男性を取材していく話。「がめ煮」というセリフが出てきますが九州人にはわかりますが他の地方の人はどんな食べ物なのか分かりにくいかなと思いました。意外な展開に驚きましたが、改心していく心の動きをもう少し丁寧にお書きになられると深みが出るのではないかと思いました。水みくじは映像では綺麗ですが、ラジオでの表現は水の音だけになるのでどれだけ表現できるか、と思いました。なぜ普通のおみくじではなく水みくじなのかも併せて表現されるとさらに良くなると思いました。
臆病者に刃物
設定が面白いと思った。1階の理髪店が舞台だが、2階が貸金業者。以前、客の髭剃り中に熊本地震が起こり、客の顎を切ってしまった主人公。それがトラウマとなり、それ以来客の髭剃りができず、従業員に髭剃りだけは頼んでいる。事件当日、刃物を持って飛び込んでくる犯人もまた板前だが料亭で先輩の板前のパワハラを受けて、料亭を辞めたという背景を抱えている。全体を通して、セリフが良い。言葉のキャッチボールがうまい。ただ、熊本地震の大きな余震及び本審は、夜起こっているので、その辺の修正は必要。
灯火の先に、家がある。
うまい。自然なセリフのやりとりなのだが、妙にドラマっぽくもあり、面白く読めた。ラストも絶妙。ハデなストーリーではないが、会話の妙か、先の展開が気になって読み進めてしまう。こういうのは量を書いてもうまくなるもんでもなさそうで、その人のセンスだと思っている。こういう人って、どんなテーマを与えられてもそつなく書いてしまうんだろうな。全く羨ましい。十分に書きなれた方の様でもあるが、(終わり)と書く辺りに初心者っぽさもあり、作者がどんな方か、とても興味あります。
海峡の港で
警察に追われる男と家族を捨てた母が再会する熱い人情ドラマ。レトロな港町の旅館という舞台に昭和なキャラクターがハマって、某サスペンス劇場が脳裏に浮かび楽しかった。
ヒロトくんは失敗できない
失恋の瀬戸際にいる息子とシングルマザーの母。女ごころを武器に息子の恋愛成就を後押したいところだが、世間の荒波を超えてきた母のことばはそっけなくぶっきらぼう。軽快な世間話からたちのぼる身近すぎるやさしいひとびとの温もり。
親方と息子見習い
弟子見習いと思っていたら、息子見習いだった。66歳漁師の主人公の元に来たのは歳が8歳しか変わらない弟子見習いで、思ったよりまじめな姿にほっとしたり、何気ないセリフが耳に良い。そこから、一人娘の32歳違いの恋人と知って、主人公は荒海に出て行く。追いかける息子見習い。釣り上げるのは魚か、信頼か。気持ちの良い作品。
AIな妻
思春期の娘とちょっと頼んない感じのパパがいい。とはいえ、会社ではお偉いさんのひとりなんだろうな。先の展開は読めてしまうが、ドラマとしては映えそう。
安らかに眠れない
会話のテンポがよく、ひきこまれました
お局予備軍とZ世代
初めはだたのチャラい後輩だった登場人物のキャラの印象がだんだん変わっていくのが良かった。
朝子の秘密
モノローグが説明になっていなく、効果的に使われていました。
かおり
「この世でもっとも嫌いなにおいが鼻に突き刺さる」というセリフには、ぐっときました。このセリフがきちんと伏線になっていて、マユの過去や心情を内包しつつ、その後の行動・展開を引っ張っていってくれました。後半はマユと佳緒里の二人の会話が中心ですが、二人のキャラクターが似すぎているのと、説明セリフが多いのが気になりました。
私が犬になるまで
この作者もそうだと思うのですが、山月記が好きです。パロディまでとはいかないまでも、もう少し倣ってもおもしろかったかも。物悲しいラストも作者は考えたと思うのですが、この終わらせ方の方がいいかな。私も犬好きです。ちなみにネコも。
呼び継
セリフに説得力があり、切なさを感じました
いつも粗相をするリリィは
息苦しい気持ちでバイトリーダーを続けていた主人公が、押し付けられた犬に対し、愛情を持ち始め行動していくことで自身も変わっていく話。最後の近況報告の手紙は、ナレーション回避の良いアイデア。
その森をいっしょに歩きたい
物語の出だしを読んで、あまり期待できないかな?という気がしたのだが、読み進むにつれて二人の人物がよく描かれていて、面白かった。酒井が牧村の妻にスマホをかけて縄文杉の姿を伝えるシーンは、胸がジンとした。辺りの森から風や水の音が聞こえてくるようだった。
日本一の福男の妻
作者の名前が原稿の左上に印字されているようです。ト書きに回想シーンに入るとありますが、映像で表現する事は可能ですが、これはラジオドラマなので音声のみの表現になるため、セリフまたはSEで入れるようにされると良いと思います。内容は、「福」を求めてそれを手に入れるも「結婚の幸福」を失うかもという物語。内容はあり得なさそうな生活感を醸し出していますが、それでいて、面白い展開だと思いました。
焼うどんの日
母親不在の日には、必ず父親が作るという焼うどん。しかし、主人公はこの焼うどんが嫌いだ。不味いから。この日も、朝から作っているが、実は母親の葬式の日である。明るい会話に、いいのかと思ったが、夜、父親が1人で母親が残していた花火を、一人でしている姿に、父親の不器用な愛を感じた主人公。というエピソードの挿入に、少しホッとした。焼うどんに特化した面白い作品だ。どんな音で、味を表すのか、楽しみである。
魔法使いのシュークリーム
長崎へ引っ越してから家の外ではうまく話せなくなってしまった小学生の女の子のモノローグで進行する可愛らしいストーリー。身近な話題にほんのりとファンタジーのエッセンスをふりかけたら洒落た雰囲気のある作品となった。
河童の娘
結婚式の披露パーティー(ケーキバイトならぬきゅうりバイト)と山笠のタブー(きゅうり断ち)という2つの材料を上手に組み立てたストーリー。花子と親友のみのりとの会話では、結婚生活の中で文化の違いや異なる考え方を受け入れようとするエピソードが盛り込まれていてほほえましい。ラストのオチは残念ながら予想できた。
一等、別府温泉一泊二日
不運続きの男女が、たまたま通りかかった商店街で、無理やり福引をひかされる。すると一等賞が当たる。お互いに特に興味もないので、譲り合うが、結局行くことになる。しかし、その一泊二日の泊まる宿は、たまたま改装中であった。会話のテンポが良い。
恋の至極は
二人だけの会話で、居酒屋というワンシーンなのだが、最後まで興味深く読んだ。「恋の至極は忍ぶ恋」と信じてきた秀明が、最後は、みっともなくても愛を伝えて愛し続けることだと気づき、若菜を追いかけていくところが印象的だった。
風待ちの港
審査した中で、一番ほのぼのとした内容であった。登場人物のキャラも個性がそれぞれしっかりしている。通勤電車の中から、元恋人夫婦の畑仕事をしている様子に癒される主人公。そして、職場の後輩。電車の様々なノイズ、ラストの風の音。主人公の心の変化や、妻の悲しみ。どちらも、一番愛する人を失った孤独感。それが、淡々とラストの大声で叫ぶシーンに、向かっている。
お帰りなさい
時代が移り変わり、環境が変化していっても、家族への愛情は言葉で伝えなくては、伝わらないと、感じさせてくれた。新幹線の車内を小走りにかけていくこどもの足音が聞こえる作品だった。
ゆきだるま届けて
導入部分の設定に疑問を感じたが、その不自然さを上回る魅力ある作品。後半部分の謎解きも納得でき、後味も心地よい。オーディオドラマとして聴いてみたいと思った。
同じような男
テレビ番組「星新一ショートショート」や「世にも奇妙な物語」を思わせるストーリー展開は単純に面白かった。寓話的な要素はあまり感じられないが、発想、アイデアには感心した。
みずあかりに想いを馳せて
母が5回目の結婚にしてめぐり会えた最愛の人が、娘の大好きであった亡き父とそっくりであったことから、やっとお互い解り合え、お互い前に進むことが出来た娘と母の心情。そして、そのきっかけとなる幼い頃に亡き父と母と遊んだ和ろうそくの夜まつり「みずあかり」の情景が良く伝わる作品。後でネットで調べたら、「みずあかり」の意味には”未来は自らの小さな一灯により始まる”と記されていました。
ハート・パート・バード
高校生の姉と学校に行けなくなった中学生の弟、理解ある母と、人物設定としては型にはまっているが、等身大の女子高生の内面を丁寧に描き、その気づきと成長を軽やかに明るく仕上げたところに好感を持った。
故郷(ふるさと)
ダムの底に眠る故郷。思い出の地を追われた少年10歳の記憶は歳を重ねるたびに輝きをます。奇しくも娘が、故郷を失ったときの父と同じ年をむかえている。父と娘の滋味豊かな会話が、二人の古里となる原風景を結実していく。
以上、47編