日本放送作家協会 九州支部
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日本放送作家協会は、放送メディア文化の普及発展と国際的交流をはかり、我が国の文化向上に寄与することを目的とした一般社団法人です。九州支部には九州・沖縄で活躍している脚本家・構成作家40名の会員が在籍しています。
山脈越え
僕の父の実家は四国の高知は香美市というところにあります。
ここにはやなせたかしさんが幼少期に育ったところでもあり、その縁からか、アンパンミュージアムという施設があったりします。
また日本3大鍾乳洞のひとつ、「龍河洞」があり、その近くのミニ動物園では尾長鳥というその名の通り、とてつもなく尻尾の長い鳥を見ることができます。
詳細はウェブで調べていただければすぐに見ることができますよ。
カーナビで高知県に入った時に出てくるアイコンも尾長鳥なので案外メジャーな存在かもしれません。
高知県は日本3大がっかり名所のひとつ、「はりまや橋」をアピールするよりも、龍河洞や尾長鳥、あるいは四国カルストなどをもっと積極的にアピールした方が絶対にいいと思うのですがどうでしょう?
ああ、はりまや橋と言えば道路標識の至るところに表示されています。
高速道路のインター出口から、100キロ近く離れた室戸岬に至るまで、どこにでも表示されています。こりゃイオンも真っ青です。
でも盆や正月に、一番人が集まるのは高知県にたったひとつしかないイオンだったりするからたまりません。
いっそ、はりまや橋もイオンの中に設置したらいいのではと思うくらいです。
坂本龍馬が泣きそうですが。
子供の頃から今に至るまで、盆や正月には大体帰省しています。
が、帰省と言っても僕が生まれ育ったところではないので、この言葉を使うのが正しいのかどうかわかりませんし、いまいちピンと来ません。
「亡き父母をはじめとして、先祖の眠るお墓を掃除し、お参りするために帰省する」と書くことでようやくしっくりくるような思いです。
高知へは、まず小倉からフェリーに乗って、松山にいき、そこから高速を使うのが基本的なルートです。しかし、昔は高速道路は整備されておらず、父は険しい四国山脈をカーブの多い国道33号で超えていました。
高速を使うにしろ、国道を使うにしろ、松山か高知に抜けるためには、険しさで有名な四国山脈を越えなければならないのです。
僕は整備された高速を使って、山脈をスイスイと通りぬけていきます。
まさに親の苦労子知らず、というところでしょうか?
え? 意味が違う? 気にしない、気にしない、一休み、一休み。
でも楽勝かというそうでもないのです。
国道の急なカーブの連続に代わって、高速には無数の長いトンネルがあるのです。
無機質でひたすら単調な道を走っていると、今は坂を上っているのが下っているのかわからなくなり、続いて急速に現実感が遠のいていきます。
夢の中にいるようなフワフワした心地に引きずり込まれていきます。
視界には左右に伸びるトンネルのオレンジ色のライトと、何本かの車線だけが絶えず飛び込んできて、それが脳ミソを硬直させてしまうのでしょうか? それともこのトンネルが実は人々を天国に誘うための門なのでしょうか?
いくら冷静に脳ミソを動かしても、壊れかけのPCのようにその動きが鈍っていくのです。
というわけで、居眠り運転で死にそうな思いをしたことは何度もありました。
トンネルが怖い僕は、かつて父が通った道を歩むことにしました。
あの険しい国道33号を。
こう書くとなんだかとてもかっこいい響きですね。
連続カーブを曲がるのは去ることながら、後ろから煽ってくる車もまた恐怖。
よくこんな道でスピード出せるなと思います。正直、ガードレール突き破って落ちてし……(自主規制)、なんて何度思ったことでしょう。
さっきまで煽っていた軽トラが上り坂になって急速にスピードが落としていくのを見ると微笑ましい気分にもなりますが。
山を抜け、谷を抜けるうちにいくつかの過疎化した街を目の当たりにします。
父が一休みと称して入ったパチンコ「天国」は看板が朽ち果て、「人玉」になり、家族で食事したレストランはがけ崩れで根本から消えてなくなっていました。
一方でかなり山奥にもコンビニエンスストアや携帯ショップが出店しており、時代の移り変わりを感じます。
このようにして日本全国が画一化されていくのだな、と嫌なことを考えたりもしましたが。
そうこうするうちに景色は開けて、鉄道と併走し、やがて、坂本龍馬もよく泳いでいたという鏡川が見えてきます。
それは四国山脈越えの終りを意味しています。
かつて父が通った道をいざ通り過ぎると、あっけないものだという気持ちと、そこで少しまた大人になったんだなあという思いが浮かんできました。
子供の頃は車に酔ってゲロゲロ吐いていたのも遠い昔です。
単にひとつの国道を走り抜けたという、他愛のない話なんで、ドラマ性のかけらもない話です。
ここで道中、ヒッチハイクをしている女の子を助手席に乗せたら、俄然ドラマチックになるのになあ……。とか時々夢想したりするので、ドラマを書いてみたくなったのであります。
そういう初心を忘れていたなあ、最近。
了
次回は僕の同期で南のシナリオ大賞の覇者でもある本田明子さんにお願いいたします。
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