豊田和義|シナリオ学習のおけるフレームワーク思考

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シナリオ学習のおけるフレームワーク思考

豊田和義
2014年03月05日

■フレームワークとは
フレームワークとは日本語に直訳すれば、「枠組み」となる。
ロジカルシンキングや発想法などをビジネス・フレームワークとして体系化し経営戦略などに活用されている。
ソフトウェア開発においては、汎用的に使用できる機能プログラムの集合体のこと。
業務内容に依存しないため、様々なシステムに流用することができる。
フレームワークの特徴は汎用性と抽象性にある。

この思考を取り入れることで、効率的なシナリオ技術の習得方法を考えてみたい。

■汎用的なドラマ要素の抽出
ドラマのジャンルや設定が多岐にわたる現在、シナリオにおいてのフレームワークとは何かと考えた場合、設定やジャンルにとらわれないドラマの要素や手法がそれにあたるのではないだろうか。

例えば、ドラマの重要な要素の一つとして「枷」がある。
「枷」はシリアス、コメディ、刑事もの、医療もの、恋愛ものとジャンルや設定に縛られることなく使用できる汎用的な手法として認知されている。
「枷」は汎用性、抽象性においてフレームワークの条件を満たしている。
ドラマには枷以外にも、数多くの汎用的な手法が使用されている。
その手法を学習する方法のひとつは、具体的な設定を排除し、抽象的なロジックとして抽出し、体系化することだ。

数多くのドラマの「共通点」に着目して汎用的な手法を探してみたい。

●対立
ほぼ全てのドラマで使用される汎用性の高い手法。

昔はテレビドラマを見ていて、「どうしてこの人たちはこんなにケンカばかりしているのだろう」と不思議に思っていた。
対立といってもケンカのような直接的なものばかりではない。
登場人物たちはそれぞれの視点や立場で動いているため、当然、考え方が違う。

抽象化することで汎用的になり、具体的な設定を入れ替えることができる。
「刑事」対「犯人」でも「キャリア刑事」対「ノンキャリ刑事」でも設定は自由自在だ。
そのパターンは人物に限るものではない。
「個人」対「個人」、「組織」対「組織」、「思想」対「思想」、「個人」対「組織」など。
最終的には「テーマ」対「テーマ」という構図にまで発展するため、対立関係の構築は重要なドラマ要素である。

◆対立
1、何かと何かを対立させる。

●比較
ほとんどのドラマで使用されている汎用性の高い手法。

例えば、ドラマ上で恋愛感情を表現したい場合、A君にB子を好きと言わせても、どれぐらい好きなのかは分かりづらい。
もう一人増やして、A君がC子をフッて、B子と結婚すれば、少なくとも、A君はC子よりも、B子の方が好きということは明確になる。
これはドラマによく見られる三角関係だ。
何かと何か、または複数のものを比較して意図を明確にする。

この手法はもっと細かいところでも活用できる。
あるドラマで以下のような幼い女の子を男装させる場面があった。

1、靴屋で子供用の靴を選んでいる女性。
2、ピンクの靴を取ろうとして、「いや、待てよ」と黒い靴を手に取る女性。
3、キャップ、ズボン、黒い靴の女の子が登場する。

「ピンクの靴 → 黒い靴」の一つの動作を入れることで男装させていることは明確になる。

◆比較
1、何かと何かを比較する。
2、比較したときに差をつける。

●孤立
主人公について考えてみたい。
職業や性格や能力などが多種多様な彼らの共通点を見つけることは容易ではない。
ここでは主人公と脇役の違いから始めてみたい。
視聴者は事前に何の情報も持っていないテレビドラマを途中から観たとしても、主人公と脇役を識別することができる。
たとえ、ワンシーンであったとしても、主人公と認識できる場合もある。
以前、「ドクターX」というドラマが放送されていたが、大学病院の院長が大名行列のように医師達を引き連れて病室回診するシーンが毎回のように登場する。
院長回診の団体と主人公のフリーランスの女医が廊下ですれ違うのだが、主人公は脇によけることもなく、行列の真ん中を突っ切って歩いて行く。
団体の医師達は主人公のことを快く思わない。
このシーンに脇役と主人公の違いが現れている。
一度、フレームワークの観点に従い、抽象化する。
病院や医者という設定を除去していく。
その結果、残るものは「秩序を保とうとするもの」と「秩序に縛られないもの」「ドクターX」に限らず、ドラマの中で主人公が孤立したり、単独行動を取ることは多い。
何も目立ちたくて、孤立したり、単独行動をしているわけではない。
主人公がもつ特性ゆえに、そのようになってしまうのではないだろうか。

◆孤立
1、主人公に他の登場人物とは異なる価値観を持たせる。
2、主人公を孤立させたり、単独行動させる。

●主人公特性
主人公の特性の正体について考えてみたい。

三人のタイプの違う主人公。
「家政婦のミタ」の家政婦、三田灯。
「踊る大捜査線」の湾岸署の刑事、青島俊作。
「ガリレオ」の大学教授、湯川学。

一見するとバラバラの三人だが、「共通点」を探してみたい。
「家政婦のミタ」の主人公は、阿須田家の家政婦として命令されたことはなんでも、「承知しました」と実行してしまう人物だ。
その実行力は常識の域を超えていて、作中では何度も警察沙汰にまでなっている。
ここでまず注目したいのは阿須田家の人々である。
阿須田家の人々は本来、「ドクターX」の院長に従っている医師たちと同じく、「秩序を保とうとするもの」の側だと考えられる。
自分では社会秩序、社会常識を破れない、だから、三田に命令するのだろう。

秩序や常識は日常を円滑に進めるためには、なくてはならないもので、我々が生活している現実の世界で、もし、誰もがドラマの主人公のように振る舞っては、社会は成り立たなくなる。

三田が命令を実行した結果、問題が連続し、家族は一度、崩壊してしまう。
しかし、彼女は単に常識のない人間というわけではない。
社会の常識では曲げられない、抑えられない信念を持っているだけなのだ。
主人公の魅力とはその人物が持っている信念の強さではないだろうか。

ここで「ガリレオ」の湯川先生の信念に着目してみたい。
例えば、湯川先生がみなさんの会社の同僚で隣の席に座っていると考えてみよう。
「すべての事象には必ず理由がある」という彼の強すぎる信念は怪事件を呼び寄せてしまうかもしれない。
そして、彼は会社の床や壁に一心不乱に数式を書きまくることだろう。
彼が主人公である条件に、「大学教授」や「科学者」という設定は、第一条件にはならない。
「すべての事象には必ず理由がある」という強い信念こそが彼を主人公にしているのだ。
三田の話に戻るが、彼女も同様で家政婦だから「承知しました」と言うのではない。
信念を突き通すから「承知しました」と言うのだ。
もちろん、信念が曲がってしまう命令には「お暇を頂きます」と答えている。
たとえ、職を失ったとしても、曲げられない信念がそこにはあるからだ。
「踊る大捜査線」の青島刑事も強い信念の持ち主だ。
彼の信念は「正しいことがしたい」である。
だが、警察の縦割り社会がそれを許さない。
彼は「正しいことができないのなら、警察なんかやめてやる」と警官をやめようとした。
彼もまた、三田と同様、仕事を失うことよりも、信念を貫く事の方が大事なのだろう。

テレビドラマ全般の話をすると、仕事を失うだけならまだマシな方で、自分の命よりも信念を優先する者も少なくない。
私はドラマを観る時、主人公がいつ常識の壁を打ち破るのか楽しみにしている。
これには判別法があって、他の登場人物のリアクションもその一つだ。
「お前、何考えているんだ! 死ぬ気か! 馬鹿野郎!」「そんなもののために、命捨てる気か!」のような類いの台詞を他の登場人物が言ったならば、信念が常識の壁を打ち破って、しまったのは、まず間違いないだろう。

◆主人公特性
1、主人公の信念を第一に考える。
2、主人公の信念を活かすことができる最適な設定を選択する。

●出会い
ドラマの多くが主要人物の出会いによって始まっている。

●別れ
ドラマの多くが主要人物の別れによってラストを迎えている。

●非日常
出会い 〜 別れまでの間が非日常的な展開になることが多い。

◆「出会い、別れ、非日常」
1.出会い→非日常→別れ

●交差
既に述べたようにドラマとは「誰か」と「誰か」の出会い〜別れまでを描くものと捉えた場合、二人をどのように交差させればよいのか。
一つのパターンとして「流れ星」をあげてみたい。

このドラマは「妹の命を救うため、金で肝臓を買う男と、兄の束縛から逃げるため、金で肝臓を売る女の物語」だ。

私は最初にこのドラマを見たときに、「肝臓移植の物語」だと思っていた。
しかし、数年後に再放送で見た時、「男と女の恋愛物語」だと気がついた。
「妹の肝臓移植」は二人の交差ポイントだった。

二人の表面的な目的は「肝臓の違法な売買」で共通しているが、その背景はそれぞれの事情で異なっている。

◆交差
1.主要人物二人に共通の目的を設定する。
2.主要人物二人にそれぞれ異なる事情を設定する。

●枷
冒頭でも登場した枷であるが、どのようにかければよいのだろうか。
枷の種類はとても多く、ある参考書には抽象化された状態で13種類に分類されていた。
もっと具体的に体系化すれば、覚えきれないぐらいの数になるだろう。
主人公は一般的な社会常識では曲げることのできない信念を持っている。
その信念に向けて枷をかけるべきではないか。

もう一度、非常に分かりやすい信念を持っている湯川先生に登場してもらおう。
彼の信念は「すべての事象には必ず理由がある」である。
そんな彼に相方の内海刑事は難解な「怪事件」を持って来る。
湯川先生は「さっぱり分からない」と高笑いをあげながらも、事件に立ち向かっていく。

次に三田、彼女の信念は湯川先生よりも複雑なのだが、過去に家族を失っており、消えることのない罪悪感から「死ぬまで一生笑わない」と決めている。
ドラマの後半、阿須田家の人々は懸命に信念を貫こうとしている三田に対して、笑うことを含めた人間的な感情を取り戻させようと奮闘する。
設定的な観点でみれば、三田を救おうとしているのだが、信念を中心に考えた場合、信念を貫こうとしているのを邪魔していることになる。
枷は主人公の信念を脅かすものでなければならない。

◆枷
1.主人公の信念を確認する。
2.主人公の信念がねじ曲がってしまうような、邪魔するような枷をかける。

●葛藤
ドラマとは人間の葛藤を描くことだとよく言われるが、簡単に言えば、選択に迷う心の状態のことだ。
ドラマの場合、二者択一の場合が多いだろう。
では、何と何で迷うのだろうか。
抽象的な観点で考えてみたい。

『踊る大捜査線』テレビシリーズ終盤で観られる主人公の葛藤を取り上げてみたい。
青島刑事の先輩である和久刑事は刑事殺しの犯人を長年追っていたのだが、間もなく定年を迎えてしまうという、時間的な枷を背負っている。
そんな中、青島刑事は闇カジノのオーナーに取引を持ちかけられる。
取引に応じれば、刑事殺しの犯人の所在を教えるというものだ。
ここで青島に二者択一の葛藤が発生する。

選択肢1 取引に応じる
  長所:取引に応じれば、刑事殺しの犯人を逮捕できる。
  短所:青島自身の信念が曲がってしまう。

選択肢2、取引に応じない
  長所:青島自身の信念が保たれる。
  短所:刑事殺しの犯人を取り逃がす。

長所と短所をもつ、均衡のとれた葛藤である。
何と何が葛藤しているのか設定を除去して考えてみたい。
一つは「正しいことがしたい」という信念だ。
もう一つは「仲間を思いやる気持ち」ではないだろうか。

これまでに青島刑事は仲間と協力し、助け合いながら色々な事件を解決してきた。
仲間の存在が彼の「正しいことをしたい」という信念に匹敵する価値観となってしまったのではないだろうか。

葛藤が発生した場合、問題がもうひとつある。
どのようにして葛藤の均衡状態を崩すかということだ。
「踊る大捜査線」では時間的な枷を用いている。
和久刑事の定年があと一週間後に迫る。
それを知った青島刑事のこころは選択肢1に揺れ動く。
だが、最終的には選択肢2の「取引しない」を選択する。
葛藤は枷によってコントロールできる。

◆葛藤
1.葛藤は主人公の「信念」と作中に発生した「新しい価値観」の間で発生する。
2.葛藤は枷によってコントロール可能。

次回のエッセイ執筆者は吾妻康平さんです。

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