日本放送作家協会 九州支部
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日本放送作家協会は、放送メディア文化の普及発展と国際的交流をはかり、我が国の文化向上に寄与することを目的とした一般社団法人です。九州支部には九州・沖縄で活躍している脚本家・構成作家40名の会員が在籍しています。
私の作品は、ゴーストライターが「書き」ました
もう何年も前のことです。
思い出しながら書きます。
彼が書いたのは1回だけです。
何年前かはっきりしませんが、日付は8月31日です。
もしかしたら、9月1日になっていたかもしれません。
「夏休みの友」は自分で書きました。
工作も自分で完成させました。
私、絵が下手なのです。本当に下手なのです。
だから絵の宿題は、書きたくなかったのです。
絵を書くことが嫌いなわけではないのですが、
どんなに一生懸命書いても、なんか笑えてしまう絵になってしまうのです。
実際、笑えます。
40半ばを過ぎた現在でも、“イヌ”として書いたものが、“トラ”にも“ウシ”にも“ブタ”にも見えます。
何らかの4本足の動物としか判別できません。
当時も担任教師から、真面目に書けと度々怒られていましたが、こっちは大真面目だけにどうしようもないのです。
5年生だった思います。
その夏は、書かないことにしました。
「書いた絵ば丸めて、ランドセルのこの辺に挟んどったら、風の吹いてきて、飛ばされて、海に落ちてしもうて……」
担任教師に対するリハーサルを繰り返し、夏休み最後の1日を過ごしておりました。
ですから、私が、彼に強要したわけではありません。
グラサンのあの人のように、書いてくれなければ自殺するとか絶対に言っていません。
彼は、クソが付くほどまじめな地方公務員です。
息子がわざと宿題をせずに新学期を迎えることに耐えられなかったのでしょう。
彼が、自分の意思で書きました。
彼は、自宅から見える造船所の大型クレーンを書きました。
それまでも、私は夏休みの宿題に、毎年それを書いていました。
ちなみに、私の4つ上の兄も6年間そのクレーンを書きました。
彼は、出来上がった絵を私に見せました。
私と兄が書いていたように、画用紙には、海に浮かぶ島の中央に、赤と白の縞々に塗られた大型クレーンがありました。
衝撃でした。
下手なのです。私とよく似た下手さ加減なのです。
子供ながら、やっぱり親子だと思いました。
おそらく、彼に“イヌ”を書かせたら、横長の楕円形に4本のまっすぐな線を引くはずです。
最初は、小学生のレベルに合わせて下手に書いたのかと思いましたが、なんだか、彼、自分の絵の完成度に自信あり気でした。
断ることもできず、ありがとうと言って、私は、その絵を受け取りました。
悩みました。
海に落ちてしまう“絵”は存在しないはずでしたが、出来てしまいました。
私が、どれだけ一生懸命書いてもそのレベルであったように、彼も一生懸命書いたはずなのです。
本当に悩みました。こんなことなら、自分で書けばよかったと本当に後悔しました。
自分の絵が笑われるのは、まだ耐えられます。
ですが、実の父の絵が、級友の爆笑ネタになるのには耐えられません。
今でも、悪いとは思っています。
私は、9月1日の朝、誰かに拾われないことを祈りながら、彼の力作を、漁船の並ぶ海に流しました。
純朴さを装ったイヤな子供でした。
リハーサル通りに真摯に訴えてみましたら、担任教師も本当に書いたと認定し、絵の宿題は勘弁してもらいました。
これで終わったはすでしたが、彼の方は、絵の評価をえらく気にして、私にしつこく「先生、なんて言うとった?」と聞いてきました。
あの絵は、今頃、定置網にかかっているなど言えるはずもなく、「よう書けとるって言うとった」と親孝行として、ウソをつきました。
ウソにウソを重ね続けたグラサンのあの人の気持ちが何となくわかります。
ただ、やはりウソは良くありません。
次の休日、まじめな地方公務員の彼は、いつの間に買ってきたのかスケッチブックを広げて、さながら来年の夏を目指す高校球児のように、一心にクレーンを書いていました。
見たらやっぱり下手でした。
私の責任です。
「来年は、おいが、自分で書くけん、もうよかよ」はっきり言いました。
本当に悪いことしたと思っていたら、母は、彼の絵を見て、遠慮なく笑っていました。
私たち親子の絵に「描く」では勿体無いです。
兄もやっぱり下手です。
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