第17回南のシナリオ大賞 二次審査通過作品
二次審査員の寸評(応募順)
はじめてのおかえり
認知症の父(夫)が客として居酒屋に帰ってくるという発想は新鮮。ト書きがなくても臨場感が伝わる台詞回しは秀逸。しかし、エンド部分まで物語を読んで(聞いて)いただけでは、父(夫)が認知症だったという説明部分が少し希薄なので、あらすじを読んでおかないとキモとなる部分がわからない。惜しい。
Perfect Worldへようこそ
これからこういうバーチャル世界での疑似恋愛が増えていくのだろうか? 「さもありなん」という思いと、それが希望のある方向へ向かって終わったのでこの作品を残した。だが残念ながら深みが足りない。言葉だけの疑似恋愛では、痛みや切なさといった生身の恋愛の切実さを伴わないから、それを反映して作品自体が淡泊になったのかもしれない。
株式会社ホワイト
人物が入れ替わりながらの会話が面白く、上手な人に演じてもらってこういうドラマを作ったら楽しいだろうな、と単純に思いました。しかし現実社会では単純に解決しないテーマを取り扱うため、配慮や覚悟をしてでも作るか、というと、そこまでの力は感じませんでした。新入社員の変化が、『ブラック』コメディなのか、人情ものなのか、なんとも腑に落ちないラストに思えました。
ファーストプレゼント
うまい。作者は書きなれた方だと思います。博多の伝説をモチーフに見事、絶品のドラマを構成してくれました。新しさはないが胸を打ちます。
氷砂糖ひとつ
読者へのメッセージがしっかり出ている作品だと感じました。いまこの場にいるのが香奈と武士のふたりだけで、流れも分かりやすかったです。断った氷砂糖を受けとることで、香奈の気持ちの変化が表現されていたのも素敵でした。
マリーの鏡
読者の自己肯定感を高めてくれる作品だと感じました。社会問題(LGBTQ+)をとりいれながら、とても読みやすい作品に仕上げてられています。最後にマリーと父の気持ちが通じ合ったようで、すっきりとした読後感を得られました。
失恋の苦しみから抜け出す方法
失恋の痛みを消し去るには、振った相手をアタマの中で殺せばいい! この設定は面白いし、殺し方をいろいろ考えるのも(実際に殺すわけではないので)逆に楽しくすら感じる。惜しむらくは、前半部分が長いのと、殺し方をレクチャーしてくれる洋子のキャラが、もう少し魅力的だったら…とせっかくなら関西弁ではなく博多弁だったらなぁ(妄想^^)物語がセリフでしっかりと展開していくので、ラジオドラマとして聞いてみたい。
親方と息子見習い
荒れた海で漁をする中で、親方と息子見習いの心が通っていくシーンに魅力を感じました。『息子見習い』がかつて息子を亡くし、息子の服装や言葉遣いで生きているという設定は魅力的だけれど、物語中の説明だけではわかりにくかった。漁師になることや結婚は、彼の望みなのか、亡き息子としてなのか? 迷いや葛藤はあるのかなど、彼の内面をもっと見たかったように思います。(息子として生きて結婚しようとしている、というとらえ方をすると、急に怖い話に思えました)
呼び継
呼び継という唐津焼の専門語を紹介しながら、巧みにドラマ化しています。夫婦の心の通い合いが、甘えなく切実に描かれています。大人向きの作品です。
魔法使いのシュークリーム
主人公の少女の空想がかわいらしく、心の揺れ動きも繊細に描かれていて、やさしい気持ちになれるお話でした。(長崎弁がところどころ関西風なことに目をつぶって読んでも)物語の舞台が長崎であることが、あまり効果的になっていないように思います。主人公がなぜ声を発せなくなってしまったのか。自分だけ言葉の違う地域に引っ越してきたことの緊張感、土地柄の印象などが、彼女にどう影響しているのかも見たいと思いました。
宝石のような可愛らしい作品。幼女のリアリティが抜群。ドラマ制作時には役者の選定が難しく、演技力が要求されるが、うまく作ればドラマは異色の作品となるでしょう。
一等、別府温泉一泊二日
不運男女のちょっと素敵な物語。セリフ一つ一つはなかなか面白いけれど、真ん中の喫茶店での不運自慢が少し長いかなぁ…オチにもう一つどんでんがあったら腑に落ちたかも…とも思います。
ゆきだるま届けて
話に動きがあって面白い。「雪ダルマ」と品名がある品物を宅配が受け付けるか? かき氷を雪だるまにできるのか? などの疑問は大いに残るが、セリフも生き生きとして場面展開も鮮やかで飽きさせない作品だと思う。
みずあかりに想いを馳せて
娘と母のやりとりのテンポがよかったです。お互いの気持ちを受けとめていく過程も、無理なく読めました。ただ、読者に訴えるものをもっと強く出してもよかったのかなとは感じました。
ハート・パート・バード
「不登校」「フリースクール」ずいぶん使われた素材で、最後も予定調和で終わっているが、運びがうまいのでどんどん読ませる作品。夢が単なる奇抜な話に終わらず、主人公の弟に対する気持ちを丁寧に表しているため、ストーリーの中で活きていると思う。不登校の弟が明るく穏やかすぎるが、今の不登校生とはそんなものだろうか?
以上、14編