日本放送作家協会 九州支部
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日本放送作家協会は、放送メディア文化の普及発展と国際的交流をはかり、我が国の文化向上に寄与することを目的とした一般社団法人です。九州支部には九州・沖縄で活躍している脚本家・構成作家40名の会員が在籍しています。
飲酒ジレンマ
先日テレビで、日本人タレントが海外の民家に居候して農作業や食事をともにするという番組を見た。滞在先はたしかエジプトだったと思う。
タレントが絞りたてのラクダのミルクを飲んだ。正直、わたしはとても口にできないと思った。飲み慣れない牛以外の乳は味が心配だし、言っては悪いが乳搾りの様子も「衛生面に気をつかっていらっしゃいますね」とは思えなかったからだ。
ところがその直後、今度はラクダのミルクから作ったお酒を飲む映像が映った。わたしは、うらやましいと思ってしまった。お酒の入ったバケツも、それを汲み取る様子も、やはり清潔ではなかったのに……。そのことを一緒に見ていた友人に話すと、なんと彼女もまったく同じ感想をもったと言う。
はい、わたしも友人もお酒が好きです。そんなことは百も承知でございます。ただここで言いたいのは、わたしたちが味や清潔感以上にアルコールそのものに魅了されていたということだ。この発見には我ながら呆れた。いくらなんでも単純すぎる。
が、一方で納得している自分もいる。たしかにわたしはお酒のウマイ・マズイがほとんど分からない。普段、生ビールや発泡酒を好んで飲むが、苦みを美味と表現することには躊躇がある。なのに、やめられない。
いったいわたしはお酒の、アルコールの何にそんなにも魅力を感じているのだろう。なんてしらじらしく自問してみたが、答えは決まっている。開放感だ。酔わせてくれればそれでいい。
体調にもよるが、わたしの場合、生ビール2杯目ぐらいから目の前がキラキラ光り、頭がフンワリ柔らかくなる。もう、ファンタジーなのである。夢の国での会話ははずみ、楽しさが加速し、「イエーイ」など無意味な発言で調子の良さをアピールする。一生このままでいられたら、どんなに幸せかと本気で思う。世界中がほろ酔いなら、戦争だってなくなるんじゃないかしら。あら、でもそれじゃ仕事にならなくて経済が破綻するから、やっぱりダメなのかしら。
とにかくあの開放感はたまらない。いや、多くの愛飲家も同じだろう。飲み会でみんなの楽しそうな顔を見ていると、ふと思う。「みんな日頃は他人に気をつかって、遠慮して、ガマンしているのかなぁ」と。だからわたしはお酒好きに悪い人はいないと思っている。そしてそんな人たちと飲むお酒は、楽しくて仕方がない。
ところが、問題は翌日だ。二日酔いになろうがなるまいが、起きた瞬間からひどく気分が落ち込んでしまうのだ。それも毎回、必ず!
とにかく昨晩の自分が恥ずかしいったらありゃしない。別に迷惑をかけるほど泥酔したわけではない(と思う)が、なぜか自分の言動の一部始終が失態のように思えてならない。普段とは違う一面を見せたことで、気持ち悪いヤツって思われたのではないか。そもそも周りは全員冷静で、調子に乗っていたのは自分だけだったのではないか……。そんな自己嫌悪に一日悩まされる。
おそらく、よほどのことをされない限り、楽しく飲んでいる仲間を悪く言う人はいない。実際、同席していた人に昨晩の自分について聞いても、暴言を吐いたとか、誰彼かまわず抱きついたとか、いきなり泣き出したとかいうことはない(あえて内緒にされていたとしたら最悪なのだが……)。だからわたしが感じる後悔は自意識過剰の妄想に近いのかもしれない。
それが分かっていながら、なぜ毎回このパターンに陥るのだろう。
こんなことを考えるとき、わたしはいつも滝のイメージが頭に浮かぶ。高い崖から落ちる水のエネルギーは凄まじく、川底をけずって滝壺を作る。それを思うと、お酒で急上昇したテンションが通常レベルまで急降下することで、心がえぐられるのも不思議ではない。
そう、そこには水圧ならぬ、テンション圧が存在する。楽しくお酒を飲むからには、テンション圧による心の痛みは避けて通れないジレンマなのだ!
……という話を先日少し年上の女性にした。
氏、曰く
「わたし最近まったく後悔しなくなったの。あなたももう少し年をとれば楽になるよ〜」。
うーん、彼女の話が本当だとすると、さっきまでわたしは偉そうに屁理屈を語っていただけということになる。ジレンマなんて、等身大の自分を受け入れることができない未熟さのせいなのかもしれない。
これを読んでいる大人の方々、もしかしてそんなことお見通しでしたか?
ああ、なんと愚かなことか。しかもシナリオに一言も触れず、飲酒の話だけでエッセイを終えようとしている。この後悔から逃れるためには一杯やらないとやっていけない。
たしか冷蔵庫に「麦とホップ 黒」が残っていたはずだが。
次回はシナリオ講座OBで、現在は多方面で活躍されている江口香奈子さんにお願いします。
おわり
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