日本放送作家協会 九州支部
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日本放送作家協会は、放送メディア文化の普及発展と国際的交流をはかり、我が国の文化向上に寄与することを目的とした一般社団法人です。九州支部には九州・沖縄で活躍している脚本家・構成作家40名の会員が在籍しています。
サトウキビ畑とハブ
先日沖縄のハブ捕獲業者に1日弟子入りするという、テレビ番組があった。
わたしは爬虫類が大嫌い!
普段なら絶対に見ない・・・でも、弟子入りするのが贔屓のTOKIOの山口君とリーダーですもん、見ないわけにはいかない。
幸い家族はまだ誰も帰宅していない。大声を出しても大丈夫!
心してテレビの画面と対峙(大げさ? わたしは本気です)
番組が始まってすぐにチャンネルを変えたい衝動に駆られる。
ハブがいる。
イヤ〜〜!! 口あけてる!
咬まれたら死ぬよ山口君! 恐ろしい!
大声に足元で寝そべっていた犬達が、慌てて飛び起き何事かと吠え始める。弱虫な2匹はけっこう吠える。
煩いがテレビの画面では、ハブのいるという穴を掘っている所だ。
犬の事は無視。
ほらほら出てきたよ、ハブ、大きい。
ハブ捕獲の業者は大きな声で、山口君とリーダーに指示している。そりゃそうだ「咬まれたら死ぬのよ、気をつけて」画面に向かって叫ぶわたし。
番組は進み、お次はサトウキビ畑。
収穫したあとの畑に多くいるという。ネズミを狙っているのだ。
キビ畑・・・・・ふっと祖父母を思い出した。
沖縄本島南部・摩文仁の丘のふもとに、母方の実家があった。
サトウキビ農家で、無口な祖父と元気者の祖母。
母も仕事が休みの時、子どもたちを引き連れてキビ畑の手伝いに行っていた。
と言っても子ども達は、キビ畑に入るのは厳禁。
「いいねぇ、絶対にキビ畑に来たらだめよぉ。ネズミが畑に来る、それを狙ってハブがいっぱい来るからね。咬まれたら大変! 死ぬよぉ」
たぶんその時、しっかりと頭に刷り込まれたのだ。
ハブ=死ぬ!
そう言えば大人達は、完全武装というか、真夏でさえ長袖手袋、長ズボンに長靴でキビ畑に行っていたっけ。
その時は何故かジリジリと肌を焼く太陽のせいかと思っていた。いわゆる日焼け防止。
でも、ハブ対策でもあったのだ。
中学生になった頃、さすがに留守番より畑でしょうと、祖母に直談判した事がある。
いつもは優しい祖母が怒った。
「何言ってる、あんたがハブに咬まれたら、みんなが迷惑する!」
サトウキビ農家にとって、キビ畑は生活の糧。
孫を見ながら作業などできないのだ。
それ以来わたしはキビ畑に行くと言ったことはない。
ないまま、祖父が亡くなり、広かったキビ畑ももうない。
テレビの中では、集められた枯葉の中に潜んでいると言っている。
それはキビ刈り取り後の見なれた光景。
でも居た! ニョロニョロと出てくる。
ヒメハブという少し小さめのハブ、猛毒あり。
やっぱり祖母のいう事はほんとだった。
お尻から背中までゾゾーとする。よかった! 手伝いに行かなくて。
さて、沖縄には23種類のヘビがいるという。
その内毒を持つのは8種類、その中でも一番危険なのは4種類・ハブ・ヒメハブ・サキシマハブ・タイワンハブ(外来種)だそうだ。
フムフムなかなか勉強になる。
捕獲されたハブは、大学の研究室に送って研究材料等になるとの事。
テレビの画面は水辺の風景。
編集されているとわかっていても、次々にハブが出てくると、気分が悪くなってくる。
でも山口君もリーダーもへっぴり腰にもかかわらず頑張ってるし、最後まで見ようと思うわたし。
ラストはハブ料理。
ハブの皮と骨をカリカリに揚げた物を美味しいと食べている2人。
それでも、わたしは一生食べる事はないよ! と呟く。
やっと終わった、ほっとする。
お疲れさま〜山口君、リーダー! テレビに声をかける。
犬達も再び鼾をかいて爆睡中。
しかし、こんなにハブに集中したのは初めてだった。
それにしても、ハブ捕獲のためのいろいろな道具に驚かされた。
ついでに、インターネットでハブに噛まれたらどうしたらいいのか調べてみた。
応急手当の方法、咬まれた時のハブ毒吸引器、さらに現在では治療法が改善されたため命を落とすことはほとんどなくなったが、咬まれたあとに後遺症を残す場合もあるという。
そっか、昔と違い無駄に恐れる事はないのだ。
咬まれたらきちんと応急手当てして、即病院に行けば大丈夫。
それに、ハブ用のスプレー(ハブに噴射したら数時間後に確実に死ぬ)、捕獲棒、捕獲器などなど、それなりのグッズがあった。
故郷を離れて気がつけば今年で40年。
その間ハブに関しては、すっかり時間が止まっていたのだ。
マングースはハブの天敵と思い込んでいたのが覆されたのも最近だ。
ある講演会、沖縄の獣医師の話で知った事実。
簡単に言えば、昼型のマングースと夜型のハブでは出会う事が少ない。
そのマングースはあえてハブを探さなくても、目の前にはエサが豊富にあり食べ放題。
昔ハブとネズミ退治のためにインドから持ち込まれたマングースは、人間の思惑どおりにならず、今では沖縄本島の北部まで進出し、ヤンバルクイナなど沖縄固有種の脅威になっている。
ヤンバルの森には、あちらこちらにマングース捕獲用のワナがたくさんある。
それが現実だ。
なので相変わらず、人間はハブと隣り合わせの生活。
以前友人の勤める学校に行った時も、ハブの捕獲棒が玄関の横にあった。
「ここはねハブがよく出るのよ。排水溝の中とか、花壇も草取りしなかったらいるしね。この前なんか教室に入り込んで大騒ぎだったさぁ」
まあしょうがないね、と友人は言葉を続けた。
その学校は丘陵地に建てられていた。
サトウキビ畑だけではなく、こんなに人が大勢いる学校にも出没するとは・・・。
その時ちょっぴり福岡に住んでいて良かったと思ったものだ。
思いがけず今夜は、田舎のサトウキビ畑やサトウキビの甘さ、おととし101歳で亡くなった祖母の事等、たっぷりと想い出に浸ることができた。
ありがとね、山口君、リーダー!
犬が流しに向かって急に吠え始めた。
ここのところ隣の田んぼから出入りしているネズミだ。
それを狙ってたまに青大将やマムシがやって来る!
あれ? マムシって・・・・毒ヘビだったぁ〜!!
終
ちょっと気の弱い二匹です。はるとフータ
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